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開発局という魔物

 補給物資の要請は正式な文書で行うこと。

 それを通知する旨の文書が各部署・各方面へと送られた。


 しかし通達した瞬間それが全軍で一気に開始されるわけでもない。そこで3ヶ月を猶予期間として設けた。


 その間、俺とソフィアさんは必要な準備をする。

 まず、前線ではどのような物資がどれくらい必要なのかを把握する事だ。


「ゴブリンやオークは魔術的才能に優れていませんが、その代わり人間の数倍の筋力を保持しています。そのため工兵隊や輸送隊を中心に配属されています」

「へぇ、前線で戦うイメージありますけど違うんですか」

「優秀なオークやゴブリンは前線部隊で戦いますよ。しかし今の時代は魔力戦が戦争の主で、魔術的才能に優れていない彼らにはやることがないのです」


 それに数だけを確保するなら簡易的な魔像を錬成すればいいですし、とソフィアさんは続ける。


 魔術を主体とする戦いでは、彼らの役目は少ない。

 さらに言い方は悪いが、知能があまり高くない種族であるために一般事務ができない。まさに蛮族。


 でも仕方ないことだ。


 今の魔王軍は魔術を重点に置いた魔力戦重視ドクトリンで、人類軍は機械力に頼った火力戦重視ドクトリンを採用している。

 そこに筋力が割り込む隙はない。


 しかし輸送隊や工兵隊という地味ながらも極めて重要な部隊で彼らは頑張っている。それを蛮族だなんだと批判することは俺にはできない。


 いや本当に立派だなって思ってるよ。信じて。


「他の種族はどうですか? 獣人やエルフとかもいるんでしょう?」

「はい。ですが専門的な事は私にはわかりませんので、ここはやはり専門家に聞いた方がいいかと」


 ということで、ソフィアさんから聞いたその専門家がいる所に来た。


 俺やソフィアさんが働いている兵站局は魔王の根城、魔王城にある。

 魔王城は魔都「グロース・シュタット」の中心部に位置している無駄に巨大な城で、魔王軍総司令部も併設されている。


 しかし、ソフィアさんから聞いた専門家のいる場所は魔王軍総司令部にはなかった。

 魔王城の中庭に近い、魔王軍開発局という部署が今回の目的地で、専門家のいる場所である。


 なんだか総司令部と切り離されていて、ソフィアさんが同行していないという時点で色々と嫌な予感がするのは気のせいだろうか。


 それに開発局の前に来た途端、その部屋の扉にすごい違和感があった。なぜって、扉が新品同様なのに、開発局と書かれた札がやけにぼろいのである。


「……ここがあの女のハウスね」


 いや女かどうか知らんしハウスじゃないけれども。


 とりあえず何故か知らないが焦げた跡がある扉をノック。

 気分的にはラスボス部屋前。

 セーブしたいがそんなお茶目な機能は未実装。だから身構えてしまった……のだが、


「…………」


 返事がない。ただのドアのようだ。


 しかし扉に耳を当ててみると、声やら物音やらが聞こえる。ノックの音が小さかったのか、それとも声をかけた方が良かったか、いっそのこと無許可で入ってしまおうかと逡巡したそのとき。


「――やばいッ!」

「えっ?」


 緊迫した声と共に、扉が開け放たれる。

 いや、文章表現はもっと正確に書いた方がいいか。


 緊迫した女性の声と共に、扉が吹っ飛ばされた。


「ぐわああああああ!?」

「いやああああああ!!」


 ナムサン!

 俺と女性の悲鳴と爆音が重なり鼓膜が破れそうになった。


 身構えていたとは言え、さすがに爆破オチとは想像外の外である。


 それだけに、俺は爆風と女性の身体を正面から受け止める格好となる。無論、それを支えるだけの力は人間にはないので、当然の如く俺は盛大に後ろに倒れた。


「~~~~~ッ!」


 哀れアキラ。

 全身が床に叩きつけられネギトロめいて爆発四散! しそうになった。頭を強く打ち、肺から空気が漏れ、全身に衝撃が走る。


 しかしそのおかげで――と言えばいいのだろうか――扉と一緒に吹っ飛んだ、頭から猫耳が生えてて摩訶不思議な髪形をしている女性には目立った怪我がなかった。

 もっとも、それを喜べるだけの状態にはない。


「いったたた……あぁ、また失敗……ってあれ。誰? ていうかあれ、人間!? ということは、諜報員スパイ!? ど、どうしよう。ここは一旦殺して口封じを――」


 こうなってるから。今謎の爆発事故以上の生命の危機を覚えているから。


 しかも肺に空気が残ってないせいで上手く声が出ない。

 最後の力を振り絞って、なんとか誤解を解かないと……。


「ま、待って……俺は……」

「うーん、でもここまで侵入されたとあっては責任問題……普通に刺し殺したり魔術で殺したら証拠が……」


 いやその前に俺の話を聞いて。


 ていうか俺の上から退いて。

 スパイだと思っているからなのか、彼女は俺に対して馬乗りしている。悦びとかそれ以前に全身の痛みと彼女の体重が相まって容易に動ける状態ではない。


「あ、いいこと思いついた」


 あ、これ絶対ダメなやつだ。


「ふふふ。私が開発した必殺の暗殺術、寿命を三千万倍加速させる魔術を使って自然死させましょうか! その後適当な場所に埋めれば万事解決! 私天才!」


 おいばかやめろ。


 寿命加速が三千万倍ってことは、一秒で約一歳齢を取る計算だ。


 人間の場合は一分で爺さんになっちまう! やめろ。二十代で爺さんにはなりたくない!

 この歳でハゲは嫌だ! 白髪はギリギリ嫌だ!


「こらこら、暴れないで! 暴れたら魔術外しちゃうでしょ!」

「暴れるに決まって……ゴフッゲフッ」


 だ、ダメだ。言葉が上手く出てこない。

 女性の手からは妖しい光が放ち始め、なるほどこれが魔術なのかと納得しながら俺の人生は終――


「って、あれ?」


 わらなかった。


「起動失敗? いやちがう、術式は正常なのに効果なし……な、なんで?」


 なんでと言われましても作ったのはあなたですから俺に言われても。

 いや、そういえば陛下がなんか言ってたな。確か……。


「へ、ヘル・アーチェ陛下が寿命凍結術式をしてくれたからじゃ……」


 俺がそう言うと、今度慌てたのは彼女の方だった。


「えっ? ちょ、ちょっと待って!」


 彼女の手から、先程とは違う色の、妖しさは何もないただの光が出てきた。魔術の種類によって光の色も変わると変なところで感心したが、その前に退いて。


「ほんとだ……陛下の名で術式が施されてる」

「わ、わかっていただけたようで何よりです」


 だから退いて?


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