青空プロレス5
ふう、なんとか終わったな。
俺は勝利のアピールをしつつも、内心では安堵していた。非常に疲れた。風呂でも入ってリフレッシュしたい。いや、体力的には大したことはないんだが、今回は精神的にな。
今回やったプロレスは、言ってしまえばただの一人芝居だ。オンブルくんと名付けた丸太相手に、おっさんが暴れていたにすぎないわけだ。
客観的に言ってしまうとなかなか酷いな。まあ、事実だから仕方がないか。
お、シルクだ。隣にはアンダーソン。どうだ、楽しかったか? お、楽しんでくれた様だな。あの草っ原から連れ出したかいもあったってもんだ。でもまだまだだ。まだまだ楽しませてやるからな。
「ソレイユっ」
シルクの声だ。おれはガッツポーズで応える。すると……
「ソレイユっ」「ソレイユっ」「ソレイユっ」「ソレイユっ」「ソレイユっ」「ソレイユっ」「ソレイユっ」「ソレイユっ」「ソレイユっ」「ソレイユっ」「ソレイユっ」「ソレイユっ」「ソレイユっ」「ソレイユっ」「ソレイユっ」「ソレイユっ」「ソレイユっ」「ソレイユっ」「ソレイユっ」「ソレイユっ」「ソレイユっ」「ソレイユっ」「ソレイユっ」「ソレイユっ」……
シルクの声に続けと大歓声。
「おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ」
俺は雄叫びをあげ、大きくガッツポーズ。
この世界で初のプロレスは、こうして大成功で終わった。
プロレスには二種類の試合がある。
一つは『ガチンコ』『セメント』『シュート』とか呼ばれる試合だな。
細かく言うとそれぞれはまた違った意味があるんだが、共通点はシナリオのない戦いと言うことだ。本気同士でぶつかり合い、その結果、相手が潰れてしまっても構わないと言う戦いだ。むしろ潰してしまおうと戦う事さえある。
この前のザレバとの戦いなんかが、まさにそれだな。
で、もう一つが『ブック』『ワーク』とかだ。
これはさっきの逆だ。つまりは、筋書きのある戦いだ。
この説明だと眉を潜める人がいる。『八百長』と声を上げる人がいる。『やっぱりね』と呟く人がいる。かく言う俺もそっち側の人間だった。
それはまだ俺が初だった頃だ。プロレス団体に入りたての頃、俺はプロレスには『セメント』しかないと思っていた。だから試合の打ち合わせを事細かくしているのを見て、ぶちギレた。まあ、まだまだ弱っちかったので、先輩に簡単に押さえ込まれてしまったけどな。
で、だ。『八百長じゃねーか』『辞めてやるっ』『真剣勝負じゃねー』って騒いでいたら、社長が言ったんだ。
『八百長? そうかもな。辞める? どうぞどうぞ。今までもこれが原因で、ここを去った奴なんて無数にいた。だがな、真剣勝負じゃないだと? お前はプロレスの何を見てきたって言うんだ?』
そのままリング側まで、髪の毛掴まれて連れていかれたよ。でも、そこで初めて『プロレス』を観たんだよ。プロレスはレスラーが、ただリング上で戦っていればいいもんじゃない。レスラーが、レフェリーが、観客が、会場全部で作り上げる物だった。
何より、『真剣勝負』その物だった。
技をかける方とかけられる方。
一挙手一投足まで真剣勝負だった。真剣でなければ、基本的なボディスラム一つで大怪我だ。
そして、観客とも真剣勝負だ。
手を抜いた勝負はすぐに観客にバレる。そうなるともう盛り下がるだけだ。
そんなわけで俺はそれから20年以上もプロレスを続け、死んだ後もこうやっているわけだ。
かなり話がそれたな。
まあ、なんだ……話を戻すが、今回やったプロレスは『ワーク』の方だ。
プロレスの『受け』の技術は受け止める、受け流す、受け入れるとかあるわけだが、それらは強い肉体を魅せるための技術でもある。それにはより派手に見せるって要素もあるわけだ。投げられた時により大きく投げられる、より大きな音で叩きつけられるといった感じだ。
そう言った技術をフルに使い、丸太とのプロレスを成立させたわけだ。やろうと思えば子供や人形、小動物でさえ成立させてみせるさ。実際やってる奴もいたしな。
そんな感じの説明を、次の日……今さっきのことだがやった。
昨日?あれからすぐに風呂入って寝たさ。前準備に、ここ数日あまり寝ていなかったしな。
で、今日、オーガウさんやアンダーソンに聞かれて説明だ。
「一人芝居……あれが……」
「バントマイムってショーの技術があるんだが、今回やったのはそれに近いかもな」
「私にはあの丸太が、動いていたようにしか見えませんでした。でも魔力の気配はないし、トレントみたいな魔物じゃないのは確認済みでしたからね。ずっと今まで混乱しっばなしでしたよ」
「それはすまなかったな。でも、初めてのプロレスだ。みんなにネタバレなしで見てほしかったんだよ」
手品みたいなもんだ。まだこの世界にゃ分かっていても楽しめる土壌がないからな。余計な情報がない方が驚き、楽しんでもらえるはずってな。
「筋書きのある真剣勝負か。そりゃ八百長って言われても仕方がねーわな」
「ダメか?」
「いやいや、あれを見て、あの歓声を聞いて、ダメなんて言えねーよ。俺自身が感じたものの裏切りになっちまう」
「そうですね。あの場での一体感と熱い思い。紛れもなく、あの感情は本物でした」
認めてくれる人がいる。それはこれから歩いていく道を、照らしてくれる光明だ。その人達が……ファンがいてくれればプロレスはやって行ける。俺は前を進んでいけるだろう。
また、中には認めてくれない人もいるだろう。レスラーでさえ認めれず、違う世界に移る者もいる。それが悔しかったら認めさせろ。侮られたのなら見せつけろ。それがプロレスだ、
これがプロレスなんだと。
「なあ、俺にも……俺もあの歓声の中に立てるか」
立てるかってリングの上にか、アンダーソン? それってつまり……。
「プロレスを、レスラーになるつもりか?」
「なれるのならなってみたい」
「練習は結構きついぞ。その膝も治さにゃならんし」
「ああ、一から鍛えてくれよ。今の俺には投げられても大丈夫な技術はねーしな」
怪我はしたが体力も力もある。まだ若いし、技術も覚えれるだろう。何よりこの巨体はおいしい。結構な優良物件じゃないだろうか。
「一つ聞かせてくれ。何でリングの上に立ちたい?
」
「力競べでリングには上がったが、あんな声援はなかった。何が違ったのか、あの声援をあびるとどんな気持ちなのか、俺は知りたい」
ああ、いい。要するに目立ちたいって事だ。目立って歓声を。それはエンターテイメント、プロレスに必要な要素だ。
「分かった。プロレスは本来二人以上でやるものだ。今日のはインパクト勝負でやったが、はっきり言って邪道もいいとこだ」
「なら、本来の、正道のプロレスつてやつを教えてくれ」
お互いの手が自然に前に出る。そして握る。力一杯の握手だ。
「教えるさ、プロレスを。聞かせてやる、お前への歓声を。そして見せてやる、リングの上で新しい世界を」
「で、話は終わったの?」
部屋を覗きこむ4つの影。
一つは声の主、シルクだ。
もう一つは最近シルクと仲がいい、リスティナさん。頭部よりも胸が隠れていない。
残り二つの影は……。
「何をなさっているのですか、アクエリアス王女」
今の声はオーガウさんだ。
まあ、近衛兵として守るべき存在で、自分の許嫁が珍妙な行動をしていれば、声をあげても仕方がないか。
「私も気になったのですよ。昨日のプロレスと言うものには」
王女様は扇子で口許を隠しつつ話す。上品……なのか?良くわからん。
「だからと言って、覗き見、盗み聞きはどうなんですか。貴女も止めて下さい」
オーガウさんが声を向けたのは4人目の影。それは俺付きの女給さんだった。なんであの人まで。
「申し訳ございません。一応は止めたのですが押しきられてしまいました」
まあ、女給さんの立場じゃ仕形がないのかも知れない。この国の王女アクエリアスに来賓待遇のシルクだしな。
「まあ、なんだ。気になるのなら入って来ればいいのに。王女様なんだしな。自分ちなんだ気にすることでもないだろ」
「あれ、いくら王女と言えど、格や位は英雄の方が上なんですよ」
マジか、今更ながら英雄偉いのな。王女に召喚されたから、王女の下って普通に思ってたわ。
「それに……殿方のお部屋に入るなんて、はしたないですわ」
あ、分かった。あの扇子で口隠すの上品でも何でもないわ。ただ単に浮かんでくる笑みをあれで隠してるだけだよな。つまりはからかっているだけだ。
「それにね、ちょっと話してる内容が汗臭いなって」
シルクぅっ。
ま、まあ、シルクが仲良くする人が増えたって、喜んでおこう。
次回『結成』
ソレイユと同じ世界の話を始めました。
駄エルフさんは寝て過ごす
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駄エルフさんと少年のお話です。




