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やっぱり魔石が多すぎると思います

「そういうわけでレオナ。魔石減らせ」

「えー……」

「『えー』じゃなくて。あと魔像も減らせ」

「やだー」

「子供か!」


 開発局の事実上のトップ、レオナさんと二人きりで話合いである。


「昨日輸送隊倉庫の様子見てきたけど、輸送隊の人たち魔石の区別ついてなかったぞ!」

「え、うそ。あんなのも見分けつかないの?」

「だいたいの奴らは見分けつかないの!」


 使用頻度が高いだろう紅魔石と純粋紅魔石の見分けも付かずに運び出そうとしていた。

 これはもう現場は大混乱だろう。爆発的な意味で。


「もし改善が見られないようなら、強硬手段に出ます」

「……何? 陛下に直訴するの? そうなったら私も陛下に」

「陛下に直訴するのは当たりだけど内容は別件だよ」

「それはいったい……?」

「うん。開発局を開発部に格下げして兵站局の下に入れる」

「待って待って待って待って。本当に待って!」


 俺が強硬手段を明かすと、レオナの目がみるみる変わっていった。

 当然だろう。なぜなら――、


「そうなったら、魔王陛下の承認で予算ふんだくってたのにこれからは出来なくなるじゃないの!」

「ふんだくってるっていう自覚あったのか!?」


 そういうことである。


 開発局の予算権を兵站局に委譲する。

 するとどうだろう。予算がないから開発局は自由に兵器開発が出来なくなるのだ。


 いや、でもそれが普通だと思わない?

 確かに自由な研究と言うのは科学力、いや魔学力の発展を促すだろうけれど自由すぎるのはダメだろう。


 予算だって無限にあるわけじゃないし、現場の要望に応じた兵器を作ってほしい魔王軍としては、予算権を上位の部局に委譲すべきだと思うのだ。


 本音を言えば、このマッドなレオナに予算をふんだんに与えたらどんなものを作るやら、という切実な思いがある。


 たぶんこいつ、放っておいたらガン○ム作るんじゃないか。

 いや現時点で一部の特殊魔像はガ○ダムの領域に片足突っ込んでる。男としてはそのロマン実現させてあげたいが今はそんなこと言ってる暇はない。


「今まで適当な事言って予算に関してずぼらな陛下から予算獲得して好き勝手開発してたのに、それがもうできなくなるじゃないの! それだけはダメ!」

「今の話聞いたら余計この事言いたくなるだろ! お前本当に陛下に忠誠誓ってるのか!?」

「当たり前よ! (ロマンを語っただけで予算くれる)魔王陛下を敬わない奴なんていないわ!」

「せめて少しは本音を隠す素振りをしろ!」


 あと陛下、ロマンより実用性を優先してください! いくらなんでも適当すぎます!


 しばらく口喧嘩というか口論というか議論を経て、体力が消耗しきったところで日が暮れた。

 当然だが、レオナは折れなかった。


「まったくもう、なんでアキラちゃんはそんなに私に突っかかるかなあ」

「まずアキラちゃんって言うのやめて」


 せめて呼び捨てにして。


「これが陛下から与えられた仕事だから」

「……でもアキラちゃん純人間でしょ? 陛下に忠誠尽くす義理はないんじゃないの?」

「いやいや、仕事しないと殺されるから」


 30年かけて描いた魔術陣で召喚されたのだ。せめてそれくらいはしないと命がない。


「陛下にとっては30年も1日も変わらないと思うけど」

「そうか? 俺にとっては長いが」

「そりゃそうよ。人間なんて頑張っても100年生きないじゃないの。私なんてもう86歳よ?」

「なん……だと……?」


 そういや獣人はもともと寿命が長いってソフィアさんが言っていたっけ。

 ということはソフィアさんもバ……いやよそう。


「たぶん陛下に本気で泣きつけば、解放してくれると思うわよ。ていうか、去年までここで研究してた同僚が陛下に本気で泣きついて解放してくれたわよ?」

「それはレオナのせいだろ」

「どうして私のせいなのよ! 私はただ単純に研究がしたいだけなのに!」


 ただ単純に研究がしたいという気持ちが強すぎるからでは。


「だから、君も陛下にちゃんと言えばこんな面倒な女の子の相手しなくても済むよ?」

「86歳で女の子っていうのは無理があるのでは」

「ねぇ知ってる? 私の開発した魔術には肝臓を抉り取る魔術があるのよ?」

「申し訳ありませんでした!」


 開発局の床を額で感じ取りました。冷たかったです。


「まったく……。で、話戻すけど、こんな面倒な仕事しなくて済むのだから、陛下にちゃんと言えばいいじゃない」

「うーん……」


 確かにあのヘル・アーチェ陛下は寛大な方だ。

 でなければ、不倶戴天の敵である人間を部下として迎えようなどとは思わないだろう。


 じゃあ今からヘル・アーチェ陛下の下に行って頭を下げるか、と問われると悩むしかない。……いや、悩むことでもないかもしれない。


「やっぱり俺はこの仕事をするよ」

「……なんで?」

「うーん、説明しにくいけど……必要とされている、って言う感じがあるからかな?」


 現代日本じゃ、俺はただの社会の歯車だった。よくある替えの効く歯車で、労働法なにそれ美味しいの労組仕事しろという感じの企業の中で必死に生きていた。


 何もなしえず、何もできず、必要とされずに俺は運のバーゲンセールをした後死んだ。

 そしてここに来たら、今までの人生と打って変わって、曲がりなりにも必要とされていると感じたのだ。


「でも、他の奴らからは『人間だからダメ!』とか言われてるでしょう?」

「おや、知ってるのか」

「そりゃ、魔王城にいればわかるわよ」

「それもそうか。……確かに、そういう輩は多い。でもそんな奴が多くても、あの魔王陛下は俺を必要としてくれてる……と思うし、一緒に仕事をしてくれるソフィアさんもいる。だからその……なんていうか、生き甲斐があるんだよ」

「たとえ変な奴にからまれて面倒な仕事をしていても?」

「自覚あったの?」

「えっ? 私の話じゃないよ?」

「えっ?」


 なにそれ怖い。


「……まぁでも、本音を言えばレオナとこうやって会話するのも嫌ではないけれど」

「…………変なの」


 変かな?


 確かに彼女、レオナはマッドだし変人だし話がかみ合わないと言うか、話が進まなくて面倒だけれど、でも会話は楽しいような気もする。


 無論、いつまでも会話している暇はないからさっさと折れて欲しいのだけれど。


「この答で納得してくれたか?」

「……納得してはいない……けど、まぁ満足かな」

「そりゃよかった」


 よかった。

 のだろうか。話進んでないような気がするけれど。

 も、もしかして良いようにレオナに話を引き延ばされた!? こんな話はとっとと切り上げて本題に戻すぞ!


「というわけで、最初にも言ったように俺の生き甲斐のために兵站改善に協力してくれ。ちょっとずつでいいから!」

「んー……しょうがないにゃぁ、いいよ」

「畜生! やっぱりダメ――って、えっ?」


 今なんて?


「今なんか初めて猫人族みたいなこと言わなかった?」

「アキラちゃんは猫人族をなんだと思ってるわけ?」


 猫人族だからといってにゃんにゃんいつも言ってるわけじゃないらしい。


「それはさておいて、いいよ。協力してあげるって言ったの」

「な、なんで?」


 予想外だった。

 いい話風に終わって最後に全力で拒否するレオナで落ちがつくと思ったのに!


「……満足いくお話を聞いたお礼、ってとこよ」


 ますますよくわからない。


 彼女とは会って間もないが、レオナという猫人族の行動は奇怪すぎる。

 おっと、そう言えばまだ話は終わっていなかった。感動のあまり帰りそうになったよ。


「代わりと言ってはなんだけど、兵站局からひとつ頼みたい話がある」

「えー、まだあんのー……?」


 魔像・魔石削減はハッキリ言って賛同すると思わなかったから、こちらの方が本題だった。今となってはどっちも本題。


 でもこっちの方は「開発をやめろ」という要請じゃないぞ。


 好きなもの研究できるとも言ってないけどね!


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