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魔王軍の幹部になったけど事務仕事しかできません  作者: 悪一
2-1.魔王軍は遅れてる
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こんなこと聞いてません!

 そしてトライアル当日。

 会場となったのは魔都郊外の魔王軍防衛隊駐屯地。


 兵站局から数名、戦闘部隊から数名が参加。さらには一等席に魔王陛下が座っている。


「やあ諸君、元気にしていたか!」

「「「おおおおおおおおお!」」」


 ――万単位はいようかという魔都の住民の声に答えるように手を振りながら。


 魔王陛下ばんじゃーい。


 いや、陛下の人気が高いことはいいことですよ。陛下がトライアルを見学するって言う噂が広まった段階で覚悟してたからさ。


 それはいいのよ。

 問題は別なのよ。

 しかも複数あるのよ。


「お前ら盛り上がってるかー?」

「「「いえええええええええい!」」」

「うるせぇ!」

「局長さんノリ悪いぜ?」

「そう言う問題じゃない!」


 一つ目。ユリエさんがノリノリである。そしてなんか司会やってる。


 どこぞの研究所が開発した、声を魔力に載せて広く伝える魔道具……まぁ要はマイクを使っていつもの調子でしゃべる。


「そうは言ってもよ局長さん、もうなっちゃったもんは仕方ないだろ? 今更『帰れ』とも言えないし」

「事後承諾じゃねぇか」

「いいからいいから。それにほら、陛下の許可はちゃんと取ったぜ?」

「陛下の前に俺の許可取れよ! なんで当日になるまで俺が知らないんだよ!」

「知ってたら確実に止めてただろ?」

「当たり前だ!」


 第一、トライアルというのは字面は面白そうだが絵面は凄い地味なのだ。

 そりゃ、兵器好きにはたまらないだろうけど、競馬や競輪みたいな競技じゃない。


「まぁ最近の魔都は娯楽すくねぇし、いいじゃないか。な?」

「はぁ……」


 酷いだろこの軍隊?

 これでも結構マシになったんだぜ?


 頭を抱えながら、本来はあってはいけない観客席の方を見る。


 多種多様で有象無象の魔都の住民がいるのはもう諦めるとしても、それを取り仕切って煽って暗黒武闘会じみた実況をするユリエさんを許すとしても、見逃せない物がありまして。


 観客席の中央上段部分、いつもはテキパキと仕事をこなし銅貨一枚も見逃さない手腕を見せる、我が兵站局の経理担当のエルフが、歓声に負けない澄んだ声で叫んでいた。


「さぁ、もうすぐトライアルが始まるわ! 魔王軍開発局が開発した試作魔像XSG69か、それとも天才幼女ヤヨイ・ミサカが設計した新兵器XGW69か! どちらが勝つかは全くもってわからないわ! さて、みんなどっちに賭けるのかしら!?」


 包容力のあるその体躯は見ているだけで癒されるが、今回ばかりは見ててだんだん悲しくなってくる。


「俺はレオナちゃんの魔像に一万……いや二万ヘル賭ける!」

「なら私は五万賭けるぜ!」

「いや、設計局の設立には兵站局とやらが深く関わってるらしいからな。判官贔屓するかもしれんしオッズも高い設計局に三万ヘル!」

「みなさん落ち着いて。順番に、順番にね?」


 問題その二、エリさんが賭博を仕切っていた。

 そして賭けに盛り上がる男衆に動揺せず、事務仕事を行っているときのように華麗かつ正確に馬券みたいな紙を配っている。


 俺はユリエさんのマイクをひったくり、彼女に向かって叫んだ。


「そこ、何やってんですか!?」

「見ての通り賭博ですわ!」

「胸張って何言ってるんですか!」

「陛下の許可は取りましたわ!」


 陛下ァあああああああ!!


「すまんなアキラ、面白そうだったから、ついな」

「適当すぎますよ!」

「いいじゃないか。別に賭博は犯罪と言うわけでもないのだから」


 む。そうか。

 なら止める理由はない……ないのかなぁ。


「ちなみに私は開発局に一〇万賭けたぞ!」

「圧力かけないでくださいよ!」

「私のことなど気にしなくていいぞ! 一〇万なんぞ大した金額ではない!」


 陛下ならそうかもしれないけど一〇万って結構な額ですよ……。


 あぁ駄目だ、頭痛くなってきた。


 たぶん今回のこの騒ぎ、エリさんが主催だな。

 射幸心を煽り賭けごとに熱中させ、その金で国立墓地拡張費用に充てるつもりだろう。


 なんという商魂の逞しさ。流石元商会の番頭さんである。


 俺の胃がキリキリし始めたことを除けば完璧だ。ぜひともその逞しさを何か別の所で発揮してほしい所である。


 なるほど、かつてレオナに課せられた精神力性能評価試験というのはこういうものだったのか――と今更ながらに理解した。


 机に突っ伏する俺を見て、流石にやるせなくなったのだろうか。

 どこからやってきたのかリイナさんが来てくれた。天使か。


「局長様、何か飲みます? コーヒーとか……」

「あぁ、お願いします」

「わかりました。コーヒーは五〇〇ヘルです」

「はいはい。えーっと、一〇〇ヘル大銅貨はどこいったっけなぁ」


 にしてもコーヒー一杯五〇〇ヘルというのは魔都の物価を考えるとちょっと高いな。野球場価格と言った感――って、あれ?


「……お金?」

「はい。あ、それとも紅茶の方がよかったですか……?」

「いや、そういう意味じゃないです」


 なんてお金が必要なの? いつの間にか有料制になったの?

 しかも野球場か映画館か遊園地かみたいな価格で……。


「もしかしてこれ、金策の一環ですか」

「えっと……はい、そうです……。保管期限が切れかけている物資は捨てるか安く市井に流すのだから、そんなことするくらいならここで売ってしまおうって……」

「誰が言ったんですか?」

「…………」


 リイナさんは若干涙目になりながら、有象無象のギャンブルに熱中する男衆を捌いているあるエルフの女性を指差したのである。


「…………」

「…………」

「……これ五〇〇ヘルです」

「え、あ、はい。ありがとうございます」


 もうどうにでもなれ。


 数分後、ソフィアさんが遅れて会場に入り、目を白黒させながら俺の隣に座った。

 その様子じゃ彼女も知らなかったらしい。知ってたら止めただろうことは想像がつく。ソフィアさんは良い人だよ、本当に。


「なにがどうなってるんですか、アキラ様」

「聞かないでください。虚しくなるだけです」


 胃の痛みを抑えながら、ついにトライアルが始まる。

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