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ミミミソーダで乾杯を

「良いお話をしている最中になんですが、もう結構な時間ですので、お二人とも本日はこの城ナギにお泊まりください。空腹ではありませんか? すぐに夕食をご用意しますね」

 メル姉がそう言った。

 カーテンの僅かな隙間から覗く窓は、暗闇に覆われている。


「……そうですね。ではお言葉に甘えて」

 トキ王子が言った。


「甘えるも何もこちらがお呼び立てしたのですから、どうぞ遠慮なさらないで。それに、船でなんてさすがに人目についてしまいます。戻られるときには、来た時同様、空間魔法でお送りいたします」

「確かに目立つような行動は慎むべきですね。ジェイド、本日はこちらに泊めていただき、明日空間魔法で送ってもらいましょう。懐古しながら船に乗るのも良いかと思ったのですが、それはまたの機会に」

 トキ王子の言葉に、ジェイド王子は小さく頷いた。



 考えてみたら、今日1日だけで本当に色々なことがあった。

 驚きと緊張の連続。

 わたしは横のテーブルセットに移動し、端の椅子に浅く座る。

 少しだけ、疲れてしまった。


「そういえばお前、今日は満足に昼食を取らなかっただろう」

 ライルさんが言った。


「見ていたんですか?」

「見なくても分かる」

「セリア、もう悩むことはないわ。夕食はいっぱい食べてね。ではみなさま、ダイニングへ移動しましょう!!」

 メル姉が笑って言った。

 どうしてそんなに元気なのだろう。

 元気なメル姉につられて、わたしも笑ってしまった。


「俺は失礼します」

 ライルさんは一礼した。

 そしてそのまままっすぐに扉へ向かっていく。


「駄目よ、ライル。一緒に乾杯するのよ」

 メル姉はライルさんの腕を掴む。


「しかし」

「命令です」

「……承知しました」

 ライルさんは機械的な声で返す。


「彼女が居れば、これからのカナンは安泰ですね」

 トキ王子は楽しそうにそう言った。


「僕は必要なくなるかもしれません」

 ジェイド王子が返した。


「ジェイド王子、何を言うのですか。確かにメル姫は誰よりも強い女性ですが、脆いところもあるのです。特にセリア姫のことに関しては……。動かない妹君の体を大切にお世話しながら、誰よりも痛嘆してきたのです」

 ライルさんが低い声色で話す。


「……冗談ですよ。勿論分かっています。僕たちはずっと長い間、同じくセリア姫を愛してきたのですから。だからメル姫が僕を信頼して、大切なセリア姫を任せようと思ってくれたことが嬉しかった。こんなことになるなんて想像もしていませんでしたが、これからは僕がメル姫を守っていきます。優しい妹想いの姫君を。そして、ずっと一緒にセリア姫を愛していきます」

「婚姻しようと、そこは引きませんね」

 トキ王子は呆れた声を出した。


「そうよ。誰がセリアを一番愛しているか、これからも競っていくのよ」

「それはある意味、トキ王子より怖いですね」

 メル姉の言葉に、ライルさんは笑みを返す。


 みんな優しいな……と思った。

 まだ自分が女王になるなんて考えられない。

 でもみんなからもらった優しさを、これから少しずつでも返していきたい……。






 ダイニングには普段よりずっと豪華な食事が用意されていた。

 いつもの食事だって豪華だけれど、ボリュームや彩がいつもとは全然違う。良い色にローストされたお肉やお魚は切り分ける前で丸ごと。野菜は何層にも重ねられ、繊細なグラデーションになっている。

 また、一つ一つの料理にソースが何種類もあったり、スープの中に模様が描かれていたり。

 別のテーブルには、色とりどりの飲み物とデザートがバイキングみたいにずらりと並んでいる。


「これは素晴らしい」

 豪華な食事に慣れているであろうトキ王子も感嘆の声を上げた。


「まず、ミミミソーダで乾杯しましょう」

 メル姉が言った。


「え? ミミ?」

 わたしは聞き返す。


「ミミじゃなくてミミミ。貴重なミミミの実を使ったお祝い事にぴったりな飲み物よ」

「ミミミはナギ国の特産品です。ナギで改良してできた植物ですから他国にはありません。仮にカナンで栽培の許可を得ても、ミミミの木は高山でしか育ちませんので、高山のないカナンでミミミの実を収穫するのはかなり難しいはずです」

 トキ王子が説明する。


「兄上は勉強熱心ですね」

「お前だってそれくらいの知識はあったでしょう」


 自国のことなのに何も知らない自分が恥ずかしい。

 侍女さんたちが、ミミミソーダの入ったグラスを全員に配る。



「これからのセリアとサイネリアに、乾杯!!」

 メル姉がそう言ってグラスを掲げた。

 みんなグラスを掲げる。乾杯といってもグラスをぶつけ合わせるわけではないようだ。

 わたしもみんなに合わせてグラスを掲げる。

 ミミミソーダは、綺麗な薄オレンジ色。

 一口飲むと甘くてしゅわっとした。



 食事に手をつける。

 何を食べても美味しい。

 決してお腹が空いていたからではない。


「これ、おいしいですよ」

 隣の席のライルさんに勧めると、彼はわたしと同じものを食べてくれた。

 嬉しい。

 少しふわふわする。


 侍女さんがわたしの空になったグラスを下げて、次の飲み物を聞いてきたので、わたしはまた同じ飲み物をお願いした。



「大丈夫か?」

 ライルさんがわたしを見ている。


「何がですか? ミミミソーダってとっても美味しいですね」

 わたしは、新しいグラスを空にした。


「そんな一気に……。度数は弱いが酒だぞ」

 ライルさんが慌てている。

 やっぱりなんだか、ふわふわする。

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