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第8話 よーし皆! 今日はレアアイテムを入手するぞ!!

 冒険者ギルドの受付部屋。

 壁際に設置されたテーブル席は、隣接した食事処『赤い大渦亭』から茶を持ってくることもできる休憩スペースである。

 受付嬢の白い目に負けなければ酒を飲みながら過ごすこともできよう。


 この日、そのテーブル席で静かに茶を飲む者が。従者を背後に立たせながら、目を細めてお茶の香りを楽しむ赤毛のセミロングの女性。仕立ての良い商人服と、簡素ながら素材の良さが伺える装飾品が身分の高さを伝えている。


 女性がカップをテーブルに置いたところでギルド入り口のドアが勢いよく開かれた。

「おっ戻りだよー」

 エリフの少女リーアを先頭に『星の白銀』の一行が入ってきたのだ。


「すげえ、アッシュさんが背中にしょってるの、あれ牙虎(タスクスタイガー)の毛皮だぜ」

「マジかよ、あれ今朝依頼書が張り出されてたB級のだろ。もう片付けたってのかよ」

 受付部屋が騒然とする中、悠々と歩むアッシュがふと、休憩エリアで足を止める。


「あれ、フィルマじゃねえか」

「どうも、アッシュはん、ヴァルドはん。お久しぶりやね」

 細目のまま、にこやかに挨拶する女性。服装が示す身分と比べてずっと気安いが、多くの人間が好感をもつであろう笑顔。


「だれ?」

 リーアが首をかしげた。


「ウチはフィルマ。カウフ商会の辺境伯領支店を預かるフィルマ・カウフや」

「ほへー。すごい」

 

 リーアが感心したという表情。

 フィルマという女性は見た目は20代の前半であろう。

 そしてカウフ商会は魔道具をメインに扱う、王国でも上位の大商会である。大都市である辺境伯領に置かれた店を、若くして預かるだけの能力を持っているということである。


「なに、妾腹やけど、一応当主の血をひいてるんで、そのコネで名前だけトップ張らせてもらってるんよ」

「そんなことないよ。あそこはトップが変わってからは機能だけじゃなくって、デザインがとってもオシャレになったって評判だけど、あなたのことだったんだね」

「それはおおきに」


「でも、アッシュとはどんな関係?」

 そこだけは表情を締めて問うリーア。

「ウチはこの通り西の出なんやけど、子供の頃に運良く王都の学院に平民枠ですべりこんでな、アッシュはんとはその頃からお抱え商人みたいな関係築かせてもらってますわ。お客様と揉み手でおべっかする商人っていう清く正しい関係なんで安心してや」


 そのセリフ通り、彼女の言葉づかいには王国西方の方言が強くでているが、反対側に位置する辺境伯領ではその気さくさと珍しさで好印象を持たれるであろう。


「そういえばアッシュって都会っ子だったもんね」


「何がお客様だよ。俺はお前に利用された記憶ばっかりだけどな」

「なんやの、毎度毎度トラブル起こしてウチに押し付けてきてたのに。子爵家の三男坊が気に入らない王族ぶっとばして継承権剥奪の平民落ちだけで済んだのはウチの尽力やろ」

「その件ならちゃっかりライバル派閥に醜聞として売り込んでたろうが」

「Win-Winの関係。客と商人が長続きするコツやで」


「あー、その中央の頃の話聞きたーい」

 身を乗り出すリーアの頭を、アッシュがぽんと抑えつける。

「そんな楽しい話じゃねえよ」

「ほな、楽しい話にしよか」


 フィルマがパチンと指を鳴らす。するとずっと気配を消すように背後に控えていた壮年の従者が、手にしていたカバンをテーブルに置いた。


「うわー、キレイ!」

 開かれたカバンから取り出されたのは木箱。そこには色とりどりの装飾品が並べられていた。


「見てのとおり、ネックレスやイヤリングやらの装飾品や。ウチが扱うからには付与魔法付きだったり、加護のある一品や」

「ほわー、この指輪ステキー!」

「フィルマ、これがどうしたんだ?」

「いや、これは今回帝国からの便で上物が手に入ったんで、ただアッシュはん、ヴァルドはんにどうかな思ったんやけど」


「っつうても俺たちの趣味じゃねえな」

 アッシュとヴァルドが首を振る。

 少し触れただけでも質の高さは感じ取れるが、デザインが垢抜けすぎていて男が使うには抵抗のあるアイテムとなっている。


「ちゃうで二人共。リーアちゃんや奥さん娘さんに贈るんや」

「ホントー! アッシュー!」

 リーアが銀のイヤリングを手にアッシュを上目遣いに見る。


「いや、買うとは……」

「ええやないの。今日も何やら大物仕留めたんやろ。その報酬に加えてこれからPTの方も稼ぐんや。それも換金すればこないなくらいお安いもんやろ」

「おっ、分かるか。ああ今日は牙虎(タスクスタイガー)を討伐してきたんだけどな、この討伐証明の外側のキバ、これの凶悪さをエオード構成で…………」

「ああ、その辺は石碑になった時に読ませてもらいますんで」


(この人、アッシュの相手に慣れてるなあ)

 あっさりとアッシュの熱弁を断ち切るあたりに、リーアは二人が長い付き合いがあるのを感じさせられた。


「それに今回はかなり勉強しとくで。これは3万マトル、これは1万、リーアちゃんのイヤリングは5万や」

「うーん、その価格なら二人に土産に買ってくかなあ」

 ヴァルドが指輪と髪留めを手に取る。


「嘘お! このステキさで薄っすら魔法耐性の効果がついてて5万! アッシュ、これは買ってくれるっきゃないよね」


「そりゃいいけどよ。お前にまけてもらうってのは後が怖いんだよ」

「なにいうてますの。ウチはいつでもアッシュはんのために尽くしてきたやないの。そう、こないだの話にすぐにとびつ……応えるくらいに」


「こないだのって!? まさかもうアレが手に入ったのか」

 身を乗り出し食いつくアッシュ。


 再度フィルマが指を鳴らすと従者が懐から小さな箱をテーブルに置く。

「苦労したんやで。アッシュはんの頼みやから少ない入荷分をこっちで買い占めて、帝国まで伝手をつたって僅かな職人を手配したんやから」


 もったいをつけてフィルマが箱のフタを開くと、中からでてきたのは―――

「何この丸いの?」

 敷かれた高級な布にくるまれたのは小指の先ほどの丸い服飾用ボタン(止め具)。光沢のある黒色の中に鮮やかな黄がかった橙色(オレンジ)が交じる。


「フッフッフッ。これはな一万年ボタンよ!」


 アッシュはそう宣言すると、腕を組み満足げにうなずく。

「さすがフィルマだぜ。こんなに早く俺のオーダーに応えてくれるとはな」

「せやろ。ざっと500万マトルやけど安いもんやろ」


「500万! ちょ、アッシュ! これ何なの!?」

 見た目はキレイではあるが、リーアが手をかざしても何の魔力も感じられない。つまり付与魔法も加護も何もないただのボタンに500万という法外な値がつけられたのだ。


「これはべっ甲言うて、はるか遠い東方から輸入した鷹亀(ホークタートル)ゆう亀の甲羅を加工したんや。東方の伝説では亀は一万年生きるそうなんやよ。つまりこのボタンは一万年を経たボタンゆうこっちゃ」

 説明をされたがますます訳がわからない。リーアはぽかんとした顔をアッシュに向ける。


「ああ、酒場で聞いたんだが高PT冒険者の秘訣。それはどれだけ歴史あるボタンを身に着けているかってのにかかってるそうだ。たしかに俺の着けてるボタンは貝とか動物の骨とかいいとこ革だからな。せいぜい十数年のボタンだ。どおりでPTが振るわないわけだぜ」


「ええー、その辺の金属製のでよくない? ある意味世界ができてからずっと土の中に眠ってた歴史あるボタンだよ」


「いや、それじゃあ足りねえ。俺は一応王都で神学も学んだからな。最新の学説が明らかにしたところでは、神々が世界を創造されたのは今から5658年前なんだ。そんな程度の歴史じゃあ全然ダメだ。噂じゃあ真に高PTな冒険者は億年単位のボタンを使ってるっていうんだ…………俺も早くそれだけの器になりてえぜ」


「ねえ亀は? 亀は一万年じゃないの!?」

 絶句するリーアの両肩がポンと叩かれる。悲しげに首をふるヴァルドと笑顔で親指を立てるフィルマであった。


「ちょっとフィルマさん! 騙すならもっと手心加えて騙したげて!」

「まあまリーアちゃん。海外からの舶来品やからこれでも妥当なもんやで。それにこれはパーティー強化の秘策の準備金も含んでるやから」


 秘策? 準備金? いったい何のことなのか。リーアが問いただそうとした時、受付部屋がどわっと沸き立った。

 

 顔を向けると受付部屋の奥、ギルド側の許可がなければ入れないエリアから出てくる者が。

 一人は冒険者ギルドをまとめるギルドマスター。その隣には紺色の神官服に身を包んだ美女。

 輪郭線に浮き出た豊満な肢体と、大きな角丸型メガネから覗かせる切れ長の瞳に男たちがカウンターに群がった。


 ギルドマスターが受付嬢エルザに伝える。

「こちらの女性が冒険者登録をご希望だ。ヒーラーとして処理してくれ。ミリアム教会の書状があるからランクはDからのスタートでいい」


 ギルドマスターの言葉に押し寄せた男たちの目の色が変わる。

 ただ美しいというだけではなく、冒険者になるというのだ。祭儀用の神官服は丈を調整されベルトで絞られている。動きを重視したスタイルからはそれが冗談でないことを教える。


 しかもミリアム教の神官。ここは多神教の世界であるが、中でも最大の信徒を抱えるのは救世と祓魔の象徴たる女神ミリアムを主神と崇め奉るミリアム教である。その神官となれば高位の治癒魔法に神聖魔法が使えると期待できる。


「あの、俺たちCランクパーティーなんだけど、ヒーラーを募集中!」

「ウチも! ヒーラーもういるけど何人いたっていいよね!」

「ばかやろう、服の色みりゃ高位の神官(プリースト)なのは分かんだろ、規則でDからスタートしてんだよ。ほんとはCかBに決まってる。ってことで俺たちBだよ!」


 女性はエルザに一言告げてカウンターの外へ出てくる。

 男たちが期待に満ちた顔で出迎えるが、

「ごめんねえ、もうどのパーティーに入るか決めてるの」

 そう言って軽く皆をあしらった彼女はテーブル席に近づいていく。


星の白銀(シルバー・スター)かよ。勝ち目ねえわ」

 がっくりと肩を落とす男たち。


「ほえ? なんでこっちに?」

 女性はテーブル席まで来ると涼しげな笑顔をアッシュに向ける。

「久しぶりね、アッシュ」

 

「お前も来てたのか……セレス」

「はああ? ダレヨ?」

 どこか落ち着かない様子のアッシュを半目で睨むリーア。


「じゃ、じゃあ俺土産買ったから今日はもう家に帰るんで……」

 ヴァルドがあたふたと腰を浮かすのを、「まあ待ちいや」と引っ張って逃さないのはフィルマ。

 そして彼女は愉快そうに言うのだった。


「アッシュはんの元カノや」

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