表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/216

召喚の儀式

 窓もなく、明かりもなく、ただ天井から注がれる光によって微かに照らされているホールのような大広間で、1人の女性と、幾人もの従者が立っている。


 光照らす大広間の中心には、幾何学的に描かれた大きな魔術陣があり、それを囲むように人影がある。


「――普く生命、普く世界。全ての力を以って、我、神聖なる儀式を執り行う」


 女性が静かに言葉を紡ぐ。

 彼女の言葉に呼応するかのように、魔術陣が仄かに光る。


「我に忠実なる僕を」

「我らに救いをもたらす救世主を」

「世界に革新をもたらす革命家を」

「此方に」


 女性と、従者の口から言葉が放たれる。

 言葉は力となり、力は光となり、光が魔術陣に吸い込まれる。


 魔術陣の光度は、彼女らが言葉を放つ度に、呪文の言葉を口にする度に増していく。


 やがて魔術陣は、大広間を明るく照らし、従者の目から視力を奪うほどの明るさを、力を、そして救いを世界にもたらす。


「我の名は、ヘル・アーチェ」


 女性は名乗る。

 神聖なる儀式は完成しつつある。


 彼女らに救いをもたらし、

 彼女に忠実なる僕を、

 世界に救いをもたらすべく召喚される、

 新たなる救世主。


「我の名を以って、召喚する」


 彼女らを救うために、召喚される。


 ヘル・アーチェの言葉と共に、光は奔流となって彼女らに襲い掛かる。そして光の中に影があることを、彼女は見た。

 光が収まると同時に、魔術陣は消え失せ、そして影が形となって彼女らの目にしっかりと映る。


 成功だ、大成功だ。

 彼女は、ヘル・アーチェは歓喜した。


 神聖なる儀式によって生まれた、新たなる救世主の出現。

 世界を救済する、神聖なる英雄の誕生。


 これで我々は救われる。


 誰もがそう思ったに違いない。


 人影が、何か言葉を発する。


 どのような言葉を発するのか。

 ヘル・アーチェに忠誠を誓う言葉か、世界を救う存在に相応しい力強い言葉か。誰もがその人影の言葉を待った。


 そしてその人物は、ついに声帯を震わせ、空気を震わせ、この世界の言語で以って口を開く。


「あのー……」


 ……ん?


 召喚者らは一斉に首を傾げる。

 何かがおかしい。救世主が発する第一声としては何かが、というより何もかもがおかしい。


 困惑する彼女らの様子を見ているのか見えていないのか、人影、少々変わった服を着るごく普通の「人間」の男に見える者が、ついに待ちに待った言葉を出す。


「――えーと、どちら様でしょうか? ここはどこ? きゃんゆーすぴーくいんぐりっしゅ?」

「「「…………」」」

「英語じゃダメなのか……」




 こうして、現代日本でごく普通の人生を送っていたはずのただの「人間」が、多くの者たちの期待を背負って召喚され、そして召喚された瞬間多くの者達の期待を裏切ったわけである。



 これは、そんなちょっと残念な運命を背負わされた人間の話である。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ