第一話 魔術師が全員辞めた日
『身の程を知れ』と同じ世界を舞台にした、一話完結の短編シリーズです。
今回は、王立魔術研究所で起きた「ある日」のお話。
気軽にクスッと笑っていただけたら嬉しいです。
第一魔法陣研究室 室長室
「至急の報告とはなんだ」
ため息をつきたくなった、報告に来る度にこいつは俺を睨む。
「ユリシス、実は魔術研究員の」
「知っている、スナイデルだったか、辞めると聞いていたが」
情報遅すぎだろ。
「スナイデルはとっくに辞めた。昨日マルグリット嬢が研究中に倒れた」
「なぜ?」
間髪おかずに聞くな。
「なぜって、魔法陣の整理中の魔力の枯渇に決まっているだろう」
お前が与える仕事量が多すぎるんだ。
「そんなことか、彼女には中級魔法陣を三個任せただけだ」
「三個って、うちは陣一個を二人一組で担当するだろ。それよりもマルグリット嬢の父ハイデル伯爵から、娘を領地療養させるための退職申請が」
「辞めたい者は去れば良い、で、至急とはなんだ」
相変わらず人が辞めても平気なんだな。
「その言い方はないだろ、マルグリット嬢の管理監督者はお前だろうが。倒れたと聞いて何とも思わないのか」
「倒れるのは自己管理の問題だ、私は枯渇まで魔力を使えと強要などしていない。それに魔術研究所の規定に則って、退職時の魔力見舞金と退職金は支給したのだろう?」
そこかよ。
「もちろん手配した、だがそう言う問題ではない」
「じゃあ何が問題なんだ、ここ《王立魔術研究所》は、生半可な魔法量や技術不足の者は務まらない、だから事前に様々な条件や規定を説明し契約書に盛り込んである。倒れて使い物にならないのなら辞めるしかないだろう。私に泣いて追いかけろと言うのか」
追いかけた方がいいぞ。
「お前なあ」
「なんだ、イザイヤス、何を怒ってる」
怒ってない、呆れてるだけだ。
「さすが化け物級の魔力量のお前には、魔力枯渇なんてわからないよな」
「ふん、今更わかりきったことを、お前だって化け物ではないか。魔力が足りずに勤務が続けられないのは仕方ない。それにこの国には魔物討伐のための魔法陣はいくらあっても足りない。で至急の話はそれだったのか」
頭の回転早くてもせっつくな。
「いや、スナイデルとマルグリット嬢が辞めて、中級以上の魔力を持つ魔術師がもういない」
「なら初級魔術師六人で基本陣を準備させてくれ、後は私が仕上げる」
「辞めたんだよ、みんな恐れをなして」
「は?」
は、じゃない。
「事務官は残っているが、魔術師が全員辞めた。お前の厳し過ぎる指導と采配について来れずにな」
ほら焦っただろ。
「だったら募集すればいいだろう」
こいつまだ言うか。
「募集も無理だ。ここの闇レベルは有名だ、誰も勤めたがらない。魔法大学出身者は、王立魔術騎士団か王立魔術研究所かどちらかで働くが、お前が求める人材はいない」
「魔法大学の在学中の者で使えそうな者は」
「魔法大学の教授陣にも尋ねたが、騎士か文官専攻しかいない、その中から魔術が組めて推薦できる者はいなかった」
「…まさか俺が潰したのか」
やっと気付いたか。
その時、ユリシスの前に小さな金色の鈴が現れ「リンリン」と鳴った。
ユリシスが鈴を手にすると鈴から声が聞こえてくる。
「ジーニウス、所長室に来てくれ」
所長の声だ。所長はユリシスを呼称でジーニウスと呼ぶ。
ユリシスは鈴に向かって「承知しました」と伝えると、鈴はリンと鳴って消えた。
「イザイヤス、所長室に行ってくる。お前は魔術師の候補を探し続けてくれ」
だからいないって言っただろう、人の話を聞けよ。
§ §
研究所所長室
「魔術師が全員、辞めたか」
「魔力量が少ない者ばかりで持ちこたえられず」
「魔法大学からは毎年送ってもらっているのにか」
「…私の不徳の致すところです」
「まあ、お前がストイックなのは最初からわかっていた事だし、一概にお前だけのせいでもないだろう」
「早急に人員を」
「いや必要ない、ジーニウス、人員が見つかるまで君が全てやるといい。幸い魔力量は国一番だ。期待しているぞ」
「えっ、いや、ぼ、募集は続けます。そのうち応募が増えるかと」
「来ないだろう」
「なぜですか、ここは王立魔術研究所です」
所長が一枚の紙を机に置く。
「王立魔術研究所の口コミ評価は星一つだからだ」
ユリシスは紙を見つめたまま固まる。
「……所長、口コミとは、古代魔法でしょうか」
「…」
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
このシリーズは、王立魔術研究所の日常を描く一話完結の短編です。
研究室で起こるさまざまな出来事を、異世界ならではの視点で描いていけたらと思っています。
更新は週末を目安にできればと考えていますので、また気軽に遊びに来ていただけると嬉しいです。




