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魔王軍の幹部になったけど事務仕事しかできません  作者: 悪一
1-3.全ては魔王のために
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戦いの前に言うべきこと

 ダウニッシュは、飛竜に跨り空を飛んでいた。

 先発の第一〇一、一〇二飛竜隊と違い、彼は単騎で飛んでいた。


 そして彼の後ろには、作戦を支援する女性の姿がある。


「カルツェット殿、大丈夫か?」

「大丈夫大丈夫。それよりも人類軍の飛竜ってどういう構造してるんだろうね」

「さあな。それよりも私は、ソフィアくんがどうしてるかが気になるね」

「んふふ。ソフィアちゃんって、案外鈍感だよねー。ま、アキラちゃんもそうだけど」


 レオナ・カルツェットにとって初めての最前線だったが、彼女は平然としていた。

 そのおかげかどうかはわからないが、ダウニッシュは平常心を保つことが出来た。


 そして彼は前線を飛ぶ指揮官として、やるべきことをする。


『全将兵に告ぐ』


 彼は思念波で、通信魔術で、通信魔道具で、その声を届けた。


『全将兵に告ぐ。こちらは、作戦指揮官のダウニッシュだ。どうか、聞いて欲しい』


 戦いが始まる前に、彼は伝えるべきことを伝えようとしていた。

 繰り返されるダウニッシュの言葉に、文字通り全将兵がその言葉に耳を傾けていた。


『まもなく、戦いが始まる。

 まもなく、全魔族の命運を決する戦いが始まる。


 戦いの目的は唯一つ。

 

 我々は、今まで陛下に救われてきた。陛下が救ってくださった。


 強大な力で前線を支え、負傷した兵を決して見捨てず、死者に対して最大限の敬意を払い、敵に対しても温情で、幾度となく我々を、魔族を、獣人を、亜人を、救ってくださった。


 我々には、陛下に大恩がある。


 そんな陛下が今、窮地に立っている。

 敵の、人類軍の力は強大で、故に陛下は窮地に立っている。


 諸君。

 偉大なる戦友諸君。

 陛下に忠誠を誓う、同志諸君。


 今こそ、我らが救世主、ヘル・アーチェ魔王陛下の恩に報いるときである。

 今こそ、我らが救世主、ヘル・アーチェ魔王陛下をお救いするときである。


 かつて陛下が我々にしてくださったように、今度は我々が、陛下をお救いするのである。


 人類軍の力は強大である。決して油断できるものではない。


 多くの者は、ここで戦死するだろう。指揮官である私も、命を散らすかもしれない。

 だがそうであっても、我々には、すべきことがある。


 我々には、やるべきことがある。

 我々の希望、ヘル・アーチェ魔王陛下をお救いする義務がある。


 我々は種族も、出身も、年齢も、性別も、戦う理由も、所属も、何もかもが違う。


 しかし我々には共通した思いがある。

 守るべき方がいる!


 諸君!

 戦友諸君!

 陛下に忠誠篤き同志諸君!


 命を散らせ!

 魂を燃やせ!


 持てる全てを使い果たせ!


 我々の目的は、我々の思いは唯一つ!

 我らが陛下をお救いし、全魔族の未来を守ることである!


 戦いに臨む全ての戦友諸君に、我らの未来を! 』



 ダウロッシュが全てを語った後、残ったのは暫しの静寂。

 空気を切る音だけが、ダウニッシュの耳に聞こえた。


 そして暫くして、彼の脳裏に誰かの言葉聞こえる。

 多くの思念波が混信する。熱狂の嵐が、彼の脳裏に、全魔王軍兵士の脳内で再生された。


『我らの陛下のために!』

『未来を守るために!』

『今こそ、命の使い時だ!』


 全将兵の言葉が、全将兵の脳内を駆け巡る。

 それを聞きながら、ダウニッシュの後ろにいるレオナがぽつりと小声でつぶやいた。


「ガウルちゃん、結構演説上手いね?」


 脳内で流れるシュプレヒコールをものともせず、雰囲気度外視でそんなことを言った。

 彼女は褒めているつもりなのだろうが、ダウニッシュの見解は些か異なった。


「フッ。何せ戦闘部隊をあらゆる面で支援するのが『兵站局かれら』の仕事だそうだからな」


 そう言って、彼は笑った。


「そうかー。ハハッ、やっぱり面白いね」


 言葉の意味を理解したレオナも、お腹を抱えて笑った。

 戦場とは思えない、呑気な笑い声が空に響く。


 だが一通り笑い終えたところで、彼らの表情が一変する。


「では、私たちも私たちの仕事をするとしよう」


 ダウニッシュが術式を展開し、


「そうね。待ちに待っていたわ……、この瞬間をね!」


 レオナは満面のドヤ顔を決めた。




 そして、魔王軍と人類軍の戦いの歴史の中で最大の戦いが始まった。


(演説に自信は)ないです

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