呼び方って重要ですよね
ハイヴァール方面臨時前線司令部のある、ベルガモット陣地。ハイヴァール陣地が人類軍の猛撃に晒されて放棄されたため、今やここが最前線である。
そこで一頭の飛竜が、一人の女性を降ろしていた。
兵站局のメンバー、ソフィア・ヴォルフである。
彼女はここで降りて、前線の兵站を指揮する。
「ありがとうございます、ダウニッシュ様!」
「なに、気にする必要はない。これも仕事のうちだ。礼ならソフィアくんの上司に言いたまえ。陛下をお救いすることができるのは、彼のおかげでもあるのだからな!」
「はい!」
前線に近いだけあって、陣地は騒がしく、故にソフィアは声を張り上げて会話する。
「――それと、カルツェット様!」
そして彼女は、飛竜に同乗していたレオナ・カルツェットを呼んだ。
「ん、なに?」
「その……、御武運を! 必ず帰ってきてください!」
「…………」
レオナは、ソフィアの言葉に一瞬目を丸めた。
アキラの言葉ではないが、彼女たちは犬猫の仲であり、仲は決してよくはない。
それなのに、ソフィアはレオナに対して、皮肉も何も交えずに武運と無事を祈ったのだから。
彼女の態度が変わったことに、レオナは思わず笑みを浮かべた。
「ねぇ、ソフィアちゃん!」
「な、なんでしょう?」
「私のこと名前で、レオナって呼んでよ!」
仲良くなりたいという、レオナの純粋な願いだった。
が、
「嫌です!!」
ソフィアは殆どノータイムで全力で拒否した。
「なんで!? ちょっと雰囲気的に呼んでくれる流れだったじゃん!」
「私はあなたのこと苦手なので!」
「酷くない!? それって『嫌い』って意味だよね!?」
困惑するレオナを余所に、ソフィアはいい笑顔で叫んだ。
「すみません。でも嫌いではなくても、私は他人のことを姓で呼ぶことしかできないんです!」
と。
照れ隠しなのかな?
と、レオナは考えなかった。
私のことを他人呼ばわりって酷いな。
とも考えなかった。
いつもの彼女ならそう思ったかもしれないが、今の彼女はそう考えなかった。
なぜならこの時レオナは、『彼』のふとした呟きを思い出したからである。
それはレオナと彼が、初めて出会った時のことだ。
「ソフィアちゃん! 実は伝えなきゃいけないことあるんだ!」
「今度はなんですか?」
「私ね、余程目上じゃない限り他人を『名前』で呼ぶんだよ!」
元気よくそう言った後、レオナはダウニッシュの背中を叩いて出発の合図をする。
飛竜が羽ばたき砂塵が舞い上がる中、レオナの言葉を受け取ったソフィアは、
「……はぁ。って、は?」
筆舌し難い珍妙な顔をしていた。
それがどうしたのだ、という顔である。彼女は暫く、レオナの言葉の意味を掴み損ねていた。
そんな困惑し続ける物わかりが悪いソフィアに対して、レオナは飛竜の羽ばたく音に負けじと大声で叫んだ。
「意味はアキラちゃんに聞けば分かるよ!」
「……はい? あの、それってどういう――」
ソフィアの疑問の言葉は、飛竜の羽音に掻き消され、レオナには終ぞ届くことはなかった。
急速に遠ざかる飛竜を眺めながら、彼女は暫し考え込む。
『私ね、余程目上じゃない限り「名前」で呼ぶんだよ!』
『意味はアキラちゃんに聞けば分かるよ!』
レオナ・カルツェットの台詞を一言一句思い出し、頭の中で咀嚼して……、
「…………あっ。えっ、あの、えぇ!?」
ソフィアは、事の重大さをようやく理解した。
・人類軍兵器解説的な何か。きっと読まなくても大丈夫。
妄想設定ばっち来いの人だけ読んでくださいね。
【戦車】
無限軌道による不整地踏破能力と、対魔像砲による強力な攻撃力、魔術攻撃をものともしない装甲が特徴。地球の戦車とは違って、塹壕突破兵器として開発されたわけではない。魔族の魔術攻撃に耐えつつ対魔像砲(≒対戦車砲)を前線へ運ぶための「対魔像自走砲」とも言うべき代物で、開発にあたってはまずもって装甲が優先された。
だからたぶん見た目はチャーチル・ガン・キャリアみたいな感じになってる。シュール。
ちょいちょいこんな感じで人類軍・魔王軍兵器について解説(妄想設定公開)するかも。いらなかったら言ってね。善処します。