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第22話 よーし皆! 今日は最強モンスターをテイムするぞ!!

「さて、今日の高PTの秘訣。それはテイマーになることだ。動物やモンスターを従えて最強になるんだ」

 リーアとセレスを引き連れ、街の外れを歩くアッシュが得意げに語る。


「テイマーって前に牙虎(タスクスタイガー)の討伐で雇った人だよね」


 かつて彼らは南の森にすくう凶暴なモンスターを僅か半日で仕留めたが、その時に貢献してくれたのが現地で雇ったテイマーである。


 そのテイマーはまねき猫と呼ばれる山猫を飼いならしていた。

 この南の森にのみ生息する種の山猫は、牙虎のメスの鳴き声を真似ることで知られている。そうしてオスの牙虎をおびき寄せることで、自分を捕食する中型の生物を追い払う。その習性を利用したから半日で依頼を達成できたのである。


 星の白銀は牙虎に遅れは取ることはないが、広大な森の中で個体数の少ないターゲットをただ探し回っていれば討伐に何日もかかっていただろう。


「テイマーが依頼をこなすのに助けになるのは分かるけど、最強って言葉とはかけ離れてるでしょ」


 南の森では他にも虫を飼いならす者もいる。牙虎の嫌う匂いを出す虫がおり、それを養殖して低ランク冒険者に売って金にしているのだ。

 彼もまた広い意味でテイマーと呼ばれている。


 そのようにB級モンスターをおびき寄せるにしろ、避けるにしろ、テイマーである彼ら自身が戦うことはないのだ。

 そもそもテイマーとは元々その地域に長く住んでいた者がなる職で、その場所の案内役(ガイド)という側面が強い。


 だからセレスもリーアもテイマーが最強どころか、高PTというイメージは持っていないのだが……


「たしかに普通のテイマーはサポート専門で強さとは無縁だ。だが、テイマーってのは動物やモンスターを従えるもんだろ。代わりにそいつが強ければA級のモンスターを倒して見事最強を名乗れるわけだ。この流れこそが高PTの秘訣なんだよ」


 またも首をかしげるセレス。

「A級を倒せるくらいのモンスターなら、それ自身が最低でもB級でしょ。そんなの飼いならせるわけないじゃない」

「分かった。毒蜥蜴(ポイズンリザード)だね。薬師ギルドであれの毒を扱ってるでしょ。その毒を使ってA級モンスターを倒して、無理やりテイマーを名乗ろうってわけだね、アッシュ」


「いいや、もっとスマートな方法さ。最強モンスターをどうやってテイムするか。その解法があれだ」


 アッシュが指し示す方向を見て、リーアとセレスはようやく自分たちがどこに連れてこられたのかを理解する。


 目の前には開けた広場。長い柵が並び、そこに乗り出すように詰める大勢の人間。彼らが上げる歓声が伝わる。やがてドドドっという音と共に土煙が人波の向こうに立ち上がる。

 そして姿を表すのは濃い緑色の大型のモンスター。それが十体近く、恐ろしいほどのスピードで彼らの前を駆け抜けた。


「うおおおおお! トウカイカイザーがトップだあああ!」

 モンスターが通過するや、柵に押し寄せていた男たちの反応が二つに分かれる。拳を突き上げ喝采をあげる者。逆に地に膝をついて涙する者。


 そんな両極端の表情が意味するのは、

「そう、地走り竜レースだ!」

 アッシュが得意げに断言。


「うわあ……」

「ギャンブルじゃない」


 この街の外れで行われているのはモンスターを使ったレースであり、その着順を予想し金をかけるギャンブルである。

 走るのは地走り竜と呼ばれるモンスター。竜と名はつくがかなりの遠縁種で、飛行能力を失い、そこまでの脅威性はない。たしかに野生の種は危険ではあるが、ここにいる地走り竜は卵の段階で採集され、人間に育てられている。餌さえちゃんと与えていれば無闇に人を攻撃することもないのだ。


 最初は毎年生え変わる鱗を目当てに飼育されていたが、ストレス解消に定期的に走らせる必要があり、その習性が今のレースという形に結びついたのだ。


「思い返してみれば昔、賭博ギルドの依頼であいつらの卵を取ってきたことがあったろ。そん時の竜がデビューするっていうから、これはそいつにかけて高PTを取れっていう神の思し召しに違いない」

「あったねえ、B級依頼で」


「と言っても俺はレースをよく知らねえからな。幸いヴァルドが詳しいから案内を頼んだんだ。もう朝からここに来てるはずだ……おお、いたいた。なんだ、グレゴ達もいるじゃねえか」

「ああ、ドワーフ兄弟ね。あの三人がレース場にいても何の驚きもないわね……うわっ!」


 セレスが驚きの声をあげる。なぜならそこにいた四人は全員が下着姿になっていたからである。そしてこちらに気づいた彼らは揃って言うのであった。


「「「「ようアッシュ! ちょいと金貸してくれい!!」」」」


「なんで? 時間からしてまだレース始まったばかりだよね。何で身ぐるみ全部で支払うまでお金つぎ込んじゃってるの?」

「ああ、もう今回オチが見えたわね。リーアちゃんツタでアッシュを縛ってくれる。私が財布を奪っておくから。ダメージを最小にしときましょ」


       ◇◇◇◇◇


「「「「なぜだああああ! 大穴のメテオインパクトがトップだとおおおお!」」」」


「やったぜ! 俺が卵から育てたメテオインパクトの勝利だ!」

 かつてアッシュが依頼で採集した卵から生まれた地走り竜。ようやく成体になったばかりの小柄な体躯だが、この度の初出場で見事トップを勝ち取ったのだ。


「おう、見たかよ俺のテイム力! まさに最強! これは相当なPTになるぞ」

「こんなのテイムじゃないとか、もう突っ込まないけど…………そもそもギャンブルで勝ったなんて奉納しても神々は喜ばないと思うけど…………にしてもこの四人は今日は外してばかりね」

 そばには相変わらず下着姿で地に打ちひしがれるヴァルドとドワーフ三兄弟。


 セレスが目を光らせていたことで、アッシュは目当ての地走り竜以外にはかけていないが、この四人は全レースにアッシュから借りた大金をつぎ込み、全てを外していた。

「あああ……今日は番狂わせばかりだ……」

 ヴァルドが青い顔でそうこぼす。


「うーん、周りの様子を見るとたしかに今日のレースは荒れてたみたいね」

 そこかしこで四人と同じ顔色の者が見受けられる。


「えへへぇ、私はまた当てちゃったけどねえ」

 リーアだけはなぜか乱れるレースを的中させていた。本人曰く「何となく勝ちそうなのが分かるの」なのだと。


「出だしは予想通りなのに、なぜか中盤でどいつもおかしくなりやがるんだ」

 そんな敗者の弁にセレスがふと気づく。


「ねえリーアちゃん。今気づいたんだけど、何かレースが荒れてるのって、地走り竜がアッシュの前を通過する辺りじゃない?」

「あっ、それかも。アッシュってばこないだの山喰いの時に修行中にワイバーンをぽんぽん狩ってごはんにしてたって言ってたもんね。匂いとか残ってるんじゃないかな」

「おまけにその時のワイバーンの鱗を使った防具を新調してるものね。仮にも竜種の末端なら影響受けてもおかしくないわ」


 見るとクールダウン中の地走り竜に、アッシュがオーナー顔して近づき飼育員に追い払われていた。

 竜の様子を伺うと明らかにアッシュに怯えた様子で、二人の推測が当たっている可能性が高い。

 アッシュは残念そうな顔で戻ってくる。

 そんな彼にすがる四人。

「「「「アッシュー! これじゃ家に帰れねえ! 追加で金貸してくれい!!」」」」


「まあ原因はともかく、所詮はギャンブルなんだからこの四人には自業自得で諦めてもらうとして。一応私とアッシュは大儲けだから、今回の高PTの秘訣は大成功で終了ってことだよねー」

「終了ねえ」

「どしたのセレスさん」

「いえ、何でも無いわ」


       ◇◇◇◇◇


 その日の夜であった。レースで儲けて、高PTも確定的と夢見るアッシュが一足早い祝勝会を開くと言い出した。

 アッシュに莫大な借金を負った形の男四人は奢りと聞いてもちろん大賛成。


 さっそく赤い大渦亭に突入し、ありったけの料理と酒を注文する。

 それが届けられる頃には奢りと聞きつけた他の冒険者も押し寄せてきて、室内は満員の大騒ぎだ。

 

 その中には新人冒険者パーティー『不滅の蒼』(エターナル・ブルー)の三人の姿も。

「アッシュさん、ありがとうございます。俺たちまで呼んでもらって。こないだのエリクサーの恩だってまだ返せてないのに」

 彼ら三人に関してはアッシュが受付に言付けて、ここに呼び寄せていたのだ。


「なあに、あん時の貸しに関しちゃあこれから返してもらうからよ。今日の所は好きなだけ飲み食いしてくれ」

「「「ありがとうございます。ゴチになります!」」」

 さっそく運ばれてくる料理に競うようにぱくつく三人。

 

 その頃には既に出来上がっていたグレゴが椅子に乗って得意のドワーフ讃歌を歌い出す。

「斧を五振り~ ごつい筋肉テカってるー」

「よいっしょー」

「わー」

 調子の良い合いの手も飛び、さらに沸き立つ室内で、ヴァルドがこそこそとアッシュに近づいてきた。


「なあ、アッシュ。オレがギャンブルで借金負ったのは家族には黙っててくれよな。ほんとはオレ、ギャンブル禁止令が出てんだよ。チノちゃんが生まれた時に誕生日の数字でレースに大金注ぎ込んで家の購入資金を溶かして以来、(あいつ)の目が厳しくってよ」

「おう、俺は言わねえよ」

「へへっ、悪いな。よーし、そんじゃあ飲み比べといこうぜグレゴ!」

 そう言うや店員の運んできたカップを引っ掴むと、ヴァルドは酒をあおり始める。周囲の者もそれを囃し立て、ますます宴会は盛り上がっていくのであった。


     ◇◇◇◇◇


「ふわああ……よく寝たなあ」

 エルフの少女リーアが身体を起こし、「はっ」と周囲を見渡す。

 そこには見覚えのある布やカンテラや簡易的な寝具。

「えっ、これ遠征用のテントの中? あれ、宴会やってて……眠くなってアッシュに抱えられた辺りまでは覚えてるけど……なんでこんな中に?」


 疑問を抱きながら、リーアはテントの外へ顔を出す。そして「ええええ?」と声を上げた。

 そこは岩山の中の窪地と思われた。

 

 草もまばらな地面が数十メートル四方。その周りは土手のように盛り上がり、壁のごとくに囲む。あたかも王都にあると聞く闘技場のような形だ。


 遠くに見える山の輪郭からすると街からそう離れていないと思われるが、リーアには付近にこのような窪地があった覚えはない。


「って、誰!?」

 だがそれよりも驚くべきことは、テントの周囲に散らばって横たわる何人もの冒険者の姿。いびきも聞こえ、身じろぐ者もいて、ただ寝ているのは分かるが、なぜこんな所で雑魚寝になっているのか。


「えっ、ヴァルド? ドワーフ兄弟? マーク君たちも?」

 よく見れば知った顔の男たち。それ以外の者も昨日の宴会に参加していた冒険者達と思われた。


 やがて内の一人が目を覚まし、リーアと同じく戸惑いの反応。それに刺激されてグレゴ達も起き上がってきた。

「なんでい? 酔っ払って家間違えたにしちゃあ、妙なところにいるじゃねえか」


「おう、気づいたかお前達!」

 どこからか馴染みのある声がかけられる。リーアが声のした方を向くと、一際高い囲みの上に何人もの人間が姿を現していた。

 そしてその中央に位置する長身の男―――アッシュは宣言するのだった。


「ようこそ、ゲームの世界へ!」

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