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開発局にやる金はそんなにない

「で、レオナ。どう思うよ」

「なんで私に聞くのよ」

「いや、消去法でレオナくらいしか気軽に相談できる奴がいなくて」


 数日経っても全然改善されないリイナさんと俺の微妙な空気、相談しようにも同性がいないから相談に困っていた。


 陛下は立場上無理だし、エリさんやユリエさんは会ったばかり、ソフィアさんに相談したら、たぶん舌打ちされそう。


「だからレオナに」

「……それはそれで喜びの前に腹が立つわよ」

「でも放置しておくべき問題じゃないと思ってさ」

「別にいいんじゃない? その内慣れるわよ」

「そう言うもんか」

「うん、すごくどうでもいいわ」


 …………。


「なぁ、もしかしてレオナって研究以外は結構適当な奴だろ」


 俺の言葉には馬耳東風だし、魔石・魔像の形式は減らないし、部屋は片付けないし服は汚れている。

 風呂とか入ってなさそうなイメージがあるが、その割に髪型はバッチリ決まっているというちぐはぐさ。それがレオナ。


「…………あ、そうそう。新しい魔石開発の研究予算欲しいんだけど」

「話の逸らし方が雑すぎんだろ! あと魔石開発じゃなくて削減するよう言っただろう!?」

「そうすることで本来の話の道筋を逸らすことに成功するのよ!」


 あ、本当だ。っておい、それ言ったらダメだろ。


「で、話し戻すけど」

「雑に話逸らした奴が戻すのかよ」

「ちょっとでも君と話したくて?」

「嘘吐け」


 このマッドさん、本当に何考えているのかわからない。

 それとも、女心がわからない俺が悪いのか? いやしかしここで「あれ、もしかしてこいつ俺の事好きなんじゃね」と勘違いする素地もないのだが。


 だってレオナだし。


「でまぁ、話を戻すとね、そこら辺は下手に手出ししない方がいいと思うのよ。女の子って繊細な生き物だし」

「レオナが言うと説得力ないな」

「私のことなんだと思ってるの!?」


 狂信的魔術研究者マッドマギストだよ。


「そんな失礼な事言ってるから嫌われるんだよ! もうちょっと女子に優しくしなさい!」

「大丈夫大丈夫、レオナにしかこんな態度取ってないから。レオナだけ特別だから」

「そ、そうなの?」

「そうだよ? あぁ、嫌なら考えるけど」


 考え改めるとは言っていないが。


 寿命の長い獣人だから遥かに年上、というのはわかっているが、どうも彼女は数年来の付き合いがある馴染みの親友という感じがするのだ。

 それは勿論、彼女だけタメ口OKで、さらに彼女は奇天烈な性格の持ち主であるというのも原因ではあるが。


「い、いや、大丈夫。今更丁寧にされても困るから」

「ならこのままでいいな」

「うん」


 よし、これでこの件は解決だな。いやぁ一時期どうなることかと……?


 ……。


「…………何の話してたんだっけ?」

「やだなぁアキラちゃん。私に臨時研究予算くれるっていう話でしょ?」

「おっと、そうだったそうだった。なんだっけ、新しい魔石の研究だっけ?」

「そうそう! 新しい魔石の精製方法を思いついたんだけど今ある研究設備じゃちょっとできなくてさ、ちょっとばかし工面してくれない?」


 なるほど。どこの世界でも設備には金かかるものな。


「どれくらい必要なんだ?」

「えーっとね、設備購入費用と備品購入費用と整備費用を合せて……」


 これくらいかな、というザックリとした概算を見せてくるレオナ。ちなみに通貨の単位は魔王ヘル・アーチェ陛下の名前を取って「ヘル」である。


 そしてレオナから貰った概算費用は、開発局の年度予算の4割程の額だった。

 なるほどね。確かに研究は金がかかる。費用対効果の認識もかなり特異なものとなるから他の部局と同じやり方で予算を決めるのは危ない。


 そう考えると、答えは決まっている。


「却下」

「なんでよ! 今ちょっと受け入れてくれるような雰囲気だったじゃない!」

「雰囲気で予算決めてるわけじゃないからな」

「鬼! 悪魔!」

「種族は人間ですが何か」

「そういう意味じゃない!」


 叫び過ぎてぜぇぜぇと息が上がるレオナ。

 なんで彼女と話すと毎回こういう会話になるのか不思議である。陛下との会話とは別の意味で疲れるよ。


「レオナ、今お前がやることは魔石と魔像の形式数を減らすことだよ。何が不要で何が必要なのかを見極めて、そこから新魔石技術を研究するのであれば追加予算も考えるけど」

「やだ。どうせ考えるだけでしょ」

「なんでレオナも俺の心が読めるの?」

「アキラちゃんの性格考えたら結論なんてすぐに出るわよ」


 そんなにわかりやすい考え方してるかな、俺って。


「でもな、今は追加予算申請は結構どこからも来てるんだよ。輸送隊からも、情報局からも、戦闘部隊からもな。当然、兵站局も欲しい。開発局だけ優遇するわけにもいかない」


 特に情報局からの申請は群を抜いて多いんだ。

 どこに割り振るかだけでもかなり頭が痛くなることで……。


「良いじゃない別に。輸送隊の方の状況は知らないけど、情報局は無視しても良いと思うわ。あいつら『情報収集』っていう名目で宴会開いてるし」

「おい待てそれどういうことだ」

「商会やギルド、軍内部のお偉いさんと酒を酌み交わしてコネ作ることによって防諜と予算膨張に貢献してるんだってこの前奴ら自身が自慢してたわ」

「おっけー、わかった。来年度の情報局の予算削っておく」


 と言っても臨時予算を削るくらいしかできない。年度予算の決定は政治家の仕事だ。


「……っと、そうだ。情報局で思い出したが……開発局って情報局と連携して、鹵獲武器の研究もしてるんだっけ?」

「え? そうだよ? 言わなかたっけ?」

「初耳だよ」


 鹵獲兵器の研究、戦争やっていれば当たり前だが兵器は取ったり取られたりの繰り返し。

 そこを研究して相手の弱点を調べるのも戦争のひとつだ。そして相手の弱点と共に、自分の弱点も知ることができる。


 アクタンゼロ然り、函館のMig-25然りである。


「今度、その鹵獲兵器を見てみたいんだが」

「わかった。今すぐはちょっと都合悪いから、来週で良いかな」

「いいだろう。予定を組もう」

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