千切っては投げ
俺はアニメとか子供向け番組をほとんど観ない子供だった。そもそもテレビ自体、あまり見ることもなかったが。
ただ、土曜日の昼間にやっていたプロレスだけは欠かさず観 、そしてプロレスラーに憧れ、体を鍛えた。いつか俺も……と。
そんな俺が一番アニメを観ていた頃がある。
それは20代も後半になってから。若手筆頭だった俺が、ソレイユとなることが決まったからだ。毎週水曜の夕方。元々キャラクターを掴む為に観始めたのが、いつの間にかのめり込んでいた。
『太陽さんはヒーローに免疫がなかったんスよ。大抵の奴はガキの頃にアニメや漫画、特撮とかゲームで体験しているもんです。太陽さんの場合はそれがプロレスだったんスけど。で、太陽さんの体験しなかったヒーローにあってプロレスにないものがあるっス。それは物語っスよ。しかも王道的なアツい物語。それを体験したことがなかったから、太陽さんはコロっといっちゃったんです。』と語ったのは後輩か。
とにかく、俺は好きらしい。
勧善懲悪とか熱い友情ものとかが。
そして『弱きを助け強きを挫く』ヒーローものが。
ゾロゾロと現れた餓鬼……ゴブリン。そのうち一匹がその手にもつナイフを、いまだ動けない騎士に向けた。いくら鎧を着ていようが、倒れ動けないのでは意味がない。全身鎧と言っても稼働させるには隙間があり、そこを刺されてはひとたまりもない。
「ぬりゃぁっ。」
「ギャブ?」
「魔人?」
俺とゴブリンの目が合う。おー驚いとる、驚いとる。初めてか?ドロップキックは。
「ギャ……」
推定200キロの体重で放つドロップキック。 勢いも全て乗ったそれは、ゴブリンを貫き、上半身を消滅させる……グロいな……でも呆気ないし冷静だ。はじめての殺傷なのに。
世界は違い、ゴングもリングもない。しかし、俺のなかにはある。耳には聞こえないゴングが鳴り、目には見えないリングが。その上に立つ。
そこには覚悟が産まれる。死んでしまう覚悟と死なせてしまう覚悟。いや、死ぬ覚悟と殺す覚悟だ。
上半身のないゴブリンが黒い塊とモヤに変わる。やがてモヤは宙に溶け、塊は俺のなかに吸い込まれる。なんだ、これは?赤い魔力の時と似ているような。
「ソレイユー、魔物は死ぬと黒い魔力へと変換されるよっ。でねっ、ソレイユが倒したその一部は、倒したソレイユのものになるの。いっぱい貯めるとパワーアップ♪」
妙な生態を……つくづくここが異世界と思い知らされるわ。だが、そういう仕様ならグロを気にしないで良さそうだ。
さて……と。辺りを見渡す。仲間を瞬殺されたことでか、どいつもこいつも怒りの表情で、武器をこちらに向ける。
「ギャッ、ギャギャギャア!」
「やかましいわっ」
ナイフ、剣、槍、斧、こん棒、トンカチ……相変わらず刃物は怖い。そりゃ身の危険をはっきり感じるんだ、恐怖を感じて当たり前だ。しかし、だ。ここはすでにリング上。怯えて身を竦めちゃ、最高のパフォーマンスを発揮させれないじゃないか。
一番地かいゴブリンへダッシュ。間合いをつめ、顔面へ掌打。頭部消滅。その隣の首筋にチョップ。切断。背後から近づいてきたやつにローキック。両足消滅。殴る、殺す。蹴る、殺す。張り手、殺す……うーん、一撃必殺なんだが効率が悪い。回りには100以上はいる。今度はこっちからか。少しバランスを崩しながらヤクザキック。吹っ飛ぶゴブリン。お、吹っ飛んだ奴に巻き込まれたのが結構いる。おおっ?次は全力からすれば幾分ユルい掌打を胸元に。砲弾と化したゴブリンが、周囲のゴブリンの命を消す。よし、うまくいった。手加減した方が効率がいい。
破壊する攻撃から吹き飛ばす攻撃へ。
パチンコやピンボールのように。
連鎖的に生命活動を終えていくゴブリン。
「ギャブッッ!」
くっ。こっちの攻撃の合間。そこに上手くタイミングを合わせてきた攻撃だ。避けるのはきつい。近くにいた一匹の頭をつかみ盾にする。
あっぶねーなぁっと。
盾にしたゴブリンを、今度は武器にして叩きつける。
半分ぐらいに減ったか?壁の穴から出てくるのも ほとんどいない。
「あ……あの魔人は鬼神か?一体でゴブリンたちをあんなにも……」
「もし手を出していたら、今頃ああなっていたのは俺たちか……?」
そこからは打撃から投げ技に。
掴める所はどこでも掴み、そのまま数の多そうな所へ力任せに投げる。
千切っては投げ、千切っては投げ……実際に腕や頭が千切れてもそのまま投げた。
ゴブリン砲弾の衝撃で、フラフラになっていた奴がいた。死んでいないと言うことは丈夫な奴ということだな。
タックルから双手刈の要領で倒すと、どのまま両足を掴む……本当は脇に挟みたいが体格差がありすぎる。
「これで……ラストだっ!!」
その場で大回転。
プロレスでの攻撃は色々とある。その中でも各レスラーが得意技、必殺技としているのが多いのは投げ技だ。
それは格闘技でありながらエンターテイメントでもあるプロレスに、最も適した技といえる。なにしろ派手で、攻撃力に説得力がある。攻守がはっきりと別れ、技をかけているときの主人公がどちらか分かりやすい。
そのため投げ技は、派生技も含めると数えきれないほど多彩だ。ブレーンバスターやパワーボムあたりは有名どころだ。そんな中でも特に有名な技がある。
『ジャイアントスイング』
今俺が仕掛けているのがそれだ。
内容は単純。相手の足を脇に挟み、その場で回転して振り回す。この技は派手で盛り上がる。回転の度にお客さんから大声援でのカウント。あの一体感はたまらない。……まあ、派手なわりにそれほど攻撃力がなかったりもする。慣れてないと仕掛けた方が目を回すし、体力もかなり使う。
だが、今の俺が、今のパワーでジャイアントスイングをするとどうなるか。
周囲の被害を鑑みると……竜巻か台風が通った跡のようだ。と言うか実際に風が起こった。生き残っていたゴブリンも飲み込まれ、天井に叩きつけられた。天井まで10メートル以上あるから、天井と床に二度紐なしバンジーだ。振り回していたゴブリンもGに耐えきれず圧死した。叩きつけるつもりだったんだがなあ。こんな結果になるとわ。
この体、三半規管も強化されているらしく、どれだけ回しても目が回らないのだ。でまあ……調子に乗った。考えなしでやったが下手すりゃシルクや王様、騎士さんたちも巻き込んだかもしれない。反省している。反省終了。
「あれは風の大魔術なのか?」
「それにしては使用魔力量が少なすぎる……」
「あの魔人の特集能力では?」
兎も角、ゴブリンは全て倒した。
少しは英雄としてアピールできただろうか。
「お前は一体……」
「言ったろ、英雄だって……いや、大陽の勇者ソレイユだ。鬼でも魔人でもない。それと、あっちも魔女じゃない。」
ここはハッキリとしておかないとな。
「ソレイユっ。」
「おう、終わったぞ。スゲーな、この体。」
「すごいのはとーぜん。でもね、まだ終わってないよっ。」
「えっ?」
「ゴブリンじゃ、あんな壁壊せない。あれは魔術だったよ。」
言われてみればまともに攻撃を食らったわけじゃないが、あんな壁を壊せそうな威力はゴブリン達にはなかった。すると……
「危ないっ、避けろっ。」
団長からの声。
俺はそっちを振り向く。
咄嗟の事で反応が遅れた。
視界が紅蓮の炎に囲まれていた。
次回『竜人』




