表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神がかり!  作者: ひろすけほー
54/101

理由 前編

挿絵(By みてみん)

第40話「理由」 前編


 学園指定の制服を着用した美少女が、旧式の携帯電話であるガラケーを片手にこちらに走り寄って来る。


 「待てって言ったわよね?わたし、言ったわよね!?」


 利発そうな瞳を大きく開き、憤懣(ふんまん)やるかたないといった表情で息を切らせながらやって来た少女。


 制服姿で生真面目(きまじめ)そうなその美少女は、永伏(ながふし)に跨がった状態の俺の直ぐ傍まで来ると、当然の如く不機嫌に俺を睨みつける。


 「今時ガラケーかよ」


 そして俺は、色々と無視(スルー)してその女を見上げていた。


 「だぁかぁらぁっ!!どの口が言うのよ!どの口がっ!」


 怒り心頭の美少女は喚き散らしながらも、”地面に落ちていた”というか俺が意図的に落とした、自身のスマートフォンを拾い上げる。


 「……」


 然る後、暫し俺を見下ろして黙る。


 ――なんだ?


 「あ、あの……ね」


 「……」


 ――だからなんだ?一転してその控え目な表情(かお)は……


 「だ、だから……」


 ――はあ?モジモジと……


 学園指定の制服をキッチリと着こなし、もう定番(トレードマーク)ともいえるピンクのカーディガンを羽織った真面目そうな美少女は、時折俺から視線を泳がせながらも途切れ途切れに言葉を発しようとする。


 「さ、朔太郎(さくたろう)、あの……電話をくれたときの貴方の忠告通り、東外(とが)の家の守りを固めていたのだけど、その……貴方の予想通りに怪物になってしまった岩家(いわいえ)先輩と御端(みはし) 來斗(らいと)に襲撃されたわ」


 「……」


 「わ、私が天都原学園(ここ)に来る途中で東外(うち)からそう連絡が入ったの。あっ!?い、一応、東外(とが)の”天孫(てんそん)”は私が所持しているから無事だったわ」


 真理奈(まりな)はちょっと落ち着き無くそう言いながら白い首筋から髪をかき上げ、右の耳朶(みみたぶ)に光る赤いピアスを見せた。


 「おまえ……俺は出来るだけ強固に守りを固めて出歩くなと……」


 わざわざ忠告してやったにも拘わらずフラフラと夜の街を出歩く目前の少女に呆れる俺。


 「け、結果的に!!”天孫(てんそん)”が無事だったのだから良いでしょ……そ、その……”わたし”のこと、し、心配してくれたのは……あの……”ちょっと”だけ嬉しかったけど……」


 「……」


 ――心配……ね


 俺は目前で白い頬を朱に染める美少女を見上げながら思った。



 岩家(いわいえ)の家にある“天孫(てんそん)”は既に襲撃されて奪われたらしい。


 学校(ここ)に来る前の電話での真理奈(まりな)との会話でそう伝え聞いた俺は、奴らの次の一手を推測し、真理奈(まりな)に守りを固めて家を出るなと伝えていた。



 ――で


 結果、その通りになったようだが……


 この少女(おんな)はフラフラと、不用心にもほどがある。


 「……ふぅ」


 とはいえ――


 俺は真理奈(まりな)を心配してと言うより、敵にこれ以上の力……


 つまり”天孫(てんそん)”が渡ってパワーアップされるのを防ぎたかったわけで、真理奈(まりな)のこと自体は結構どうでも良かったのだが。



 「そ、その……し、心配だったのよ。わ、私も……天都原学園(こっち)が……別に朔太郎(アンタ)がとかじゃないから!」


 思考に集中しすぎて思わずジッと彼女の顔を凝視してしまっていた俺の視線に、益々赤くなりながら意味不明に取り乱す美少女。


 「……」


 ――まぁ……良いか


 結果、東外(とが)の”天孫(てんそん)”とやらは守られたようだし、この少女(おんな)も……


 ――まぁ、一応は無事で……な


 俺は柄にも無くそんな感想を抱きながら、未だ意識怪しく寝転がったままの永伏(ながふし)の上からスッと立ち上がっていた。



 「み、御端(みはし) 來斗(らいと)東外(とが)を襲撃!?それって真理奈(まりな)!どういう!?」


 そして状況がサッパリ飲み込めないだろう波紫野(はしの) 嬰美(えいみ)此方(こちら)に駆け寄り、早々に疑問を口にする。


 「嬰美(えいみ)さん、守居(かみい) (てる)岩家(いわいえ)先輩を懐柔して、彼女に近寄る学生達を排除していたという話は……」


 東外(とが) 真理奈(まりな)は表情を作り直し、波紫野(はしの) 嬰美(えいみ)の方を向いて話す。


 「永伏(ながふし)さんから……聞いているわ。だから……岩家(いわいえ)先輩は”怪物(あんな)”になる前、謹慎ということに……」


 彼女には珍しく、歯切れ悪く伏し目がちに後輩へと答える嬰美(えいみ)


 ――友達であったはずの(てる)の強かな行動……


 それを非難するには、守居(かみい) (てる)に対して”六神道(ろくしんどう)波紫野(はしの) 嬰美(えいみ)”自身にも秘密が多すぎたからだろう。


 自身の心がどうあろうと、(てる)のことをどう思っていようと、


 六神道(ろくしんどう)の家命で守居(かみい) (てる)を監視していた事には変わりが無いからだ。



 「はい、そうですね。それで岩家(いわいえ)先輩のその後の消息が掴めなくなった後、最後に接触した御端(みはし) 來斗(らいと)が怪しいと極秘に東外(とが)が調べていたのですが、岩家(いわいえ)先輩失踪のその前に波紫野(はしの)先輩に依頼された内容も御端(みはし) 來斗(らいと)を調べて欲しいという事だったので……」


 「え?(けん)……が?」


 突然出てきた弟の名に、まさかと言う顔をする嬰美(えいみ)


 「御端(みはし) 來斗(らいと)はね、どうやら入学時から危険視されていた守居(かみい) (てる)をわざと泳がせて六神道(ろくしんどう)の長老達を焦らせる状況を作り、最終的には強硬手段に打って出るように画策していたんだよ……真理奈(まりな)ちゃんのおかげで色々と裏もとれた」


 そこへ遅ればせながらやって来た、波紫野(はしの) (けん)が女二人の会話に割って入る。


 「(けん)……」


 「ごめんね、嬰美(えいみ)ちゃん。実は僕も怪しい動きを見せる御端(みはし) 來斗(らいと)を調べるよう、それに気づいた長老達から依頼されていたんだよ。もう随分と前からね……嬰美(えいみ)ちゃんに相談するのはちゃんとした裏が取れるまではと思ってね。だけど流石は東外(とが)だね、仕事が早い」


 「まぁ、仕事ですから」


 褒められて一瞬、満更でも無い表情(かお)をした真理奈(まりな)であったが、すぐに表情を引き締める。


 「御端(みはし) 來斗(らいと)がなぜ、六神道(ろくしんどう)の強行派を煽ったのか?また守居(かみい) (てる)はなぜ、自身に悪い噂がたってでも岩家(いわいえ)先輩を使って他人を遠ざけていたのか?現状ではわからない事だらけだけど……」


 頷いてから波紫野(はしの) (けん)は、今度は此所(ここ)に居る全員に話すように見渡しながら続けた。


 「女生徒を拉致して岩家(いわいえ)先輩をあんな怪物に仕立て上げた御端(みはし) 來斗(らいと)六神道(ろくしんどう)の禁忌に触れるような、とてつもない”力”を御端(みはし) 來斗(らいと)が個人でどこから手に入れているのか?長老達が恐れる守居(かみい) (てる)の一年前の天都原(あまつはら)学園入学、まぁ、言っちゃ悪いけど……”ほたる”ちゃんの素性と学力じゃ名門の天都原(あまつはら)に入学できるとはとても思えない。で、東外(とが)の諜報力で調べて貰ったら案の定だったわけだよ」


 「……」


 ――犯罪者の子供は所詮……ってか?


 ――確かに学力的に特待生でもない(てる)の入学は金銭的にも疑問が残るからな


 「……はは」


 波紫野(はしの) (けん)はここまでの調査の内容を披露するが、俺の……


 ちょっと”険のある視線”に気づいたのか、申し訳なさそうに笑って誤魔化す。


 「……」


 ”別に俺には関係ない”


 それに対し、そういう”ぶっきらぼう”な視線を返す俺に、さらに苦笑いを浮かべたままで波紫野(はしの) (けん)は続けた。


 「そもそも一年前の守居(かみい) (てる)天都原(あまつはら)学園入学時点で誰かそれに関わった人物がいるはずだろうと……で、つまり御端(みはし) 來斗(らいと)守居(かみい) (てる)、二人の間の繋がりが明らかになった」


 ――なるほど……ね


 つまりこの計画の開始は既に一年以上前からで、御端(みはし) 來斗(らいと)(てる)を利用し、(てる)御端(みはし) 來斗(らいと)を利用したと。


 「御端(みはし) 來斗(らいと)の目的はなんなのですか?私が調べた限り、御端(みはし)会長の生い立ちから推測して御端(みはし)家への復讐……でしょうか?」


 真理奈(まりな)の質問に(けん)が頷く。


 「多分ね。皆も知っての通り、御端(みはし) 來斗(らいと)の母は英国人である父親と駆け落ちして御端(みはし)の家を捨てた……で、その父が亡くなるまで、中学までは英国で過ごした彼は急遽跡取りが必要になった御端(みはし)家の都合で呼び戻され……」


 ――皆も知っての通り……ね


 当然、部外者の折山 朔太郎(オレ)は知らかったが、六神道(ろくしんどう)の各家では有名な話らしい。


 名家とか旧家とかとは縁の無い、何処(どこ)の馬の骨ともしれない俺には興味も無い話だ。


 ――が!ここまで関わった以上は別だ!


 「親父は既に死んだんだろ?なら御端(みはし) 來斗(らいと)とやらの母親はその後どうした?」


 突然の俺の質問に三人は一様に表情(かお)を曇らせる。


 「……」


 ――ああ、そういうことか


 俺はその反応だけで大体のあらましを理解していた。


第40話「理由」前編 END

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ