お酒は程々に
短めです
翌日。
私は嫌な気分と共に目覚めました。
酒の飲み過ぎで記憶が曖昧。恐らく倒れてしまったのだろうと認識して、そしてさらに気分が鬱屈しました。
ひどく陰鬱な気分になり、休んでしまおうかと思いました。
でも、それは出来ませんでした。私には私の仕事があります。
でもどんな顔をしてあの人に会えばいいのだろうかと、そう思うと足取りも重く、気づけば遅刻ギリギリで出勤していました。
「……遅れました」
そう言って入室すると、既に兵站局は局員で溢れていました。
当然、局長たるアキラ様もそこにいます。
しかし私がいつもより遅れたことを誰も何も言いませんでした。アキラ様も、いつも通りに仕事しています。
どうしようかと悩みましたが、私は意を決して彼の下に行き、伝えます。
「……どうかしましたか?」
「いえ……。あの……、昨晩は、その、申し訳ありません。忘れてください」
もしかしたら変な事を言ったかもしれない。そうでなくても迷惑はかけただろう。そう思っての謝罪でした。
「…………」
返事がありませんでした。
変な事言っただろうかと、不安になります。
「あの……?」
私がもう一度言おうとしたところで、食い気味にアキラ様が口を開きました。
「昨日は私も飲み過ぎたせいで、昨日のこと全然覚えてないんですよね。何かありましたっけ?」
と。
素っ頓狂な顔に、私は思わず面を食らいます。
そう言えば、彼は私より酒が弱いのだ。私より先に酔っていても不思議はない。
「……あ、いえ。他愛もない話ですから、気にしないでください」
「ならよかったです。じゃあ早速仕事を始めましょうか」
アキラ様が記憶喪失になったおかげで昨日の話は終わり、心の中でそう切り替えることができました。
私はいつものように業務を始めようとして……でもその前に、アキラ様に呼び止められました。
「ソフィアさん。まずは経理部設置案について具体的な構想を練りましょう」
その言葉に、私はつい笑ってしまいました。
アキラ様はどうやら嘘が下手のようです。いい意味でも悪い意味でも、とても正直な人ということなのでしょう。
「…………はい!」
十分な休息を取ったおかげかどうかはわかりませんが、その日はいつもより軽い気持ちで仕事に励むことが出来ました。
その日から、私と彼の距離が縮まった……気がします。
「アキラ様! 前から言っているように、ゴブリン用の軍靴とオーク用の軍靴は違うんです!」
「あ、はい。すみませんすぐ直します」
「これ3回目ですよ!」
もしかしたら、勘違いかもしれませんけど。