ねんがんの、しんじんをてにいれた
「アキラ、ご要望の人員を確保しておいたぞ!」
2日後、本当に陛下が新入りを連れてきた。流石である。
兵站局の新しいメンバーは3人。
当たり前だが全員人外。そして予想外な事がひとつあった。
「ありがとうございます、陛下」
「気にするな。さて、と。じゃあエリから順番に自己紹介と行こうか」
というわけで、今後の兵站局幹部となる3人の新人の楽しい楽しい自己紹介タイムである。
学校のクラス替えを思い出すね。
「はぁい、私はエルフ族のエリ・デ・リーデルです。商業ギルド『オリエール』から来ました。事務は一通り経験していますケド、初めてのことも多いと思います。だから、何かとご迷惑をかけると思います。ご指導、ご鞭撻の程をよろしくね、局長」
1人目はエルフ族の女性。
耳が長くて金髪で俺より長身というピク○ブに描いたようなエルフである。間延びした口調も相まってお姉さんっぽい。
胸も含めて包容力のありそうな女性である。
胸も含めて包容力のありそうな女性である。
胸も含めて包容力のありそうな女性である。
「大丈夫ですよ。こちらも仕事は始動し始めたところなので、どうぞ肩の力を抜いてください、デ・リデールさん」
「ありがとうございます。あぁ、私のことは『エリ』で構いませんよ。デ・リデールだと堅苦しいからぁ」
「わかりました、エリさん」
ふむ。
事務経験者というのなら次期兵站局長はエリさんでいいかな。とりあえず副局長席は彼女で良いだろう。能力・人格・容姿、どれも問題なし。
……エルフだと年齢が気になるところだけれど、女性にそれを聞くのはまずいだろう。二〇〇歳と言われても許容範囲です。
次。
「オレはユリエ、姓はない。工房『ガレリエ』から来た! よろしく頼むぜ、局長さん!」
「…………」
「どうした局長さん、オレの顔になんかついてるか?」
「いや、なぜ子供がいるのかと……」
「失礼な! オレは22だぞ!」
2人目は、エリさんと比べて頭が2つ程低い身長の持ち主だった。
肌は褐色で、髪は黒。工房から来たせいか、職人の様に頭巾を巻いていた。
陛下曰く、彼女は「ハーフリング」と呼ばれる小柄な種族らしい。
寿命は人間と同程度。なるほど、なら22歳というのは「大人」だ。
「申し訳ありません。ハーフリングの方に初めて出会うので」
「ふんっ。次からは気を付けろよ!」
あ、ちなみにこの方は女性です。オレっ子褐色ロリです。
どういうことやねん。
こんなノリでこんな形でも事務仕事が出来ると言うのだから、世の中わからないものである。
「……そ、その、私は、魔都第Ⅱ研究所から来ました。その、り、リイナ・スオミ、です。前は、研究所の資料室で働いてました……です。よ、よろしくお願いします、局長、様……」
「……あー、よろしくお願いします。リイナさん」
「ひっ!」
「あぁ、ごめんなさい。いきなり名前で呼ぶのはまずいですよね!」
「い、いえ、大丈夫です……です。スオミは、故郷だと、その、よくある名字だったので……」
最後の1人は、コミュニケーション能力に若干の問題が……いや若干と言うレベルを超えているほどの人見知りが激しい少女だった。
おどおどしててちょっと可愛い……。
「コホン」
「ひぃっ!」
後ろからソフィアさんの威圧感ある咳払いが放たれ少しびっくりしてしまった。
また心の中が読まれてしまったのか。しかも後ろから!
「リイナさん、よろしいですか?」
そんなソフィアさんが、リイナさんに話しかけた。
「な、なんでしょうか……?」
「間違ってたら申し訳ありません。あなたの種族、もしかして淫魔ですか?」
えっ、淫魔?
淫魔って、もしかしてあの淫魔? サキュバス?
まっさかー。淫魔と言えば人間の精液を糧とする悪魔だよ?
こんな小動物みたいにおどおどしている淫魔がいるわけ「そうです……」あったの!? え、こんな性格な淫魔いるの!?
確かに、リイナさんの頭には小さい羽が生えてて背中にもそれなりの大きさの羽があるしあまり主張しない尻尾も生えてるから「悪魔かなー」とは思ってたけど……。
淫魔とは予想外だ。
……いや、種族で差別するのは恥ずべき行為だ。
それに淫魔ということを抜きにすれば、彼女は普通の少女に見えるし。
「……そ、そうだったんですか。じゃあリイナさん。よろしくお願いします」
「…………おねがいします」
蚊の羽音に負けるくらいの小さな声で、リイナさんは答えてくれた。これが淫魔って、どういうことなのだろうか。
あとで淫魔の生態系調べてみよ。
「よし、これで無事自己紹介が終わったな!」
そして空気を読まない陛下は、満足そうに何度も頷いた。
魔王っていう仕事は気楽でいいな、と思ったのは内緒だ。それよりも確認したいことがある。
「あの、陛下。よろしいですか」
「なんだアキラ。人選に不満があるのか?」
「いえ、そうではないです。いやある意味ではそうなのですが」
「迂遠な言い方をするな。どうしたんだ?」
いや大したことじゃないのだ。
でもみんなが気になるであろうことを俺は聞かなければならない。それが兵站局長としての務め……なわけないが、どうしても気になることがひとつ。
「あの、どうして全員女性なんですか?」
おかしいよね? 3人いるんだから1人か2人は男でもいいよね?
というか俺は男なのだからどうせなら同性の同僚がいれば何かと楽だったのだが。愚痴的な意味で。
「……不満なのか? てっきり喜ぶかと思ったのだが。もしかして君は同性愛――」
「違います。私はちゃんと女性が好きです」
世の中には同性愛者はいるしそれはマイノリティであはあるが別におかしなことではないと思う。
だが俺は他の多数派と同じく清く正しい純情で健全な異性愛者の男である。そりゃ、容姿端麗美少女美女美人美幼女に囲まれるのは嬉しいけれども。
「なら問題あるまい! 一夫多妻制、大いによろしい! これは私からの些細な礼だ!」
「そういう問題ではないです!」
畜生、そういうことか! 違うと良いな、と思ってたけれどやっぱりそういうことかよ!
俺が生物学的に男だからか!
「陛下、変な気配りは不要です! ただ優秀であれば性別はなんでも……」
「つまり女性に固めても問題なかろう?」
「そうですけれども!」
「ふむ? あぁ、なるほど。つまり好みの女子ではなかったということか。すまんな、君の好みを把握していなかった私の落ち度――」
「どうしてそうなるんですか、違いますって!」
俺以外全員異性って仕事がやりづらくなるでしょう!?
少しは同性を入れてくれないと息が詰まりそうになるんです!
それに今後も人員増強する予定あるから、女性ばかりだと困ります! コミュニケーション的な意味でね!
日本にいた頃は、そういった話とは縁がなかったから余計に対処に困る。
「これからも人員は増えるんですから、男性も普通に入れてくれないと困りますよ! 後続が!」
「君が、ではなく?」
「私もですけれども!」
「なるほど、そういうものか。よくわかった」
「わかってくれましたか」
必死の説得の上にようやく理解してくれたようで何よりである。
なぜ俺はこんなに必死になって陛下に説得しているのだろうか、と若干賢者モードに入りそうだったのだ。
いやホント、なんでだ。
「そうか。では3人の中から誰か1人を男と交代し――」
「あ、それは結構です。折角連れて来てもらったのに、戻されても困るでしょう」
「うん? そうか、そうだな」
「そうです」
これでも俺は男だからね。
でもこの後、滅茶苦茶ソフィアさんに溜め息吐かれた。
だから心を読むなって。