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魔王軍の幹部になったけど事務仕事しかできません  作者: 悪一
1-3.全ては魔王のために
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私たちは何もできません

「……待つ身は辛いなぁ」


 ソフィアさんもユリエさんもエリさんも陛下もレオナもいない兵站へいたん局執務室は、忙しさはあるものの、活気と言うのはなかった。

 ――まぁレオナはいなくていいか。五月蠅いしドア壊すし。


 でも状況的に仕方ないとはいえ、空気が重いのは仕事に支障が出る。


「局長さん!」


 そんな時に、俺の執務机が喋った。

 すげえな魔王軍、執務机型の生物もいるのか。


「おい局長さん、聞いてるのか!?」


 が、よく見たら違った。


「ん? あぁ、なんだユリエさんか」

「んだよその言い方!? どういうことだよ!?」


 小さすぎてユリエさんの姿が机と堆く積まれた書類と本に隠れて見えませんでした、とは流石に言えなかった。

 言ったらたぶん俺は死ぬだろう。


「あぁ、すみません。冗談ですよ。それよりも、どうしたんです?」

「この書類にサインしてくれ! ちゃんと代金払えよっていう誓約書だよ!」

「あぁ、はいはい。俺のサインでいいのかなこれ……まぁいいや。――これでいいですか?」

「はい。どーも。それと、もうひとつ良いか?」

「なんです?」

「局長さんってさ、ソフィアのこと好きだろ?」


 …………。


「……仕事増やしますよ?」

「やめろよ! どうしてそうなるんだよ!」

「いや、急に変な事言うので」


 唐突過ぎて思考が追いつかなかったからとりあえずユリエさんに仕事丸投げしてみる。


「だってよ、考えてみなよ。『待つ身は辛い』だぜ? 恋する乙女か!」

「それでどうして『ソフィアさんのことが好き』になるんですかね?」

「いや、状況的にはそうだろ?」

「文章的にはおかしいですよ?」


 待つ身は辛いと言う俺は乙女だからソフィアさんのことが好き。


 前半と後半が繋がってねぇな?

 ユリエさんはいい仕事するのだが、たまに変な発言をするのが玉に瑕である。


「んじゃ、嫌いなのか?」

「なんでそうなるんですか。第一好き嫌いの話なんてしてませんよ?」

「じゃあなんで恋する乙女みたいなこと言ったんだよ! わかりにくいだろ!?」


 そこでキレられても困る。


「そんな深い……深い? 意味はないですよ? ただ単純に、兵站部隊は『待つこと』しかできないってだけです」


 兵站は、いつだって結果を待つのが仕事だ。


 計画を立てて、準備して、必要な軍需物資をかき集めて、書面の上では完璧な仕事をしても、最後の詰めは戦闘部隊の仕事。


 治療法を提案し、治療薬の在り処を教えても、最後は医療隊の仕事ぶりにかかっている。


 成功とか戦果とかを自分たちの手で手繰り寄せることができるのは彼らの特権だ。

 でも彼らが失敗するときに、何らかの兵站の失敗がある場合も多い。


「私たちに出来ることは、作戦の成功を祈ること。そしてソフィアさんたちの無事を祈ること。それだけです」

「よくわかんねぇ!」

「聞いといてそれかよ」


 バカなんだか頭いいんだかよくわからないハーフリングである。


 その後しばらくして、通信用魔道具が鳴った。

 受信すると、現れてきた映像は先程まで前線で兵站の指揮を執っていて……そして今は患者用の別の服を着ているソフィアさんの姿だった。


『報告します』


 いつもの調子で状況を説明しようとする彼女の姿は、どこか違和感があった。

 なにがどうとは言わないが、何か大変なことが起きたのかもしれないと深く考えてしまった。


 でも、


『――戦闘部隊がヘル・アーチェ陛下を救出。すぐさまメメント後方病院に後送した後、戦時医療局の適確な治療のおかげで、死は免れました』


 違和感の正体は、すぐにわかった。


『――陛下は、無事です!』


 ソフィアさんは泣いていたのだ。

 恩人が無事だとわかって、彼女はそれを報告する嬉しさのあまり泣いたのだ。


 無論、俺も嬉しくてほっと一息ついた。


 よかった、と。


 司令部からの報告によれば、既に作戦は最終段階に移行。


 最終段階は、今回の作戦で投入した魔像を機密保持の観点から、撤退を支援する陽動を兼ねて自爆処理させるというレオナ発狂ものの作戦である。


 名付けて「無人在来魔像爆弾」である。

 よし、景気づけにミュージックだ。そしてトランペット演奏者は酸欠で死ぬ。


 作戦会議の席でダウニッシュさんから自爆用の魔石の発注を頼まれた時は流石に俺もビビった。だがそれが必要な事だとはすぐわかった。


 なにせ倉庫の中にたくさん詰まっている魔像とか魔石とかの在庫を一気に処分できるいい機会だったからね!


 まぁ、レオナにはあとで追加予算与えてお茶を濁しておこう。


「大変結構。ソフィアさんも身体が治ったら、こちらに戻って報告をお願いします。でもこの際、休暇だと思ってゆっくりしていってください」

『はい、畏まりました。では――』


 うっすらと目を赤くしていたソフィアさんは、綺麗な敬礼をしてから通信を切


『ちょっとソフィアちゃん! 私にもアキラちゃんと話させてよ! 大変だったんだから!』


 れなかった。どうにもちぐはぐな光景に、ちょっと笑ってしまう。


『何を言っているんですか! これでも私たちは忙しいんですよ! どいてください!』

『やだやだやだ! 私今回大変だったんだからね! いきなり最前線で「人類軍を襲ってパムを確保しろ」なんて無茶は言うし、病院に来たら来たで「おいレオナ、空気清浄魔法で陛下に綺麗な空気を吸引させてくれ」って変なことは言うし!』


 いや、人工呼吸器がないから仕方ないじゃないか。いいところにちょうどいい代用品があってさ。


「でもそのおかげで陛下は助かった。ありがとう、レオナ。君のおかげだ」

『どういたしまして! ふふん、兵站局だなんだで威張ってるけど最終的にはやっぱり私がいないと――って、そうじゃなくて!』


 チッ、いい感じに話が流れなかったか。


『なによあの作戦! 私の愛する魔像ちゃんを返して!』

「よかったなレオナ。新しい魔像の研究予算が下りたぞ」

『本当!? じゃあはやく戻って研究しないと! 試作改良装甲戦闘輸送用魔像の新型が私を待ってるわ!』


 おいちょっと待て今不穏な単語が聞こえたぞ!?


『カルツェットさん! いい加減にしてください! あなたも魔力の使い過ぎで安静にするよう言われてるんですから少しは大人しくしてください!』

『えー……』

『えー。じゃありませんよ、もう! ――アキラ様、見苦しい所を見せました。これで本当に失礼します!』


 そう言ってソフィアさんは慌ただしく通信を切った。


 ……なんだか戦争しているとは思えない和やかさだ。


「局長さん、なんかいい顔してたぜ?」


 そして一部始終を聞いていたユリエさんがそんな一言。


「当然です。作戦が上手くいって陛下が無事。笑みを浮かべるのは当然――」

「違う違う、そうじゃなくてな」


 ユリエさんは「言わなくちゃダメかなー?」と呟きながら頭を掻いて、散々迷った挙句、思ったことを言うことにしたらしい。


「局長さん、『ソフィアが戻ってくる』ってわかった時が一番いい笑顔してたぜ?」

「………………まぁ、なんだかんだ言ってこの世界で一番付き合いの長いひとですから」

「そういうんじゃなくてだな……」

「また好き嫌いの話してます?」

「悪いか! オレだって一応女の子! 恋愛トークしたいじゃんかよ!」


 意外と乙女なのはユリエさんだったようだ。


 思えばユリエさんは背が小さいロリと思っていたが、オレっ子でずぼらで男勝りが合わさり、なんか子供の男の子と会話している気分になっている。


 ……面倒な女の子もいたもんだな。


「はいはい。私はソフィアさんのこと大好きですよ。じゃ、仕事しましょうかユリエさん」

「どうしてそうなるんだよ! ていうか作戦がもう終わりなら仕事ないだろ!?」

「何言ってるんですか。作戦がそろそろ終わりだから増えるんですよ」


 負傷者や引き揚げ物資の後送に必要な荷馬車や輸送用魔像の割り当て、戦死者に対する弔慰金や作戦参加者に対する特別俸給の算定、戦闘で損壊した装備の補修に補充などなど。


 兵站に暇はないのだ。

 たぶん戦争が終わっても暇にならないのが、兵站という仕事だ。


「ていうか局長さんよ。さっきの言葉、嘘なのか? 本当なのか?」

「さて、どっちでしょうね。……じゃ、変な事言った罰としてユリエさんの仕事の割り当て増やしておくんで、しっかりと片付けてくださいね」

「横暴だあああああ!」


 あー、早くソフィアさん帰ってこないかな。

もうちょっとだけ続くんじゃ



----



Q.一次大戦レベルの技術力じゃサリン合成は無理では?

A.40年くらい誤差のうちです(寿命の長い魔族並の感想)。

 魔王を倒すために必死に頑張った人類軍技術陣が本気を出して作れちゃったのではないでしょうか。まぁ、あまり深い事は気にしないでください(土下座)


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