第6話 クッカの旅立ち
ヘンリクが家に来て一週間後、クッカはヘンリクと共に馴れ親しんだ我が家を旅立つことになった。
クッカはヘンリクに抱きかかえられ馬に乗せられる。ヘンリクもクッカの後ろにさっと跨った。
「クッカ……元気でね…… これ、刺繍してみたの。よかったら使ってね」
母のエリサは涙を流していた。それを見るとクッカも自然と涙が溢れた。エリサが渡してきたのは白いリボンだった。赤い糸でダブルクロスステッチの星のような模様が整然と刺繍されている。
「ママ、ありがとう……」
クッカは母からもらったリボンを頭に巻いて、首の後ろで結んだ。
「クッカ、聖女の任期は最低五年だ。お勤めが終わったら、また帰って来なさい。
あと、これ。王都で一番腕の良い鍛冶師への紹介状だ。ヘンリクに連れて行ってもらってくれ。これがあれば、すぐにいい武器を作ってもらえるから」
「分かった。ありがとう、ひげパパ」
クッカはひげパパのおひげを両手で撫でた。
ひげパパもクッカのほっぺをぷにぷにしてから、涙を流した。
「クッカのことは任せてくれ。じゃあな」
ヘンリクは馬の腹を軽く蹴って、馬を走らせた。
クッカは両親が見えなくなるまで、手を振り続けた。
「寂しいかい? クッカ」
馬に乗りながら、ヘンリクは優しくクッカに語りかけた。
クッカは返事はせずに頷いた。
「ヘンリクさんは私の師範になるのですよね? 先生とお呼びしても構いませんか?」
「もちろん。好きなように呼びなさい。
私は魔法使いだから、君には魔法や冒険の仕方を教えようと思っているよ。
姫巫女の神託では、君は優秀な魔法使いだと聞いたのだけど、君の父親は斧術も上手だと言っていた。本当かい?」
クッカは頷いた。
「どちらかと言うと魔法の方が得意だとは思います…… なんでか分からないのですが、生まれた時から魔法の使い方が不思議と分かったんです。
斧術はひげパパに教えてもらっていましたが、まだまだ学び足りないと自分では思っています」
五歳児とは思えない明解な回答にヘンリクは驚いた。
「……君はもしかして転生者なんじゃないかな」
「転生者ってなんです?」
「転生者というのは、前世の記憶を持つ者たちのことだよ。たまにそういう人が生まれると聞いたことがある」
「……転生者。そうなのかもしれません……」
「どの程度の知識が君に残っているのか私には分からないから、基本的なことから教えていくね。既に知っている事だったら、遠慮なく言ってくれ」
ひげパパは大雑把な所がある豪快な男だったが、ヘンリクはその反対で丁寧な男だった。五歳児のクッカを子供扱いせずに、一人の人間として尊重しているのが態度から伝わってきて、クッカはすぐにヘンリクのことが好きになった。二人目の父親ができたようで心強かった。
王都までは、馬で二週間の長旅だった。
道中ヘンリクはクッカに色々なことを教えてくれた。テントを張っての野営の方法や、食料になる動物の狩りの仕方。薬になる薬草や樹の実について。
街に寄った時は貨幣の価値や物の値段の相場など、旅に必要な知識をひと通り教えてくれた。




