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魔王軍の幹部になったけど事務仕事しかできません  作者: 悪一
1-3.全ては魔王のために
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紙とペンとインクが異世界最強?

BGM:某シン・怪獣映画の血液凝固剤発注のテーマ

 魔王城兵站局執務室は、一気に慌ただしくなった。


 大会議室には連絡要員としてエリさん以下数人を待機させて、俺やソフィアさん、ユリエさん、リイナさんらで魔王軍戦闘部隊を支援する。


 戦闘部隊は既に魔王救出為の作戦行動に移り、武器を取り、詠唱し、空を駆け、大地を駆けて戦っている。


「アキラ様。戦時医療局への医療品の供与が完了致しました」

「さすがソフィアさん、仕事早いですね」

「……これが仕事ですから」


 そして俺らはペンを握り、ペン先を走らせ、文字を書き、あらゆる物資を手配する。


「大変結構。では立て続けで悪いですが、陸路で現地に向かう騎兵連隊の物資の手筈を」

「畏まりました。直ちに」


 ソフィアさんは書類に目を通し、通信して、各地の倉庫から物資を確保して輸送の手筈を整える。

 集められた物資を連隊に引き渡して、次に移る。


 俺らの武器は紙とペンとインクと通信用魔道具。

 絵面は地味だが、それが俺らの神髄だ。


 ペンは剣よりも強し、というやつである。ンッン~、名言だなこれは。

 まぁ一般的な意味合いとは全然違うだろうけど。


「――っと。ユリエさん、作戦の為に必要な純粋紅魔石の数が不足しています。手段は問いませんから数を確保してください」

「予定数よりちょっと少ないくらいだ。問題ないだろ?」

「大問題ですよ。予定数を確保するのが我々の仕事です。やってください」

「はいはい。超過労働手当でるか?」

「陛下を救った後で上長のサインを貰った後エリさんに必要書類を提出してください」

「めんどくせえ! ま、やってみるよ。ギルド連中泣かしてでも確保するぜ!」

「頼みます」

「おうよ!」


 ユリエさんがそうサムズアップすると同時に、俺の執務机に置かれた通信用魔道具が鳴る。


 原理はどうなってるのかは知らないが、魔道具の上に映像が出てきた。

 倉庫管理担当のリイナさんだ。


『き、局長様! 魔都防衛隊所属の第一〇一飛竜戦闘隊が輸送する分の魔石の第一陣が、た、経った今出発しました』

「ありがとうございます。続く第一〇二飛竜戦闘隊の物資準備を願います。不足分は現在ユリエさんが確保しているので倉庫は空にして大丈夫です」

『は、はいです!』


 うむ。相変わらず口調が変わっていないが、仕事の速度は上がっている。

 娘の成長を見ているようで思わず涙が……、


 うん? なんか気になるものが画面に映ったような。


「ところでリイナさん。後ろのゴブリン、なに運んでるんですか?」

『は、はい? なんのことで――ってちょっとゴブリンさん! それ違います! お酒は緊急輸送物資に入っていませんよ! 運ぶのは碧魔石で――ってそっちは紅魔石です!』


 酒かよ……。魔石と酒間違えるのかと。

 あと本当に赤と緑間違えてるのな。もしかしてゴブリンって色を判別できない人が多いのだろうか……。


『す、すみません局長様! どうか許してくださいなんでもしますから!』

「……いや、大丈夫です。間違いを指摘するのも管理担当の仕事ですよ」

『ひゃ、ひゃい! すみません! では――ってそっちは軍靴で――』


 と言ったところで通信が切れた。リイナさん大変だな。


 しかし相変わらずリイナさんは淫魔らしくない。

 淫魔って言うのはもうちょっと淫乱という印象があるのだが……もしかしてあれは演技で中身はビッ――、


「コホン」

「は、はい。すみません仕事します」


 ソフィアさんが緊急事態でも相変わらず怖い。


 彼女が何かを言おうとしたタイミングで、通信魔道具がまた鳴る。

 出てきたのは会議室にいるエリさんからだ。


『局長。お忙しい所失礼しますわ。ハイヴァール陣地守備隊の斥候から最新情報が入ったようよ』

「なんですか?」

『えーっとぉ……人類軍が新兵器を使用してきたらしいわ』

「やはりですか」


 ヘル・アーチェ魔王陛下を危機に晒したのだ。新兵器の存在があってもおかしくない。


「新兵器は地上兵器ですか?」

『わからないわ。でも、重要じゃないんじゃない?』

「……そうですね。陛下が危機なのは間違いありませんから」


 でも、兵器の種類によっては対策を考えなくてはならないか。作戦司令部あたりの仕事な気もするが、こちらでも検討してみないと。


「陛下は無事ですか?」

『ダウニッシュ様の推察ですが、無事だと思うわ。もし討伐しているのなら、人類軍が今も大規模な攻撃を仕掛けているはずはないって』

「わかりました。『まだ時間がある』とわかっただけでも救いです。また何か新しい情報が入ったら連絡をください」

『はい。では』


 エリさんからの通信が切れた後、ソフィアさんがほっと胸をなでおろした。


「……安心しました」


 ヘル・アーチェ陛下とソフィアさんの間になにがあったかはわからない。

 でも、彼女気持ちはよくわかる。俺も似たような気分なのだ。


 ソフィアさんに何か気の利いたことを言おうかと悩んでいた時、部屋の扉が勢いよく開け放たれた。

 こんなことをするのは知り合いでひとりだけだ。


 なにせユリエさんはもっと自重するからな。


 まったく、壊れるからやめてほしい。その壊れたドアを発注するのも兵站局の仕事なんだぞ?


「アキラちゃん! 準備できたよ!」


 現れたのは狂信的魔術研究者こと開発局のレオナ・カルツェット。

 有事にも拘らず髪型はバッチリ決まっている。ホント、髪の構造がどうなってるのかが気になるわ。


 レオナがドアに致命傷を負わせたせいか、俺の隣にいたソフィアさんの目と口調が少しきつくなった。


「……カルツェット様。少しは自重してください」

「ソフィアちゃん酷いよ! 折角会いに来てあげたのに! あまり会ったことないけど!」


 ないのかよ。


「そうですか。私は別に会いたくはありませんでしたが」

「もっと酷くない!?」


 そんなに会ったことないと言いつつ、ふたりとも結構仲良いなー。

 これがいわゆる犬猫の仲というやつだろうか。一般的には仲が悪いとされるけどさ。


「はいはい。二人とも仲良く遊んでないで仕事してください」

「「遊んでません(ないわよ!)」」

「仲良いね本当に……」


 対照的な二人だが、まともに会話したらいいコンビになりそうである。


「ま、それはそれとしてレオナ。例の準備、できたのか?」

「バッチリ! あれはまさにこの日の為にあったと言っても過言ではないわ! 駐屯地に移動させといたから!」

「そうかそうか。なら予算を挙げた甲斐があったよ。ちょっと待ってくれ」


 通信魔道具で会議室にいるエリさん経由で「親衛隊のダウニッシュさん」を呼び出した。


「ダウニッシュさん。準備完了です。駐屯地に用意してありますので、よろしくお願いします」

『了解した。ここの指揮を魔都防衛司令官に引き継がせてから駐屯地に向かう。兵站局と開発局の協力に感謝する』

「これが仕事ですから」

『ふっ。そうだったな。……っと、そうだ。今回使う飛竜は私を含めて三人程乗れるのだが、乗りたい奴はいるか? 司令部からは私が行くから問題はないが……』

「はいはい! 私乗りたい!」


 と、脇から割り込んだのはレオナ。

 近い近い。息がかかるところまで近づいて割り込む意味はないよねレオナ。声だけ出せばわかるから。


「レオナが行くのか?」

「うん。あれに何かあった時に対処できるのも私しかいないよ?」

「なるほど。確かにそうだな」

「それに動いてるところ見たいし!」

「そっちが本音か」


 いい笑顔で言いやがって。

 まぁいいや。前半の理由だけでも乗せる価値はある。


「じゃあレオナ、ダウニッシュさんに同行してくれ。くれぐれも無理して死んだりしないように。まだ仕事あるんだから」

「わかってるわよ! それに私も、まだまだ魔像作りたいしね」


 うむ。やっぱりこいつはMADだな。こんな時にまで魔像開発で頭がいっぱいか。


『よし。じゃあカルツェット技師を乗せよう。あと一人、居るか?』

「あぁ、では兵站局から一人出します。現場で兵站がちゃんと機能するように見る人が必要だと思ったので」


 さてと、問題は誰を乗せるかだな。


 全体を統括する俺が行くわけにはいかないし、ユリエさんは渉外で忙しい。リイナさんはそんな余裕がある人には見えないし……とするとエリさんかソフィアさん。


 ……なら、決まりだな。


「ソフィアさん。ダウニッシュさんの飛竜に乗って現場で兵站の指揮を執ってきてください。何かあれば連絡を」

「……私でいいのですか?」

「はい。ソフィアさんが適任です」


 ソフィアさんは何でもできる人だ。

 事務も出来るし、肝も据わっている。能力も高く、俺よりも兵站局長になる器がある。


 それ以外の理由もあるけれどね。


「ヘル・アーチェ陛下救出の支援を、お願いします」

「――はい!」


 相変わらず、彼女は俺の心を読むのが得意らしい。綺麗に敬礼するソフィアさんの表情には笑みがあった。


「そう言うわけでダウニッシュさん。レオナとソフィアさんを同行させます。ソフィアさんに関しては適当なところで下ろしてください」

『わかった。仮の前線指揮所が設置されているベルガモット陣地に下ろそう』

「助かります」

『気にすることはない。「魔王陛下救出作戦」の要となるのだ。しっかり運ぶさ』


 そう言って、ダウニッシュさんと俺は敬礼して通信を切ろうとしたが、またしてもレオナが割って入ってきた。


「ねぇアキラちゃん。『魔王陛下救出作戦』って、安直すぎない?」

「あのなぁレオナ。この緊急事態に作戦の名前なんてどうでもいいだろ……」

『いや、カルツェット技師の言う通りだ。響きの良い作戦名は士気を上げる効果がある。どうだアキラくん。作戦名を考えてくれないかな?』

「いやいや、ダウニッシュさんも何言ってるんですか。乗らないでくださいよ」

 作戦名を考えたところで腹は膨れないのだ。魔王陛下救出作戦が一番簡単で何をしているのかがわかる。わかりやすさは重要だよ?

「それはそれ、これはこれ。アキラちゃんが嫌がるのなら、このレオナ・カルツェットが直々に作戦名を――」

「わかりましたダウニッシュさん。私が作戦名を付けます」

「アキラちゃん、私そろそろ泣いていい?」

「勝手に泣いてろ」

「うわああああああんアキラちゃんがいじめるうううううううう!」

「うるせえ!」


 本当に泣くとは思わなかった。

 って、そんなことしてる場合じゃない。はやく出発してほしいのだが。


「お二人とも、遊んでないでさっさとしてください。急いでるんですから」

「その前に作戦名考えてよアキラちゃん」

『そうだアキラくん。適当でもいいから早くつけたまえ』

「あのですねぇ……」


 あぁダメだこの人たち。俺が作戦名考えるまで本当に待つつもりだ。緊急事態なのに余裕ありすぎだろ!


 それにレオナのネーミングセンスを批判している本人にネーミングセンスがあるとは限らない、というのは誰も考えていないのだろうか。


 えーっと、士気を上げる作戦名ね。


 こう、明朝体と特撮映画のBGMが似合う作戦名がいいな。


「『ハイヴァール方面における魔王救出を目的とする飛竜隊と魔像隊の大量投入を主軸とした作戦要綱』とかどうでしょう」

『それは作戦名ではない。報告書だ』

「ですよね」


 えーっと、状況にマッチしてて役所っぽくて士気を上げる作戦名ね。

 なんで俺こんなこと真面目に考えてるんだろうか。これも兵站の仕事なの? いいや適当で。


「……『ペルセウス作戦』で」


 ギリシャ神話において、アンドロメダを救った英雄ペルセウスから取ってみた。

 そして気になる評価だが……。


「…………」

『…………』


 ソフィアさんとダウニッシュさんは無言で。


「ねぇアキラちゃん。私を非難する資格ないんじゃない?」


 レオナからは手痛いコメントが飛んできた。


「適当でいいって言ったじゃないか! ていうか早く行け! さっさと行け給料泥棒!」


 あとこれでもレオナなんかよりマシだと思います!


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