30話 ヒラガ家の明るい家族計画
ネコ型(現ニンゲン型)ホムンクルスのエレキテルです。
ヒナギクさんの希望で、ボクがネコに戻る前に3人で写真を撮ることになりました。
カメラというより箱型写真機って感じの見た目ですが、Dr.ヒラガが作ったので性能はお墨付きです。1億2000万画素のフルサイズ機でありながら、防水機能搭載でハウジングなしでも水深50mの連続撮影に耐えられ……って、そのハイスペック必要ですかね?
「ふふふふ、なんとすばらしいカメラだろうか。さすがは天才・平賀源内直系の子孫、私の作品だ!」
ドクターも満足そうでなによりです。
カメラとか圧力鍋とか、そういう平和な物だけ作っていてくれたらいいんですけどねえ。
「どれ、さっそく破壊するか」
「ちょっと待った!! これから撮るために作ってもらったんですよ! せめて撮影が終わるまでガマンしてください!! ヒナギクさん、抑えて!」
隙あらば破壊行為に及ぼうとするドクターをヒナギクさんが後ろから羽交い締めにして、なんとか撮影を強行しました。
さすがは最強のアンドロイド。涼しいお顔なのに、ドクターはぴくりとも抵抗できません。
「ぐぐぐぐぐ……私の発明品だぞ……破壊させろ!!」
「ゲンスケさん、ステイ、ステイです。ほら、こちらにスィットしてください」
しつけられてる……。
ドクターは一張羅の羽織袴で、物置から発掘したいい感じの椅子に座らされ……いや、座っています。
いつものボサボサ頭と曇った片眼鏡ですが、こないだみたいにピシッとされても落ち着きませんしね。
その両隣にヒナギクさんとボク。お揃いの赤い着物です。
これだけならパッと見普通ですけど、ヒナギクさんの両手には圧力鍋と掃除機のアタッチメントがそれぞれついているのです。しかもすごく表情が誇らしげです。
ちょっと写真の趣きが仮装大賞に参加したファミリーみたいな様相になりそうですが、大事なアイデンティティらしいのでまあいいでしょう。
「カウントダウンの点滅がはじまりました。ゲンスケさん、エレちゃん、写りますよ」
カシャッとシャッター音がして、カメラから写真が1枚ペロッと出てきました。
そんなチェキみたいに出る仕様なんですか。水深50mでも水中でペロッと出るんですかね。
ふむふむ、でもすごく綺麗に撮れているのです。
ボク的には、ニンゲン型よりネコ型のほうが圧倒的にカワイイという自己評価なのですが……。
ヒナギクさんのお願いだし、ホムンクルスだから外装デザインを変更するのは結構大変ですし、ニンゲン型になるのもこれっきりかもしれないので聞いてあげたのですよ。
「……この写真、私がもらっていいか」
「ドクター、ほしいんですか!? 意外なことを言いますねえ」
「病室に持っていくだけだ。私の写真など、成人してからというもの存在しないからな」
ああ、入院しているお母さんに見せたいんですね。
ドクターが孤独ではないと知ったら安心するでしょうし、それはとってもいい案だと思いますが、もともとヒナギクさんが写真をほしがっていたのでは?
「カメラと脳内をBluetoothで繋いでデジタル保存したので、わたくしは問題ありません。こちらの1枚はどうぞゲンスケさんがお持ちください」
ヒナギクさん、Bluetooth5.2対応なんだ。
便利でいいですね。ネコ型に戻すときにボクもつけてもらお。
***
「へえ、お母さん退院されるんですか。それはおめでたいですね!」
あれからまた40日間が経ち──
ボクのネコ型の外装が完成しました。
あとは前回と同じように脳周辺のデータを転送するだけ……のはずだったのですが。
「では、快気祝いのご馳走を作りましょう。わたくしはスーパーに行って参ります」
ヒナギクさんはマイバックを片手に、張りきって出かけていきました。
屋敷に残されたのはボクとドクターだけ。
今のうちにさっさとネコ型に戻してもらおうと思っていたのに、ドクターが突然提案を持ちかけてきたのです。
「エレキテル……おまえがネコに戻る前に頼みがある。ヒナギクもあとで説得する」
「はい? なんでしょう」
「母がこの家に帰ってきたら、しばらくのあいだ嫁と孫のふりをしてくれ」
「……は? ふり?」
なにふざけたことを言っているんでしょうか。
ボクにはさっぱり理解できないのですが?
「先月撮った写真を母に見せたら、思いのほか喜んでしまってな……。妻子ではないと言ってもすっかり思い込んで聞く耳を持たないのだ。そのおかげで体調や気力も上向き、退院できるまでになったため無下にもできん。だから、おまえたちに妻子のふりを──」
事情はわかりましたが、そうじゃなくてー!!
「なんで、ふりなんですか!?」
「なぜ? どういう意味だ」
「だってドクターは、ヒナギクさんのことが好きでしょう! 恋しちゃったんじゃないんですか!?」
「こ……ここここ恋しちゃった、だと……!?」
振っておいてなんですが、ドクターから『恋しちゃった』って言葉が発せられるのは似合わなすぎてちょっときついですね。
それはともかく!!
妻のふりをしろだなんて、ヒナギクさんが可哀想なのです。
ヒラガ家の未来のために、明るい家族計画決行!!
ここはボクの頑張りどころ!!
「ドクター、恋を発展させる方法があるんですが、知ってますか?」




