マッドもやるときはやるんです
レオナが一週間でやってくれました。
輸送用魔像の試作型が出来たと言うので早速見に行ったところ、そこにあったのは今まであった魔像とは違う形で、明らかに別物であると言えた。
「見よ! これが私の本気!」
レオナは堂々とない胸を張る。
一方俺はへなへなと背中を曲げる。
「…………」
「なんか言ってよ!」
「……いや、うん。レオナ、質問いいか?」
「なんでも聞きなさい!」
「これ、何?」
「何って、試作輸送用魔像、名付けて『スペシャルトランスポート・レオナっち』よ!」
「なるほど、じゃあ略してストレッチだな」
「略さないで!? ダサいじゃない!」
「いや略さなくてもダサいから」
そして俺の求めていた輸送用魔像じゃないから。
どう見てもこれ戦闘用だから!
「このスペシャルトランスポート・レオナっちはカルツェット魔石三個を常時使用することにより膨大な魔力エネルギーを得て地上巡航速度50マイラで疾走。さらには正面装甲にオリハルコンを使用し傾斜装甲を採用することにより45口径1.45インケ対魔像砲の徹甲弾を弾くことに成功したの! さらにさらに人類軍の使用していた兵器を参考に胴体中央に魔力砲を備え付けることも可能で優秀な兵器と――」
「待て待て待て待て! 完全に戦闘用じゃねーか! 輸送用途どこに行ったんだよ!」
「いや、完全な輸送用だとつまらないし敵に襲われるかもしれないかなって思って」
「敵に襲われない後方地域で使うやつだからいいの!」
襲われそうな地域でも護衛用の魔像つけることもできるからいいの!
畜生、ちょっと期待してた俺がバカみたいだ。
「でも何作れって具体的に言われなかったし」
「……言ってなかったっけ?」
「聞いてないわね。書面でも何もないし」
「なら俺が悪いな」
「あれ、思ったより話が早いわね」
いや暴走する余地しかないマッドに対して、ふわふわな条件しか言わなかった俺が悪いに決まっている。
要求スペックを記載した書類をあとで作成して正式に開発依頼をしようか。
「……ちなみにこのストレッチ、戦闘用魔像としては使えるのか?」
「輸送用の機能削れば生産性も向上すると思うわ。まずカルツェット魔石を二個に減らして……」
「いやカルツェット魔石やめよう? エネルギー量が膨大なのはわかるけど魔石作るのが面倒過ぎると思うんだ」
「えー……折角作ったのに」
「カルツェット魔石を容易に生産できる技術を開発してからにしてくれ」
他にもオリハルコンやら繊細過ぎる可動機構が整備性や生産性を悪化させているため、今回の試作型魔像ストレッチは一号機で開発中止となった。
「趣味を完全に盛り込むな……と言うのは酷だけどさ、レオナは使える奴を作るって考えないの?」
「趣味取り込みつつ使える奴を作ってるのよ! ほらこれ見て、私が作った新魔術! 空気を清浄化して新鮮な空気に出来る魔術よ! ほら、開発局ってよく煙が出るからその時に使えば凄い便利だとは思わない!?」
「なに空気清浄器作ってるんだよ。それ作る前にまず爆発事故起こすのやめろ、ドアの発注何回やってると思ってんだ?」
「まだ5回目だよ?」
「5回もやってんだよ! おかげで倉庫に予備のドアが用意されてるんだぞ!」
「ということはいっぱい壊せる……?」
「やめろ!!」
今度は真面目に作らせよう。本当に。
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そしてまたレオナが一週間でやってくれました。しかも今度は真面目に。
これにはさすがの輸送総隊司令官ウルコさんもニッコリ。
「……これが、我が軍〝初〟の輸送用魔像になります」
ストレッチなんてなかった。いいね?
俺とウルコさんの前にあるのは、今まで見たことのない形をした石の魔像が立っていた。
「開発局もたまにはいい仕事をするということですな」
「そういうことです」
早速試作型を数体、輸送隊へ配備した。
要求スペックと正式な開発要請の文書を送ったのが先週の事なのに、すぐにこうやって試作型を作り上げるというのは異常なことだろう。
さすがマッドと言うべきか。
兵站局が輸送隊と相談して作成した輸送用魔像の要求性能は左記の通り。
一、物資満載時の荷車を一日十五時間以上問題なく連続で牽引乃至推進できること。
二、物資満載時の荷車を輸送するときの航続距離は五〇〇マイラ(約八〇〇キロメートル)以上であること。
三、物資満載時の荷車を輸送するときの速度は、既存の馬車と同等かそれ以上であること。
四、重量物を牽引(推進)しつつ長距離を行進して重大な機械的な異常・故障を起こさない信頼性の高さを持つこと。
五、生産が容易で、かつ整備も簡易であること。
六、使用する魔石は紅魔石あるいは純粋紅魔石であること。
七、魔術適性の無い者、魔術を使えない者でもある程度操作できること。
こんなところだ。
細かい要求はしなかった。
というか初めての試みなのでこれ以上は思いつかなかったと言うこともある。なにもかも手探りだったが、レオナは一週間でやってのけた。
試作輸送用魔像Ⅰ型。主原料は石。動力は純粋紅魔石。
石魔像は元々生産が容易で、そして軽度の損傷であればそこら辺に転がっている石や土で簡易修理ができる整備性の良さを持っている。
その代わり装甲や戦闘能力は落ちるのであるが……戦闘用魔像ではないので問題ない。
そもそも輸送用魔像には攻撃能力も装甲もなにも持っていない。
専用の荷車も並行して開発させようかと思ったが、従来の荷車の数は計り知れないし互換性があった方が良いだろうということで、既存の荷車を流用することになった。
「と言ってもあくまでも試作型ですから、色々不備があると思います。とりあえず一ヶ月程様子を見て、改善点などを見出して開発局に改良を要請します」
「わかった。だがもしこれで問題がなければ、既存の馬車を駆逐するかもしれんな」
「だといいですね。まぁ何かしらの技術的欠陥が急に浮かぶこともあるので、信頼性が向上するまでは少しは馬車を保持し続けた方がいいかもしれませんが」
「ま、確かにそうですな。それに人馬族の者達が職を失ってしまう」
輸送隊と兵站局が冗談を言い合えるだけの関係を構築できてるというのも良い事だ。魔王軍は、近代軍へと生まれ変わる下地は既にあると言うことなのだろう。
でもまだそれは俺と、魔王軍各員の努力次第でもある。
とりあえずはこのⅠ型の性能チェックを始めないとね。
どんな優れた物でも初期不良というのは存在するし。




