魔像性能評価試験(レオナ精神力耐久試験) その1
兵器には性能評価試験というものがある。
試験において、その兵器が実際にどれほどの能力を持っているのかを調べるのだ。
やり方は色々で一概には言えず、お国柄と言うのも結構出てくる。例えば、実際の戦場における環境――燃料に不純物が混じっていたり不整地だったり波浪が激しかったり整備が行き届いてなかったり――に似せた状況を作り出して試験する国もあれば、完璧に整備され完璧に全力を発揮できる場所で試験を行う国もある。
当然、前者のカタログスペックは実際の運用に近い数字となり、翻って後者は現実との乖離が激しくなる。
どちらがいいのか、というのは実の所よくわからない。
でも個人的には前者の、現場における兵器の能力こそが真の能力であるという考えが正しいのではないかと思うのだ。
というわけでやってきたのは魔都郊外にある駐屯地、の外れ。
「ねぇアキラちゃん、ちょっと聞いていいかな?」
「なんだいレオナちゃん」
「……」
「ごめん、ちゃん付けはないよな」
「よろしい。で、アキラちゃん。先週の君の話だと、鹵獲兵器について云々したいって言ってたよね?」
「そうだね。だからこうやって開発局倉庫や駐屯地倉庫に眠ってた鹵獲兵器を取り寄せたんじゃないか」
人類軍が実戦で使用し魔王軍が鹵獲した兵器諸々が今目の前に並べられている。
榴弾砲とか小銃とか機関銃とかスコップとか、兵器の見本市状態だ。でも戦車や飛行機はなかった。残念。
ちなみに大型の兵器は、例の収納魔術で魔王陛下が直接持ち帰ったそうである。
こんな使い方もあるのか。
「なら、なんで魔像があるの?」
「いやあ、人類軍が持つ兵器がどんな威力か調べたくて比較対象として魔像を、ね?」
準備する物は、魔王軍で使われている多種多様な魔像……は多すぎるので、その中でも運用数の多い魔像八種(それでも八種もあるのかよ、と突っ込みたくなる)と、現在レオナら開発局が丹精込めて開発している新型魔像二種。
を、魔王陛下に根回しして収納魔術でここまで運んできてもらった。
「開発局に内緒で開発中の魔像を収納魔術で運ぶのは少し骨が折れたぞ、アキラ」
「申し訳ありません陛下。今度、とっておきの葡萄酒を用意しますので」
必要経費ということで書類上は廃棄予定になっている不要不急品としていくつかの高級酒は保管してある。
安心したまえ、元はと言えば不正を行っていた者が持っていた奴だ。俺は一銭も払っていない。
あ、言い忘れたけど評価試験には陛下もいらっしゃいます。
「そんなことはいいの! なんで私が丹精込めて作ってる試作超大型特殊鐡甲強化魔像マジカルスペシャルレオナちゃん弐号も準備してるの!」
「前から思ってたけどレオナはそのネーミングセンスどうにかしろ」
なんだよ「マジカルスペシャルレオナちゃん弐号」って。
ていうか陛下がすぐ近くにいるのにお前の態度そのままなんだな。いや俺もレオナに対する態度変わってないけどさ。
現在、そのマジカルなんとかという魔像は大きすぎて邪魔という理由で陛下の収納魔術によって目の前にはない。
超大型ということもあってロボアニメみたいな見た目なのかな、と内心ではわくわくしてるのは内緒。
「とりあえず、長いからマスレ弐号って呼ぶか」
「ダサい!」
「元々の名前からしてダサいことに気付け」
えーっとなんだっけ、どこまで話したっけ?
あぁ、そうそう。評価試験ね。レオナの言う通り、これは人類軍の兵器の性能を確かめるためにあり、対する魔像の試験でもある。
対抗できなかったり、存在意義がなかったり、費用対効果が劣悪だったりするものについてはバンバン切り捨てる方向で。
「マジカルスペシャルレオナちゃん弐号はこの一体しかないんだからね! 大事に扱ってよね! 縦しんば性能悪くても壊さないでよね!」
「開発中止になったら解体してやるから安心しろ。じゃあ始めるぞー」
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人類軍兵器については、同じ人類である俺が扱い方を知っている――訳はなく、付属の説明書の入手や長年の鹵獲兵器の研究によって明らかになった手順に従う。
それらを行うのは魔王軍情報局の皆さん。臨時予算増額を条件で今回協力してくれた。
安心しろ、約束は守る。その分来年度の予算を減らすよう陛下に提言するから。
まずは多くの部隊で使用されている基本的な魔像、汎用石魔像から。 Ⅷ型の運用数が多く、また最新型はXI型だと言うので、Ⅷ型とXI型を用意した。
こちらの準備はレオナ以外の開発局メンバー――と言っても2人しかいない――が行う。
1人は男でメガネ。もうひとりは女性でメガネである。遠目からだと種族はわからないが人間ではないことは確か。
「そう言えばレオナ。魔像ってどうやって作るんだ?」
「……そっから?」
根本的な事を知らなかった俺である。操作方法も知らない。
ここらへんも重要なことなので聞いておかねば。
ガシャンガシャン動く魔像の音をBGMに、レオナが教えてくれた。
「作り方は二種類。現地生産か、後方で材料を揃えて生産して前線に送る方法ね」
「……現地生産できるのか?」
「できるわよ。順番に説明するわ」
曰く、石魔像や泥魔像、樹魔像、雪魔像など、自然界に数多あり容易に入手可能な材料を主成分とする魔像は現地での生産が可能らしい。
「作り方は、魔術師が現地で材料を集めて魔術で魔像の形に成形して、コアとなる魔石をはめ込んで動かす、という方法ね」
「結構簡単だな」
「言葉だけで説明すると簡単だけど、難易度高いのよ。戦場だから敵の攻撃はあるし、そもそも魔像の成形をする魔術自体が難しいのよ」
「なるほど。そしてそこまでのことをして出来上がった魔像も、石魔像だからあまり強くないと言うことか」
「ちょっと、弱いなんてひとことも言ってないわよ!?」
「いや、弱いと思うぞ」
あれを見ろ、と指差してみる。
そこにあったのは、見るも無残に粉々になった石魔像Ⅷ型の姿があった。
「あぁアアアああアああァ!?」
そしてレオナが軽く発狂した。落ち着けレオナ、まだこれはたぶん序の口だぞ。
「ちょっといいですか。人類側の兵器は何を使ったんですかね?」
「――これです」
情報局の人が指差したのは、小さな大砲という感じの兵器だった。
形から察するに対戦車砲、いや対魔像砲だろうか。しかし鹵獲兵器の中には似たような物もある。
「陛下。お手数かけますが、あれの筒の長さと穴の直径を識別魔術で調べてくれませんか? 詳しく知りたいので」
「わかった。少し待て」
識別魔術は行った者の魔力保持量によって正確さが異なる。今回は砲の筒、つまり砲身を1ミリ単位で計測したいので、陛下の力を借りた。
陛下の識別魔術によると、砲身の穴の直径は1.45インケ、砲身の長さは1,809インケ。インケは現代地球に例えるとインチに相当する単位だ。
つまりメートル法に換算すると直径3.7センチで砲身長はその約45倍の165.5センチメートル。
あの対魔像砲は名付けるとすれば「45口径3.7センチ対魔像砲」となる。
3.7センチ砲か……。やっぱり大戦中レベルまで技術力が進んでるのか、人類軍とやらは。
でもここから8.8センチとかが出てこないだけまだ温情かな? 並べられてる大砲にはどう見ても重砲の類があるんだけれども。
「この対魔像砲、弾種は何を?」
「えっ」
「あぁ、ごめんなさい。勝手に名づけました。筒の中に入れる奴のことです」
大砲なんてものがない魔王軍だもの、「弾」と言われても何を言わんかやだろう。兵器の名前含めて、あとでコードネームでもつけようかな。エミリーとかジークとかフランカーとか。
「物と衝突した瞬間、爆裂する塊を入れました。もう一方は、対象と衝突して少し経ってから爆裂する仕組みのもですね」
「ふむ。前者が榴弾、後者が徹甲弾かな」
「はい?」
「こっちの話です」
こういう些細な話が通じないのが凄くもやもやするが、今はいい。
今魔像を撃ったのは、衝突した瞬間爆裂する物だと彼は言った。つまり地球的な言い方をすれば触発信管の榴弾だ。
んで、対象の魔像は……あの通り粉微塵である。
これじゃあ徹甲弾を試す意味はないな。たぶん貫通して魔像に大穴を開け、だいぶ離れたところで爆発することになるだろう。
所詮石だからね、仕方ないね。下手すりゃ榴弾ですら貫通しちゃうだろうなぁ。
対魔像砲で石魔像が木端微塵に壊れることは分かった。
もっと威力の低い、小銃や機関銃、対魔像ライフルなんかでも試してみよう。
「アキラちゃんのばかぁ~。私の魔像ちゃんがぁあああ……」
問題は開発者の心までも砕け散るのではないのか、という心配である。壊れた魔像を前にレオナがマジ泣きしてるのだ。
「レオナー。魔像は結構種類あるぞー。今から泣いてたら脱水で死ぬぞー」