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魔王軍の幹部になったけど事務仕事しかできません  作者: 悪一
2-1.魔王軍は遅れてる
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兵器? いいえ、妖怪です

 さて、魔王軍戦闘部隊が求めているのは「人類軍の塹壕を突破する兵器」である。


 地球においては、その答えとして「戦車」や「化学兵器」などの新兵器、あるいは浸透突破や空挺降下などの新戦術などが考案されて戦果を挙げている。


 魔王軍においては、レオナが開発した「魔像」がひとつの回答例となった。


 だが魔像には欠点がある。


 基本的に魔像は二足歩行であるため、平原での戦いでは的になりやすく不利、という点だ。

 反面、二足歩行であるがために、歩兵と同じく戦場を選ばない圧倒的な機動力と柔軟性を持っているが。


 そのことに関して、かつてマッドなレオナに聞いたことがある。

 つまり戦車みたいな兵器を作らないのか、ということだ。


 ペルセウス作戦の後だったから、レオナも前線で戦車の姿を見ていたおかげで説明は楽だった。


 でも、彼女の答えは些か期待外れだった。


「無理ね」

「なんで? 二足歩行を実現するほうが難しくない?」

「なんでアキラちゃんがそう思うのかよくわかんないわ。二足歩行の方が簡単じゃない?」

「えっ?」

「えっ?」


 なにそれ、こわい。


 つまり魔王軍においては、戦車の不整地踏破能力と装備や装甲の追加による重量増加に耐える「無限軌道(キャタピラ)」の方が、二足歩行なんかよりも必要技術レベルが高いということ。


 確かに無限軌道を再現できなければ戦車を夢想するのは無駄か。

 装甲装輪車ではどう頑張っても戦車を超えられはしないのだ。


 故に魔王軍は「平野部における人類軍防衛陣地(塹壕)を突破できる兵器」を渇望していたわけである。


 レオナはそれに対して、魔像の防御を強化することで答えた。


 対するミサカ設計局の幼女、ヤヨイ・ミサカさんの場合はと言うと……。




---




「はい。というわけで前半戦が終了したわけだけども、解説の局長さん、どうだった?」

「なんでユリエさんがサッカー実況っぽい言い方をしているかを解説してほしいです」


 敬語を使わないジ○ン・カ○ラっぽい喋り方だった。

 当然、ユリエさんはその人のことは知らないはずどころかサッカー事態を知らないはずである。謎は深まるばかり。


「いやー、にしてもレオナさんが普通の兵器作ったせいで盛り上がりが欠けたよね」

「盛り上げるために兵器作ってるわけじゃないから」

「レオナさんの良さが失われてると思わない?」

「思わない」


 むしろ積極的に失ってほしい。


「ソフィアさんはどう思う? レオナさんの魔像」

「普通で良いと思います」

「……他に何か感想ない?」

「そうですね。早く帰りたいです」

「奇遇ですねソフィアさん、私も早く帰りたいです」

「もうこいつらノリ悪くて嫌だなぁ……」


 マイクが拾うユリエさんの声は、本当につまらなそうなものだった。


 ガチンコバトルを予想していた陛下や観客たちも同様であり、事実上のイベント主催者のエリさんに詰め寄るのである。


「盛り上がるイベントだなんて私は一言も言ってませんわよ! 文句は私に言わないでください!」


 そしてキレていた。


 表向き彼女は賭博の受付の人なので、その言葉はだいたいあっている。


 リイナさん?

 あぁ、コーヒーは美味しいですよ?


 ソフィアさんの淹れたコーヒーの方が美味しいから五〇〇ヘル出した甲斐はないけどね。


「仕方ない。――ミサカさん、頼むぜ!」

「は、はい!」

「よぉし! つーわけで、青コーナー! ミサカ設計局の新兵器の登場だぞお前らああああ!」

「「「「おおおおおおおおお!」」」」


 ヤヨイさんが力強く拳を握り、ユリエさんの司会に対して今一盛り上がりの欠けていた観客たちの息が吹き返った。


 一方で俺は、ちょっと期待していた。

 というのはかつてヤヨイさんは「魔像のような複雑な機構を持った兵器」の再現すらできないと言っていた。


 つまり、彼女は機構が簡単な兵器を持ってくる公算が高いということで、それは兵站局にとって「兵站上の有利」となるのだ。


 ダウロッシュさんが、収納魔術によってミサカ設計局期待の新兵器を取り出す。


 それが出てきた瞬間、観客たち……いやその場にいた全員が、つまり陛下も、ユリエさんも、エリさんもリイナさんもソフィアさんも、全員が頭の上に疑問符を浮かべたのである。


「「「……はい?」」」


 と。


 ユリエさんもコメントに困ったのか、何と表現すればいいかわからないそれに司会業務を半ば放棄した。


「な、なんだあれ? あれが新兵器か?」

「どうみても魔像ではありませんよね……?」

「どういう兵器かすらわからん」


 皆が口々に喋るのは「なんだこれ」という反応の声である。

 見た目は奇抜そのもの。魔像の影響を受けていないことが見ていてわかる。


「い、いやー。随分と意外な物でてきたなぁ……」


 ユリエさんがやっと出した言葉はそんな感じである。それくらい困惑しているのだ。


 まぁ、その気持ちはよくわかる。

 何せ一番困惑しているのは俺だからな!


「……アキラ様? 顔が変ですよ?」

「ん、あれ、本当だ。局長さん、なんで口を真一文字にしてるんだ?」

「えぇ、あぁ、いや、なんでもないです……」

「ふーん、ならいっか。……えーっと、じゃあミサカさーん! その新兵器の紹介してくれ!」


 すぐに興味の対象を移したユリエさんは、ヤヨイさんにそう振った。

 ヤヨイさんはそれに緊張しつつも答える。


「あの、これは私たちミサカ設計局の新兵器、XGW69です。特徴は、今までにないコンセプトで開発したの。……愛称とかは考える暇なくて、まだない……です」

「ほほう、なるほどねー。でも愛称ないのは面倒だなぁ」

「……よかったら、アキラさんに決めてくれたら嬉しいな、って……」

「だってよ、局長さん」

「…………」

「局長さん?」

「えっ? あぁ、すみません、考え事してました。なんです?」

「おいおいちゃんと聞いとけよ。愛称考えて欲しいってさ」

「迷惑じゃなかったら……お願いします」

「いや、大丈夫ですよ」


 愛称、愛称ね。うん。大丈夫。


 ここで俺は日本風の名前を、例えば「サクラ」とか「ヒガンバナ」って命名すればよかった。


 でもヤヨイさんの作った新兵器を見て、俺は陛下と相談して作った命名規則を思い切り無視した名前を付けてしまった。


 おぉ、神よ。この世界に居るかは存じ上げませんがひとつだけお願いします。




「――ぱ、パンジャンドラムで」


 どうかイギリス人には、適切な量の紅茶を与えてください。


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