魔像性能評価試験(レオナ精神力耐久試験) その2
皆さんは「A-10」という空飛ぶ軍神を御存知だろうか?
地球生まれの魔王が開発に助言したとかしてないとか言われる、アメリカ軍が運用している航空機である。
この軍神、バカみたいに頑丈で生残性は抜群、多数の兵装でもってして地上を焼く兵器である。しかもロマンがあるということでかなり大人気。退役軍人会もフィーバーしちゃうくらい。
極めつけに、後継機種のF-35に比べて格段に製造費用や運用コストが安いのだ。そのためA-10を使い続けるか退役させるかで大揉めして大絶賛議会で炎上中。
しかしこのA-10、本当に安いのだろうか?
A-10は頑丈である。これは疑いようもない。被弾してもパイロットの生存性が高いのはいいことだ。
でも、ゲリラが持つ対空ミサイルが一発でも当たったらすぐに帰投して修理しないといけない。いくら頑丈でもさすがにそうなる。それは撃墜よりはマシだけど「戦闘不能」という点では一緒だ。
一方、後継機種のF-35はステルス機だ。
ステルスというのはレーダーに映りにくく、そして対空ミサイルに撃たれにくい性質を持つ。
ステルスではないA-10は、ステルスであるF-35に比べて被弾率は恐らく高いだろう。そしてA-10は被弾するたびに任務を中止して帰投して修理工場に行かなければならない。
F-35にはそれがない。あったとしてもA-10よりもかなり稀な頻度になる。
全体的に見れば、それはどちらが本当に安いのだろうか?
兵器というのはそこまで評価しなければならないのだ。
……というのが、なんか転移する前にだいぶ話題になっていた気がする。退役軍人会の圧力にさらされるアメリカ議会は大変だなって思いました。勿論、他にも軍内部での仲違いとか整備性とか色々あるんだけれども。
あの国はA-10とかB-52とかC-130とかの骨董品をあと何年こき使い続けるつもりなんだろう……。
まぁ、閑話休題。
レオナ渾身の、かどうかは知らないが、数多の魔像が対魔像砲の威力を前に次々と斃れていく。
石魔像、樹魔像などの脆弱な材料で出来ている魔像は旧型新型関係なく榴弾でぶっ壊れる。しかもものによっては直撃ではなく至近弾でも余裕で戦闘不能になる。
流石に鐡甲魔像などの、金属で出来た魔像は榴弾では多少損傷するだけだった。
「どうよ! これが魔像の、いや私の真の力よ!」
と、レオナは無い胸を張ったが、
「じゃあ徹甲弾撃ちこんでくれー」
と、俺が指示すると、
「にゃぁああああああああああ!?」
と、レオナは頭を抱える。
結果? 察してほしい。
また鐡甲魔像は対魔像ライフルの狙撃にも耐えたのだが、関節部分を狙うとそこが破壊されるという欠点があった。
足の関節が破壊されれば、魔像はもう戦闘不能だ。
もしかしてこれ、相当数の魔像が相手に鹵獲されてるんじゃないか? しかも魔石付きで。
んでもって人類軍は、今俺らがやっているようなことをやって、兵器の性能を向上させているのかもしれない。
やっぱり兵器開発っていたちごっこだな、と考えながら俺は強化鐡甲魔像Ⅶ型が案外しぶとく対魔像砲の徹甲弾に耐えているところを観察した。
「さすがに最新型は丈夫だな。でも複数発撃ちこんだら戦闘不能だし、やっぱり足回りに当たると痛いな……」
対魔像砲弾が足の関節に当たった途端、魔像が崩れ落ちたのである。
情報局曰く、対魔像砲は照準が難しく狙撃は不可能に近いらしいが、それでも倒せないわけではないようだ。
「悪かったわね、私の魔像弱くて……」
そしてレオナの心もぽっきり折れていた。
彼女の口からはぶつぶつと何か呪詛の言葉が漏れ出ている。貴重な碧魔石を使っている最新型魔像が勝てない、どうせ生産性も戦闘能力も悪い出来そこないなんだ、とかなんとか。
金属の身体と保有魔力量の多い魔石を使う鐡甲魔像、強化型鐡甲魔像などは、現地での生産は到底不可能である。
レオナ曰く、そのような魔像は後方で材料を揃え、ドワーフの力によって成形して魔石を埋め込んで完成する。
材料を成形する魔術がなくそこを手作りするため生産速度は落ちるが、しかし魔術の才能がなくても作れるため、そう言った意味では生産性はいい。
「そう不貞腐れることはない。このことを教訓にして新しいのを作ればいいさ」
「……ふふふ、でも大丈夫。私にはとっておきの切り札があるんだから! 陛下!」
怪しい笑いからの、元気な声。
喜怒哀楽が激しすぎる狂信的魔術研究者、それがレオナ・カルツェットである。そんでもって、古今東西、そういった者は何故か巨大ロボットが好きだと相場が決まっている。
「陛下、アレを!」
「わかった、今出そう!」
ノリノリのレオナの指示で、ノリノリでそれを召喚する陛下。今日も魔王軍は平和です。戦争中だけど。
大きすぎて邪魔だからと、魔王陛下の収納魔術で収納されていた例のアレ。
俺も初めて見る、レオナが誠心誠意、丹精込めて作ったかどうかはさておき、レオナ曰く「とっておきの切り札」が今現れる。
それを見た瞬間の感想は、すごい単純だった。
「…………でけぇ」
まさに小学生並の感想。いや本当にでけぇのだ。
全高は目算で20メートルほど。
わかりやすく言うとお台場に立っている例のロボットくらいの大きさがある。ただしデザインはパシフィックなんとかに近い。
「これぞ! 私が作った最高傑作! カルツェット魔石27個を動力源としてその強大な魔力によって駆動、攻撃、あらゆるものを粉砕する! 行動半径は5000マイラ、主装甲にはオリハルコンとミスリルを使用しあらゆる攻撃を通さない! 魔王軍最強兵器、魔王ヘル・アーチェ陛下の御力を再現するために私が生み出した、『試作超大型特殊鐡甲強化魔像マジカルスペシャルレオナちゃん弐号』とはこの子のことよ!! どうよ、アキラちゃん!」
「あぁ、すげぇなこれ」
「でしょ!」
うん、すごい。見た目は超強そうなのに名前にセンスがなさ過ぎて超弱く見えるところがすごいよレオナ。マスレ弐号の方がまだカッコイイ。
「さぁ、なんでもかかってきなさい! 対魔像砲なんていちころ――」
「よーし、じゃあそこの大砲使ってみるかー」
魔王陛下の識別魔術によると、そこに鎮座している大砲は「43口径107ミリ加農砲」とも言うべき大型の野砲である。
さすがに徹甲弾はなかったが、果たしてどうなるかな?
「どっからでもかかってきなさい!」
と、レオナが言うので適当に指示。
まぁ的がでかいのでとりあえず胴体に撃ち込むことにした。あと、大砲を撃つときは耳を塞いで口を開けましょう。
「3……2……1……撃て!」
轟音。
そして飛翔音。
心の中でカウントする暇もなく、107ミリの榴弾がマスレ弐号に着弾し、同時に爆炎が上がる。十分離れていたとは言え、この威力!
「……やったか?」
フラグ満点の台詞であるが、今までのレオナ開発の魔像群の惨憺たる結果を見れば、今回の魔像も破壊されてるのではないか、と思ったのだ。
しかし俺の隣に立つレオナは余裕綽々の笑顔。
どちらが正しいかは、爆煙が晴れてすぐにわかった。
「さすが私!」
そこには、五体満足で堂々と屹立しているマスレ弐号の姿があった。
「レオナ、これは戦闘続行可能なのか?」
「開発中だからまだ戦闘行動は出来ないけど、たぶん動けるわよ。ちょっと待ってね……。弐号ちゃん、おすわり!」
こりゃたまげた。107ミリの榴弾が直撃した超大型の魔像が主人に忠実な犬のようにおすわりしている光景を見られるとは。
この場合、107ミリの直撃でもピンピンしてる魔像に驚くべきなのか、それとも魔像がおすわりできることに驚くべきなのか。
「魔像って遠隔操作なのか?」
「ん? 自動にもできるよ? それは魔術師次第」
へぇ、結構便利だな。あんなデカいものを自動で動かせるなんて。
「どうよアキラちゃん! マジカルスペシャルレオナちゃんが量産された暁には人類軍などあっという間に叩いてみせるわ!」
「なにそのビックリするくらいの負けフラグ。でもこれが量産されれば可能性はあるか」
ふむ。思っても見ない収穫だな。
「でしょ! じゃあ、これの研究開発は続行……いや、予算増額でも問題ないよね!」
「あ、待って。その前に色々確認したいことがあるから」
「確認?」
「そう、確認」
まず一つ目、傷の確認。
おすわり状態のマスレ弐号の被弾箇所を確認し、どれほどの損害を被ったのかを評価する。そのまま戦闘続行可能であっても、重度の損害なのかもしれない。
マスレ弐号の被弾箇所を実際に見た所、そこには明らかな損傷があった。
「さすがに、傷一つついていない、というわけではないな」
「まぁ、そりゃあね」
レオナ曰く、被弾箇所の損傷は深くはない、とのこと。魔像の基幹部には問題がなく戦闘続行は可能。
ただし外表装甲が剥がれ落ちているため付近にまた同じ弾が当たった場合、今度は重度の損傷となるのではないかという見解。
「でも二度も同じ場所に弾なんて当たらないでしょ? あれ見る限りじゃ」
「そうだな。野砲の命中率なんて確かに高が知れてるけど」
でも大砲って数を揃えて弾幕を張るのもお仕事だし。下手な大砲も数撃てば同じ所に当たるだろう。
しかしレオナの言う通り、量産の暁には人類軍など圧倒できるかもしれないし……。
って、ちょっと待てよ?
そういやこいつ、何で出来てるんだっけ?
確か主装甲はオリハルコンとミスリルとかいうファンタジックな物質だったよな?
「なぁレオナ。もうひとついいか。オリハルコンとミスリルってどうやって作るんだ?」
「ん? あぁ、生産性の問題? 大丈夫大丈夫、オリハルコンは魔術研究の触媒とかにも使われるくらいよくある金属だから」
「どれくらいよくある? 鉄とか銅並にある?」
「うーん、白金くらいかな? 結構いっぱいあるでしょ?」
アウトだよ!
白金がいっぱいある星ってなんだよ! 地球でさえ白金の埋蔵量二万トンしかないのに!
「……ちなみにミスリルは?」
「ミスリルは単体金属としては自然界では貴重ね。オリハルコン以上に」
「…………」
あぁ、諸君。空飛ぶ軍神は知っているかね? さっき説明したか。
うん、そいつが俺の頭の中にある連邦議会を自慢のGAU-8 30mm機関砲をぶち抜いて行った気がするんだ。なんでだろうね?