第2話 ひげオヤジは只者ではなかった
クッカはぷにぷにのほっぺがトレードマークの四歳児に成長していた。
クッカの家は深い森の中にあったので、クッカは他の子供に出会ったことがなかった。数キロ離れた所に町があるらしいが、小さなクッカは未だに連れて行ってもらったことはない。いつもエリサが絵本を読んでくれたり、一緒に虫取りをして遊んでくれるが、いつも物足りなさを感じていた。
クッカの心は複雑だった。『同じ年頃の子供と遊んでみたい』という思いと『こんな子供みたいな遊びでは満足できない』という相反する思いが常に頭の中で渦巻いていた。頭の中に二人の人間が同居しているような感覚だ。非常に気持ちが悪い。
どうしたら自分の心が満たされるのか、この相反する思いが解決するのかクッカにはさっぱり分からなかったが、兎に角毎日が平凡でつまらなかった。
毎日が平和な同じ日常の繰り返しな気がして、少し嫌気がさしていた。
そんなクッカに、ある転機が訪れる。
天気の良い夏の日。蝉の声が至る所から聞こえる森の中をクッカはひげオヤジと一緒に歩いていた。
クッカがひげオヤジと手を繋いでスキップすると、一緒にほっぺもバウンドする。自分のほっぺが揺れるのが面白くて、移動はついついいつもスキップになる。ひげオヤジはクッカのほっぺの揺れをまるで妖精でも見つめるかのように愛おしげに見た。
クッカはひげオヤジの見られると嬉しい気持ちとちょっとした居心地の悪さを感じて、体がムズムズした。
なぜ、今日はひげオヤジと行動を共にしているかというと、今日は森でひげオヤジの木こりの仕事を見学する約束をしていたからだ。
ひげオヤジは今日伐採予定の大きく育った檜の前にくると、少し離れた切り株の上にクッカを座らせ、自分は斧を構えた。
「クッカ、見てろよ。斧はこうやって使うんだ」
ひげオヤジは全身に赤いオーラを纏い、ビュンと音を立てながら斧を振るった。太い檜の木の幹がすぱんと切れ、檜の木は大きな音をたてて倒れた。
——うん。どうやら、ひげオヤジは普通の木こりではないらしい。
「ひげオヤジは本当にただの木こり? 切り方がおかしいよ」
クッカがひげオヤジに聞くと、ひげオヤジは不満そうに眉間にしわを寄せた。
「クッカ、何度も言うがひげオヤジではなく、パパと呼べ。エリサのことはママと呼んでいるだろ?」
「ひげオヤジ!教えて!」
「パパ!」
「ひげオヤジ!」
「パパ!」
「ひげパパ!!」
「……よし。教えてやろう」
ひげパパは妥協したようだった。
「パパはこう見えても若い頃『勇者』をしていたんだ」
ひげパパは腕組みをしてえばっている。
「ひげ! 勇者ってなに?」
「クッカ、パパがなくなっているぞ。いいか、勇者というは女神様に選ばれた高い能力を持つ男のことを言うんだ。選ばれると魔大陸の開拓任務をすることになる」
その後ひげパパは、長々と自分の武勇伝を娘のクッカに語って聞かせた。話が長かったので、要約するとこんな感じだ。
1、我々が住むヴオリ王国には女神のお告げを聞くことのできる姫巫女がいる。お告げでは、優れた潜在能力を持つ若者を教えてくれるらしい。
2、姫巫女が国王にお告げを伝え、国王が若者を勇者か聖女に任命する。性別が男なら勇者で、女なら聖女になる。能力の違いなどで呼び方を変えたりはしない。勇者でも魔法が得意な男もいるし、聖女でも剣しか使わない女もいるということらしい。
3、勇者や聖女に選ばれた若者は二人一組のバディを組んで、魔大陸の開拓任務をすることになる。勇者と聖女のバディ、勇者と勇者のバディ、聖女と聖女のバディなど組み合わせは自由だが、歳が近い者同士がバディになることが多いらしい。
4、魔大陸は巨大な島国で、危険な魔物が多数生息していたり、ダンジョンというところもあるらしい。ダンジョンを攻略すると、ダンジョン付近の魔物は激減する。ダンジョンを攻略したバディの出身国がその土地の所有権を得る。
5、魔大陸にはエネルギー資源となる魔石が多数あり、ヴオリ王国のみならず、多数の国が魔大陸の土地所有権を得るために人員を派遣している。
ひげパパの活躍部分をすっぱり割愛してみた。
「ふーーん。分かったよ。ありがとう、ひげ」
「パパな」
「ひげパパ」
ひげパパは満足気に頷いた。
「ひげパパ。私もひげパパみたいに木を切ってみたい」
「はっはっは。クッカにはパパの真似は出来ないと思うぞ」
——ひげパパはどうも私の事を甘く見ているようだ。
「一度見たからできるよ! 貸して」
クッカはひげパパから斧を受け取り、全身をオーラで包む。ひげパパは斧自体にもオーラをまとわせていたので、そこも真似した。
呼吸を整えてから、勢いよく斧を振るう。
カーンと甲高い音がしてから、檜の木がミシミシっと音をたてて倒れた。
「ひげパパみたいに、一刀両断できなかった…… 悔しい……」
オーラをまとわせる技術自体には問題がなかった筈だが、単純に筋力が足りていないのであろう。斧が幹の三分の二くらいまで刺さった時点で止まってしまった。あとは、杉本体の重さで倒れただけだ。
クッカとしては不満足な結果だったが、ひげパパは驚いていた。
「クッカ…… お前はエリサが言う通り天才だな。パパはこれが出来るようになったのは15歳の時だったぞ……」
ひげパパはじんわりと額に汗をかいていた。




