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ゼン・イージス ―或る英雄の軌跡―  作者: 南海智 ほか
誓いの章:シュワルコフ領
53/106

53.B面の資料も合わせてご覧ください


 ここは、とある連邦施設のワンフロア。

 窓をもたないこと以外、いかにもふつうな昼間のオフィスだ。やまないタイポと呼び鈴の音が、その慌ただしさを際立てている。

 もっとも大きなデスクのありかは、やはりいかにもお決まりなように、場内をみわたせる特等席。もちろん(あるじ)がいた。彼ないし彼女が、黒幕めいてついた肘もとに、くだんの文書は滑り込む。

 特殊カーボン用紙なわりに、おもてには、動物型でファンシーな付箋。彼ないし彼女が、ちょんとのびた耳をつまんでみると、ぺろりとはがれてしまったそれには、「午後イチ緊急会議用、至急確認求ム」と、切羽つまった赤いみみず文字がはしっている。


 


 ---




 <A面>


 記録開始日時 05/12/06 10:38


 はいこちら銃対連絡室トクノー……。


 あえ……は。やややや!わざとじゃないですよ!?

 ふとっちょなんですってば!指が!悪さしたのは、この指で……!

 どーしてもってなら走ってくれば。ほんの隣の棟でしょう?

 あ?ま、そりゃごもっとも……どーにもなれませんで、失敬失敬!んでぇ、はい。はい。ご用件。

 

 先月末の……はぁん、発砲案件。国外の。

 会議で出なかったヤツ……?

 うん。まだ手元にあるよ、ちょい待ち。


 <雑音>


 ハ、ウ、プトマン……これでしょ、忘れるわけ!

 ん。あるある、そう!同じ日。えーと。


 元レンジャーの一等軍曹。銀星章持ち、戦傷名誉除隊。一時復役印……国外のコード・アビス時における人命救助従事ゆえ。


 オールクリーンの(ケツ)出たでしょう……なにか見落としが?


 んー?こっちではねぇ、えーと……。

 

 7.62が五十二発。

 12ゲージが二七発。

 .50口径拳銃弾が五発ってな具合ですが。


 はい。

 適性発砲、器物損壊軽微。まっしろしろすけ。


 ……使用された銃器の所有者?それぞれの?

 ええ。

 はいはい。

 まーずー……二連の散弾銃が、ティレルチノフ本人のですね。

 デカい回転式の名義は……ケンジ・イトー。これってさ、あの「イトー」?

 はいはいはい、あーと……小銃は、ヴァンガード・アーテルって人のですね、うん。おんなじです。恩賞による国外人初の貸与例……や、ひとりで二挺目か!物好きがいるもんだ?


 ん……?


 使途不明、の小銃弾?

 もう四発!?

 いや……いや!こっちはないです。

 ちょ、ちょっと待ってー。


 <扉の開閉音>


 タっちゃん!分析室で最新分!……うん、よろしく!

 ごめんなさいね――


 <扉の開閉音>


 そんでー、なんでそんなことが。

 ……フィルデー・クロノステラ?


 <ノックの音>


 はいはいはい!

 

 <扉の開閉音>


 失礼します、もうあがってました。

 ありがと!


 <扉の開閉音>


 今資料来た、うん。

 人物資料もありますあります。


 ええと?ちょっと目ぇ通させてください。


 ……………。


 なるほど、けほ。ふっるい用紙!

 そーれも曰くつきったらないね。法改正前にぶいぶいいわした賭博師のおっさん、いや……おおじいさんってとこですか?クロノステラさんとやらは。


 はいはい。


 あー、そうですね。


 警告射なしで撃てますね。それくらいになると。


 ええ、王国人が相手でも。


 二次規制前のでしょ?とっくに湿気てるでしょうけれど……でもあるんだったら、しょうがないですね。それも撃ててるみたいだし。


 ……行方知れずが、あともう一発?

 ティレルチノフ元一等軍曹のほかに……。

 で、その人か。只人のくせして、二百年を生きてるクロノステラ氏。


 やー!もうその辺の理屈は……うん。気にしない。仕組み(システム)はウチの領分じゃないので……。

 問題があるなら、取り締まりますよ。そりゃもう、この世の果てまでも。


 たかが一発されど一発。死人の銃口だとしても、よもや陛下にでも向いちゃたまらん。

 

 ――え?えぇ。はいはい、おおいに有り得ますね、名前をとられた可能性は。

 いや、分析結果いいや、すぐ回すんで。うん、うん。

 行方不明の一家全員分だね。

 どの皮被ってるかわからないもの。美人の若妻、四つ耳の長男、まぁ赤子の線はないか……?ともかくだ。

 クロノステラ一家の全域指名手配を要請します。

 とくに国境警備隊、内外保安部隊、追跡部隊(エコーズ)……それからもち、特務攻勢遊撃部隊には。うん――()()()が、銃を学んだ可能性を周知してもらって。


 あー、年末休みは返上だねこりゃ。ほいじゃ、はい。はい。また午後に。




 ---




 彼ないし彼女は、さっと目を通しながら、動物型でファンシーな付箋をコレクションにくわえ終えた。まともな付箋をつけなおし、青文字で整然とつづる。

「B面に要点だけヨロ」

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