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第二話 魔獣が逃げた日

今日は新しい研究員の面接日だ。


少し早めに出勤すると、研究所の正門前で魔獣担当のルヴァンが立ち尽くしていた。


「イザイヤス様、お、おはようございます」

「おお、ルヴァン、今日はいつもより早いのでは?」

「さ、昨夜は夜勤で」

「そうか、ご苦労だった」


今日のルヴァンは、歯切れが悪い。

元来、明るくハキハキして行動的だから魔獣担当にしたのに。


「ルヴァン、何かあったのか」

「あの、イザイヤス様、怒らないでください。僕、昨夜は夜勤で」

「それはさっき聞いた」

まだ怒ってないぞ。


「それが、逃げて」

「え?何が」

「…魔獣が」

「いつ?」

「き、昨日の夜、測定の時に」

片眉が上がりかけたが何とか我慢してたずねる。


「昨日の夜って、もう12時間以上経っているではないか、なぜ緊急通信して来なかった?」

「その、きっと怒ると思って」

「怒るだろ!」

「…すみません」

「逃げた魔獣はなんだ?」

「その、黒龍のベビードラゴン」

「…何やってんだ、とにかくドラゴン舎へ行くぞ、担当のパリッツも呼べ」

「はっ、はい」


俺はドラゴン舎に急ぐ、ルヴァンがパリッツに通信鈴を飛ばしている。


「ルヴァン、確認したいが、ベビドラを最後に見たのはどこだ」

「運動室の奥まで走って消えました」


ベビードラゴンはまだ飛べないはずだ。

何とか捕獲できるだろう。


ドラゴン舎に入る。

物音一つしない。

ベビードラゴンはどこでもよじ登る、何でも齧る。

…探すしかない。

ルヴァンには、パリッツと合流してから、捕獲用の魔術網を持って入り口で待機するように指示した。


飼育室、運動室、測定室、道具置き場、全部回って探すが見つからない。

1人で探して無理ならユリシスに報告しなければ。


ベビドラが走っていった運動室をもう一度調べる。

その奥のゴミ置き場にも入る。

色々な物が入っていたケースや大きな袋をひっくり返して確認。

朝からゴミ漁りだ。


ん?

何か音がしたか?

カサッ。

やっぱり何かいる?。


ドラゴン用の餌が入っていた巨大な黒い空袋が大量にある。

微妙に揺れている。

それを掴んで中をのぞいた。


いた!


一瞬、目が合った。


黒竜だよな……?


……いや、黄色い。


色は後だ。


「ほら、おチビ。こっちへ来い」


ベビドラは、少し首をかしげる、また目があった。


もう少し手を伸ばしてみると「キエェッ」と鳴いて火を噴いた。


あちっ!

俺が手を引っ込めた瞬間、もう一度火を噴き、餌袋が燃え散った。


ちょっと待て、ドラゴンブレスだと。


何故だ。


いやそれより先に捕獲優先だ。捕獲の魔法陣を展開し始めたら、

黄色のベビドラは「キエェーッ」と鳴いて飛んだ。


飛んだ?


…何でだ。


黄竜?


…違う。


黄色いだけだ。


もしかして。もしかして。その辺りの餌袋を確認する。


ああしまった。


魔力増強剤入りの黄色の餌だ。

使用期限切れで処分許可を出したのを思い出した。


「キエェーッ」

「キエェーッ」

ベビドラは天井の高い場所を飛び回る。


俺は緊急通信鈴を展開した。

「ユリシス、イザイヤスだ。ドラゴン舎にいる。魔力増強材が含まれた研究用の餌を食った黒龍のベビードラゴンがブレスを噴いて飛んいでいる。危険なので、至急来てくれ!」


転移陣で現場に着いたユリシスは、瞠目し言った。

「あれは何だ」

「黒竜の子の」

「だから何で火を噴き飛んでいる」

さっき説明しただろ。


そのあとは研究所全体が大騒ぎになった。

小さかろうがブレスを噴いたら立派なドラゴンだ。

まず関係者以外は全員避難、緊急時の魔法陣で転移させる。

面接に来ていた者達も避難だ。


残ったドラゴン研究チームは、他のドラゴンを刺激しないように別の飼育舎に移動、あちこちで転移陣が光る。


貴重で大切な黒竜のベビードラゴン、何とか生きたままでの捕獲を試みるが、成獣ドラゴンよりすばしっこく捕まらない。

討伐と捕獲は違う。


ユリシスや俺でも手こずる。

結局、数時間後、飼育舎は全焼。

ベビドラは魔力切れで元のベビドラに戻ってユリシスの腕に落ちてきた。


全ての火を消し止め、

煤まみれになったドラゴン研究チーム全員を一瞥し、

ユリシスは冷ややかな声で言った。


「だから、餌の焼却処分は、速攻で魔炉に入れろと言っていただろう」


ベビドラは満足そうに「キュイ」と鳴いた。


ユリシスの前髪が少し焦げていた。


たぶん、この研究所で上司にブレスを噴いて許されるのは、

ベビードラゴンだけだ。



最後までお読みいただき、ありがとうございました。

このシリーズは、王立魔術研究所の日常を描く一話完結の短編です。

魔術研究室で起こるさまざまな出来事を、異世界ならではの視点で描いていけたらと思っています。

更新は週末を目安にできればと考えていますので、また気軽に遊びに来ていただけると嬉しいです。

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