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第12話 よーし皆! 今日は幼女が強いぞ!!

 冒険者ギルドに併設された食事処、赤い大渦亭にて。今日もアッシュが仕入れたばかりの高PT冒険者の情報を披露する。


「何でもな、その冒険者は森の中で偶然出会った小さな女の子を養女にしてな、大切に育てるんだ。少女の方も養父を慕って、なんか色々あって、最終的に成長してその娘と結ばれてな、とにかくこいつはすげえPTなんだ!」


「落ち着きなさいよアッシュ。何が言いたいのかよく分からないわよ」

 

「うんうんうん。いやいや、私はお分かりだよ。つまり男はいつだって若い女が好きってことだよね。そう22歳よりも17歳のエルフとかね!」


「17歳はそこまで若くもないだろ。俺が女房と結婚したのも17の時だったもんな。一年後にはチノが生まれてたもんなあ」

「うがあっ!」


「まあ、細かいところが不明だけどハッピーエンドならいい話なんじゃない。少女が長年慕い続けた相手と結ばれるなんて物語みたいでちょっと憧れちゃうわね」

 年齢でマウントをとろうとしたリーアであったが、セレスは平然と流す。


 アッシュもひとしきり熱弁した後は、まあこの秘訣に関しては今の自分にはどうしようもないんだけどな、と淡々とこぼす。

 そこで話が終わったと、皆がお茶とつまみの木の実をかじりだす。そこでアッシュが再び口を開いた。


「ところで話は変わるんだけどよ、ヴァルド。お前の娘のチノちゃんって今5歳だよな。久々に会いたいんで今度連れてきてくれよ」

「ふへっ!」

「アッシュ、あなた……」

「てめえ!!」


     ◇◇◇◇◇


「アッシュ! ヴァルド! 冒険者にケンカするなとは言わないけどねえ! 外でおやり、外で!」

 青筋を立てて怒鳴る女将とその前でうなだれる男二人。

 現役時代はショートソードの二刀流でBランクに上り詰めた女将の技は、得物が黒大根になっても遺憾なく発揮される。


「いってえ……でもよ女将さん。ヴァルドがいきなりとち狂ったのが悪いんだぜ」

「お前が紛らわしいこと言うからだろうが! チノに手え出すような素振りしやがって」

「話は変わるけどっつったろうが! そもそも俺の好みは出るとこ出た女だって、知ってんだろうよ」

「ああん! チノはなあ、母親似なんだよ。もう数年もすればとんでもねえスタイルのいい美少女になるのに。くそっ、今から近所のガキ共が色目使わねえようにきっちり躾とかねえと」

 ヴァルドが拳を打ち合わせて、害虫駆除に意欲を燃やす。


 その横でリーアが自分の胸と腰を撫で「うん、いけるいける」とこぶしを握る。隣のセレスがそれを見て可愛らしいわねと言いたげにふっと笑う。豊満な胸部を強調するかのような腕を組んだポーズにリーアが歯噛み。「ぐぬぬぬ……」


 そして改めて席につく面々。

 アッシュとヴァルドがテーブルに置かれた大根サラダを嫌々につつく。

「俺、サラダなんて食った気しねえのに」

「家じゃチノの手前、ちゃんと野菜も食べてんだから外でくらい好きなもん食いてえよ」


「で、なんでアッシュは突然チノちゃんに会いたいなんて言い出したのよ」


「いや、こないだシンジョウ家の家宝を取り寄せただろ」

 アッシュの実家の家宝―――こことは違う世界、精霊のいないという不思議な世界からの来訪者がもたらした様々な知識や知恵をまとめたノート(羊皮紙の束)


「その中にプリンのレシピも入ってたんだよ」

「プリン! 私好きだよ」

「私も好きだけど、それこそ昔にシンジョウ家が始めたやつでしょ。今じゃあ大陸中に広まってるのに今更アッシュが作っても異世界知識を活かすってやつ? PTに繋がりようがないじゃない」


「今回はPTとかは関係なくてな。単に懐かしくなって久しぶりに作ってみようと思ってな」


「えっ、アッシュ作れるの?」

「ガキの頃はよくおやつ狙いに厨房に顔だしてたからな。つまみ食いのバツで手伝わされてたもんだ」

「アッシュは野営で料理番もするからそれくらい出来るだろうけど、あれってギルドの許可がなきゃ作っちゃいけないんじゃない?」


 この世界ではギルドという職業組合の権力が大きい。その構成員の権利を守るための組織であるが、逆にギルドに属さない者に対しては排他的になりがちである。


 例えば赤い大渦亭でもオーブンがあるためパンを焼くことができ、亭主もそうする腕をもっているが、実際にパンを作ることはできない。製パンギルドの職分であるからと、ギルドに属さない店や個人でパンを焼けば罰金が課せられる。これは法律でも定められていることである。


「ああ、初代当主がレシピを売却してな。以来設立されたプリンギルドか権利を買った貴族家や商家以外はプリンの製造はできないってことになっている。さすがに何十年かたってりゃ、レシピも外にもれてこっそり家で作ってる奴もいるかもしれねえが」

「うんうん」とリーアが頷く。


「シンジョウ家でも販売はできないが、さすがに開発元だから制作の権利はあるんだよ。っつうても表向き勘当された俺が作るのはまずいかもしれねえが、セレスが言うように大陸中に広まってるんだから、少しくらいは構わねえだろ」

「さんせーい!」


「そんで、せっかく作るんならチノちゃんを呼ぼうとしたんだ」

「何だよ、オレの娘の喜ぶ顔が見たかったのかよ。それ早く言えよ」

「言う前にお前が暴れだしたんだよ」


「へへへ、楽しみだねえ」

「とはいえシンジョウ家が権利持ってるのは最初のベーシックなタイプだけだぞ。世間じゃクリーム乗せたタイプとか出回ってるけど、あれはプリンギルドが独自に発展させたやつだからこっちには権利ねえからな」


「あら、いいじゃない。私もプリンにはちょっとうるさいけど、結局最後には最初のシンプルなタイプに戻ってくるものよ」


「ああ、そんでな。どうせ初期のベーシックなやつにするならシンジョウ様から伝わっている最初のきちんとした作法で食べようと思うんだ」

「作法? アッシュなのに似合わないこと言うね」

「そんな堅苦しくはないぞ。ただ肝心なのはテーブル席に幼女か獣人の子を座らせるってのが必須だって伝わっている。チノちゃんならどっちの条件も満たせるからな」


「なにそれ?」

「そういえば古いマナーの教本にそんなことが書いてあったのを見たことがあるわ。あれ、意味分からなかったのよね。あと『奴隷の少女を座らせるのが正式』、ってのもあったけどあれ何なのかしら。たしかに当時はまだ奴隷制残ってたけど。貴族家では奴隷すらこんな贅沢させられるって誇る意味だったのかしら?」


「かもな。シンジョウ様は慈悲深い方だったらしいからな」


     ◇◇◇◇◇


 一週間後。赤い大渦亭の厨房を借り、アッシュがプリンを作り上げた。この日のために討伐してきた鶏蛇(コカトリス)の新鮮な卵をふんだんに使った贅沢仕立てである。


「よーし、チノちゃん、待たせたな」

「うわーい、おいしそー」

 ヴァルドの娘チノが歓声を上げる。父親よりも白寄りの毛色に、ピンと尖ったケモ耳がぴょこぴょこと揺れる愛らしい少女である。


 そのチノを真ん中に、リーアとセレスとなぜか加わっていた受付嬢エルザがテーブルに座る。


「うわあ、アッシュやるねー」

「あら、思ってたよりずっと本格的ね」

「これは意外です」

 形よく盛られた卵色のプリンに女性陣が驚きの声を上げる。


「どうだい、チノちゃん。お父さんが頑張って取ってきた卵で作ったんだよ」

「アッシュ兄ちゃん、お父さんありがとー」

「なあに、遠慮せずにガンガン食ってくれよ」

「チノちゃん、お父さんも頑張って卵をシャカシャカしたんだよ」


「ヴァルドさんって将来娘に過干渉してウザがられるタイプですよね」

 受付嬢エルザの鑑識眼は正確さに定評がある。


 さっそくスプーンを手に、プリンを口にした彼女たちが称賛の声を上げる。

「おいしーよ! お父さん! アッシュ兄ちゃん!」

 チノが両手を上げて二人のパティシエを称える。


「ははっ、そりゃよかった」

「チノちゃんどうだい、お父さんの卵シャカシャカの腕は」


「美味しー!」リーアもチノにならってスプーンを掲げた。


「うん、プリン本体は卵由来の甘さのみで構成されているシンプルな味わいだけど、少量かかったソースが濃厚な甘味で、口の中で混ざること新しい味わいを生み出しているわ。舌触りもつるんとした本体とざらつきのあるソースとで対照的。この両者が一体となることで味に深みを与えているわ。これはまさに味の二重詠唱(デュアルチャント)と言えるわね」

 セレスがメガネを輝かせて語る。


「ええ、さらに言えば添えられたハーブの葉がポイントです。これの香りがプリンにもほのかに移っていることで、甘さ一辺倒ではなく口内を爽やかにもする。これはこれからおかわりを頂く我々の舌が重くならないようにという配慮でしょう。味、香り、見た目、心づかい。すべてがパーフェクト。このプリンはまさに多重詠唱(マルチプルチャント)の魔法。これは文句のつけようがありません――――勝者は、アッシュさんです!」

 エルザが立ち上がり、アッシュへと手を向けた。


 同時に湧き上がる拍手。

「アッシュ、おめでとー」

「おめでとう、アッシュ兄ちゃん、お父さん!」

「おっ、おう。ありがとな?」

「はっはっはっ、チノちゃん。これがお父さんの実力だよ?」


 その公正さとたしかな真偽眼からこれまで幾度もの命をかけた真剣勝負にて立ち会いを務めてきた受付嬢エルザの判定がくだされ、プリン女子会は見事アッシュの勝利で終了となったのであった。


 さて、その日の神殿にて。


「4、470PT!? おおおおっ!? 過去最高記録じゃねえか! いや、でも今回のはたかがDランクの常設依頼だぞ。しかもいまいち韻が決まらなかったのに……いや、まて。今までと違う点が一つあった…………鶏蛇(コカトリス)の卵、これをチノちゃんのために獲得してきた、プリンとなって幼女の笑顔に変わるだろう、その一文を入れたんだ…………まさか……これが!」


「そ、そうだ……そういやあ前に酒場で聞いたことがある。高PTの秘訣、それは幼女だと。幼女が冒険に絡むととんでもなくPTが向上すると。そん時は外見が一見子供に見えるハーフリングの冒険者を仲間にしろって意味だと思ってたが、そうか、こういうことだったんだな。冒険自体を幼女を喜ばせるため行うってのがポイントだったんだ!」


「そうだよ、こないだ耳にした養女と結ばれた冒険者の件。あれも幼女の笑顔を守りたいっていう冒険者の気高き思いが神々に届いたからこその高PTなんだ。へへっ、つかんだぜ高PTの秘訣!」


 それから……


 早朝の冒険者ギルド。条件の良い依頼を求める冒険者でごった返すのがいつもの光景である。その喧騒に最近新たな一幕が加わった。


「さあ幼子よ、選ぶのだ。我ら星の白銀はその無垢なる願いに応えるために、いかなる困難にも立ち向かうものである!」

「ふわぁあ、今日はどれにしようかなあ」


「チノちゃーん、お願い! 儲かんなくてもいいから、せめて時間かかるのはやめてー」


 星の白銀専用依頼ボードが壁からはがされ、床に置かれる。そのそばには狼人の幼女、チノの姿が。

 彼女はこのところ、アッシュの頼みでどの依頼を受注するか、その選択を行っているのである。


「うわー、アリさんだよー」

 そう言ってその中の一枚を取り上げるチノ。

 その隣にはギルドマスターがしゃがみこみ、並の子供なら泣き出してしまういかつい笑顔を向ける。

「ほんとだねー、おじさんはアリさんが好きだけど、チノちゃんはどうかなあ?」

「チノも好きー」

 Aランクの戦士たるヴァルドの血を引く幼女は、そんな凶悪顔にも動じず朗らかに笑う。


「やめてー! 大蟻(メガアント)はとにかく数多いからー、すぐ群れて出てくるから依頼数より倒さないと退避もできないのー!」

「おい、ふざけんなギルマスー! 何で採算悪い塩漬け依頼がイラスト付きになってんだよ!」


 塩漬け依頼。それは労力や危険度に対して報酬が低く、誰も引き受けないために募集がかかったまま動きのない依頼のことである。

 その代表である大蟻(メガアント)討伐の依頼書には、他にはない愛らしいアリのイラストが描かれている。

 

「チノちゃん、知ってる? このアリさんはね、巣の中に甘い蜜をためこんでるんだよ。きっとお父さんがお土産に持ってきてくれるね」

 有能職員エルザのサポートが炸裂する。


「お父さんほんとー?」

「当たり前だろ、こんなやつら父さんの敵じゃないさ」

「チノちゃん止めて。それ一週間は帰れないやつなのよ!」


「さあチノちゃん、こっちは牛さんだよ」

 調子にのったギルマスが次のイラスト付き依頼書を提示。

「ぷぷぅ、変なのー、この牛さん足がたりないよー」

「あれえ、ほんとだ。牛さんなのに二本足で立ってるねえ。気になるよねえ?」

「やめてー私ダンジョン嫌いなのー」


「うーん、どっちにしようかなあー」

「いやー!」「どっちもやめてー!」

 リーアとセレスの悲痛な叫びがギルドに響く中、幼女が掲げた一枚の依頼書。

 高らかに口上を述べて恭しくその依頼書を受け取るアッシュ。拍手喝采するギルド職員たち。


 かくして。アッシュは冒険者として一皮むけ、常に三桁台のPTを稼ぐ冒険者にランクアップを果たしたのであった。

※この作品はフィクションです。実在の人物や団体には一切の関係がありません。また作中で上げられている高PT冒険者の例は架空のものです。


※高校生主人公が駄女神幼女とボケ・ツッコミを交わしながら様々な異世界を冒険して回る、処女作「バイト先は異世界転生斡旋業」もよろしくお願いします。

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