初授業
「それじゃあ、始めましょうか」
ノエル先生が静かに言った。
授業は意外にも普通だった。
魔力の流し方、基礎的な制御。
(……あれ、普通じゃね?)
そう思ったのも束の間だった。
「エリー、やってみて」
軽く指示される。
エリーは一歩前に出ると、迷いなく魔力を流した。
——異常なまでに滑らかだった。
(いや、上手すぎだろ)
次々と他の生徒もやる。
全員、魔力操作が異常なほど上手い。
(なんだこのクラス……)
そして——
「ダン、あなたも」
(来たか……)
適当にやるつもりだった。
そのはずなのに。
「……あれ?」
魔力が、勝手に流れる。
制御してる感覚がない。
でも、止まらない。
「いいわね」
ノエル先生が微笑む。
「やっぱり、面白い子」
その言い方に、少しだけ寒気がした。
初回の授業で、この別棟のメンバーは——僕も含めて——全員が異常なほど魔力操作に長けていると分かった。
今日は基礎だけだったが、次からはそれぞれの属性に合わせた魔法を教えるらしい。
(……魔法特化クラスって感じか?)
授業が終わり、席を立とうとしたときだった。
「ダン君」
気づくと、すぐ後ろにノエル先生がいた。
距離が近い。
少し顔を寄せて、囁くように言う。
「今日の夜、少し時間あるかしら?」
(……え?)
一瞬、思考が止まる。
「え、あ、はい……たぶん」
「よかった。あとで少し話しましょう」
そう言って、何事もなかったかのように離れていった。
(……なんだ今の)
——夜。
部屋でぼんやりしながら待っていた。
正直、少し緊張している。
(なんの話だ……?)
そんなことを考えていると、ドアをノックする音がした。
「……はい」
開けると——
「こんばんは」
そこに立っていたのは、エリーだった。
(……あれ?)
ノエルじゃない。
「少し、お話しません?」
少し遠慮がちに言う。
「ちょっと、気になることがあって」
断る理由もなく、部屋に招き入れた。
「今日の授業……少し変だと思いませんでした?」
エリーが静かに言う。
「みんな、上手すぎましたわ」
「……まあ、それは思った」
「それだけじゃありませんの」
少しだけ声を落とす。
「ノエル先生……何かしている気がするのです」
(……やっぱりか)
「私は魔力の流れに敏感でして。違和感があるんですの」
確信はない。
でも、ただの勘とも思えない。
「ダンは、どう思います?」
一瞬、言葉に詰まる。
(……正直、ある)
でも。
「……まだ分からないかな」
「気のせいかもしれないし」
そう答える。
エリーは少しだけ考えるように目を伏せた。
「……そうですわね」
そのとき。
——コンコン
再び、ドアをノックする音。
エリーと目が合う。
嫌な予感がした。
ゆっくりとドアを開ける。
そこに立っていたのは——
「……あら」
ノエル先生だった。
一瞬だけ、空気が止まる。
「お取込み中だったかしら?」
にこりと笑う。
でもその目は——笑っていなかった。




