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魔王軍の幹部になったけど事務仕事しかできません  作者: 悪一
2-3.たとえそれが誰であっても
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問題ありません。何も、問題ありません

2話同日更新(1/2)

次話は15時予約投稿。

 震災から六日経った。


 魔都に戻ってきたばかりの俺を待っていたのは、仕事の山と兵站局のみんな。

 承認待ちの書類を丁寧に読みつつサインし、立山連峰並に積まれた書類の束を少しずつ減らそうとした。


 仕事をすれば忘れるだろう。


 そんな希望を抱いて仕事に励んだが、やっぱり心は正直だった。仕事に手がつかないのだ。

 片付け終わった、と思っても、エリさんから計算の単純ミスやらを指摘される始末だ。


 どうにもやる気が出ない。


 でも、それに関して深く追及してくる局員はいなかった。

 エリさんも、ユリエさんも、リイナさんも何も言ってこない。


 ソフィアさんも相変わらず、俺と会話することなくユリエさんと漫才をしつつテキパキと仕事をしている。


 こういう気持ちの時は、彼女らの態度はありがたい。


 深く追及されても答えられないし、答えたとしても彼女らに迷惑がかかるだろう。


 敵であるはずの人類を、被災者だからと言う理由だけで助けたいだなんて、利敵行為の売国奴のすることだと罵られても仕方ない。

 上司がそんなんだったら普通嫌だろう。


 だから今は、彼女らに甘えて仕事をしよう。




 が、結局この日はノルマを達成できなかった。


 攻勢作戦における補給計画の変更もやらなくちゃいけないし、溜まっていた仕事は多い。

 やれやれ、こりゃ残業だな。


 でも一から百まで自分が悪いから誰にも責めることはできない。まさに自業自得。


 当直以外の局員を返した後は、適当な理由を付けて執務机に座って楽しいお仕事である。


 だがサビ残するのにも、ここで多少工夫をする必要がある。

 当直局員の中には、俺が無断残業をしていることをソフィアさんに密告するのだ。


 それをやられると色々面倒なことになるので、当直員が溜めている仕事を少し手伝ったりコーヒーを淹れたり、差し入れを持って来たりするのである。


 そうすることで「局長が残業すると自分が楽になる」という意識を植え込ませられるわけだ。


 おい誰だ、賄賂って言った奴。

 泣く子も黙る「保管期限どころか賞味期限が切れた数トン分の腐りかけの食糧を、鼻をつまみながら土に埋める作業」をさせるぞこの野郎。


 まぁ、冗談はさておき、やるべきことをしよう。


「当直以外はもう帰って大丈夫ですよ。お疲れ様です」


 今日の当直士官はユリエさんか。

 なら、なんとかなるだろう。何も問題はない。何も、ね。




---




 アキラ様の様子がおかしい。


 いや、それ単体では別に珍しい事ではありません。この人はいつもおかしいです。


 ですが今回は「おかしい」の種類が違いました。


「おーい、局長さん。ニシナ地方の小麦の件だけど……って、おーい。返事しろー」

「…………」

「殴るぞ?」


 例えば今のように、ユリエ様の存在に顔面を殴られるまで気付かないと言うことは今までありませんでした。


 なんと言いますか「心ここに非ず」と言った感じでしょうか。

 仕事の進みも遅い――のはいつものことですね。溜め息ばかりで覇気がない――のもいつも通りでした。

 ……えーっと、とにかく変です。


 前線で何があったのか。


 一番詳しいであろうスオミ様に聞いても


「更迭じゃないとは聞いてますけど、それ以外は……」


 とのことです。

 後方に下がったことでやる気をなくしているわけでもない。


 なら、どういうことでしょうか?


 気になって仕事ができません。


 ……あ、いえ、気になるというのは「アキラ様の仕事が遅いとこちらも仕事が溜まる」というだけであって別に深い意味があるとかそういうものではなくもっと単純な意味で――、


「おい、ソフィアさんもオレを無視するのか!?」


 いけません。つい思考の土壺に入ってしまいました。


「え、はい、すみません。なんでしょう?」

「全く二人して仲の良い……。あぁ、まぁいいや。局長さんが腑抜けてるから代わりにこれの確認してほしいんだ」

「わかりました。後で、でいいでしょうか?」

「いいぜ。……あと、アレどうにかしてくれると嬉しいんだけど」


 そう言って、ユリエ様はアレ、もといアキラ様を差します。


 どうやらまた魂が天へと旅立ったきり戻ってこないようです。


 ……また、ですね。

 見ているこっちが不安になります。こういう時はどう話しかけて良いものなのか……わかりません。


「アキラ様には、アキラ様の考えがあるのです。だから、アキラ様の方からその考えを言うまでは何も致しません」


 だから、私は今までと同じ選択をしました。


 アキラ様が何か深く考えているときは、得てして突拍子もない事です。

 なぜ黙っているのか、と言うのも彼自身が何度も口にしています。


 つまり「迷惑じゃないか」ということです。


 そのことに関しては、私は何度か言いました。「やめてください」と。

 でもアキラ様はその後も平然とそれを続けます。


 それが、アキラ様の――ある種の優しさなのでしょう。


 私は……いえ、私たちは、その優しさに少し甘えています。

 それによって、今までは何とかなりました。


 兵站は回り、業務は一応進みます。

 その時々、アキラ様が改善点を見出して、調整に調整を重ねて、実行します。

 何も問題はありません。何も――。


「当直以外はもう帰って大丈夫ですよ。お疲れ様です」


 ……もうこんな時間ですか。最近の時の流れは速すぎます。


 アキラ様がいない間は「早く帰ってこないでしょうか」「無事で帰ってきたらいいのに」と何度も願うくらい時の流れは遅かった。

 もっと時の流れが速くなってほしいとも祈りました。


 でも、求めていたのはこんなのではない、と思います。


 何がどうなのかは、わかりません。


「はぁ……んっ、くぅ……」


 腕と背筋を伸ばし、身体を脱力させます。


 考えても仕方ありません。私は私の仕事をするだけです。また明日頑張りましょう。

 出来ればアキラ様とも会話をして。


 今日の当直はユリエ様ともう一人の局員。


 でも今日は三人体制になりそうですね。

 そういうことはやめてくださいと何度も言いましたが、アキラ様は「向こうではこれが普通だったから」と言ってやめません。


 一人一人働き方は違いますから、あまり深くは追及できません。

 もしそれが無理なら、アキラ様の方から言ってきてくれるでしょうし……。


「ちょい、ちょいちょい」


 などと色々考えていたら、遠くの方で私を招く声と仕草が。

 それはユリエ様で、どう見ても子供が遊びを誘っているようにしか見えません。


「なんでしょうか?」

「ん、ちょっと話があるんだ。ちょっと付き合ってくれないか?」

「は、はい? 今からですか?」

「今からじゃないとダメなんだ。だから、な? とりあえず休憩室行こうぜ」


 いやいや、何を言っているのですかこの人は。


 あなた今日当直ですよね?

 なのに今から話って。当直を一人にさせて大丈夫なんですか。


「大丈夫大丈夫。もう一人の方も今日は帰しといたから」


 あの、大丈夫じゃないです。


 大丈夫な要素がひとつも見当たりません。


 ですが私の抵抗虚しく、私はユリエ様に手を引かれてどこかへと連れ去られました。

 そして私の後ろには、嘆息しながらリーデル様とスオミ様がついてきます。


 あの、その、お仕事の方は……?




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