第23話 責任の所在
翌朝、城下町の空気は重かった。
倉庫襲撃の噂は、一夜にして広がった。
数字は小さくとも、“死者が出た”という事実は、どんな説明よりも強い。
「……戦後処理官の判断が遅れたらしい」
「正しいって言ってたのに」
「結局、同じじゃないか」
囁きは、刃のように静かだった。
執務室では、臨時会議が開かれていた。
「交易路の一部を、当面閉鎖します」
アレンの声は落ち着いている。
「軍は防衛に専念。追撃はしません」
「逃がすのですか?」
貴族の一人が、不満を隠さず言った。
「追えば、民が巻き込まれます」
「だが、示しがつかない」
「示しのために、さらに死者を出す気はありません」
会議室が静まる。
その沈黙を、リーゼが破った。
「責任の所在を、はっきりさせます」
全員の視線が、彼女に集まる。
「今回の被害は、グランツの判断の遅れによるものです。
その最終責任は――私が負います」
ざわめき。
アレンが、わずかに目を見開いた。
「殿下」
「あなた一人に、背負わせるわけにはいきません」
リーゼは、はっきりと言った。
「この国の決定は、私の名で下されてきた」
アレンは、深く頭を下げた。
「……それでも、実務上の責任は私にあります」
「分かっています」
リーゼは視線を逸らさない。
「だから、あなたはここに残り、立て直しを続けなさい」
その言葉は、命令だった。
会議後、城下町で公式な発表が行われた。
王女自らが、人々の前に立つ。
「今回の事件は、私たちの判断の遅れによるものです」
ざわめき。
「犯人探しはしません。
ですが、同じことは繰り返しません」
その隣で、アレンは一歩前に出た。
「具体策を示します」
地図を掲げ、説明する。
「交易路の再編。
救援地との連絡線の一本化。
武装集団への対応は、封じ込めに限定します」
感情ではなく、手順。
人々は、すぐには納得しない。
だが、“逃げていない”ことだけは伝わった。
同じ頃、救援地。
クラウスは、連合本部に報告を上げていた。
「……私の判断が遅れ、武装化を許しました」
『責任は』
「私が取ります」
通信の向こうで、ため息が漏れる。
『君は、優しすぎた』
「……ええ」
クラウスは、視線を落とした。
「アレンは、最初から分かっていた。
それでも、彼も遅れた」
だからこそ、彼は理解した。
これは、誰か一人の失敗ではない。
“戦後”という状況そのものが、そうさせる。
夜。
アレンは、倉庫跡に置かれた簡素な墓標の前に立っていた。
三つ。
名前だけが刻まれている。
「……私の判断が、遅れました」
誰に聞かせるでもなく、言う。
マルクが、少し離れたところで立っていた。
「ここに来ると思った」
「来るべきでした」
「……あんた、辞める気は?」
「ありません」
即答だった。
「ここで辞めれば、次の判断が、もっと遅れる」
マルクは、短く笑った。
「厄介な仕事だな」
「ええ」
アレンは、墓標から目を離さず答える。
「だから、誰もやりたがらない」
その頃、王国。
英雄レオンは、報告を聞いて歯噛みしていた。
「……グランツでも、死人が出た?」
「はい。倉庫襲撃です」
「ほら見ろ! あいつらも同じだ!」
彼の声には、安堵が混じっていた。
だが、それは長く続かない。
グランツでは、責任の所在が示された。
王国では、誰も前に出ない。
その差が、ゆっくりと広がっていく。
戦後処理官は知っている。
責任とは、結果が出た後に問われるものではない。
――結果が出る前に、引き受けるものだ。
そして今、
その重さを引き受ける者が、少しずつ増え始めていた。
(第23話 了)




