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第10話 よーし皆! 今日は突然前世の記憶に目覚めるぞ!!

「なあ皆、最近突然記憶が蘇ったんだが、実は俺はこことは違う世界で生きてたことがあるんだよ」


 冒険者ギルドに併設された食事処『赤い大渦亭』にて、アッシュが突然の告白。


「何言ってんだお前」

 ヴァルドは食後の茶を飲む動きを止めることもなく、淡々と返す。


「あら、これ美味しい」

 セレスがデザートの干しぶどうをつまみながら。

 

「ふんふんふん。分かるよ。アッシュもそういうお年頃なんだね」

 リーアは意外や肯定の反応を示すが、アッシュの方が「えっ?」と困惑顔。

「なんだ年頃って」


「お分かりだよ。取り替えっ子(チェンジリング)ってやつだよね。エルフの間でも時々あるよ。赤ん坊とか小さな子がいつのまにかどこか遠くの世界の人間と入れ替えられちゃうの。私が小さい時に兄貴もそう言い出してたよ。『だから自分はこの家の子じゃないんだ』って、『本当の家族を探す冒険に出る』ってカバンにパンやおもちゃ詰め込みながらね」


「いや待て、それは何か違う」


「思春期ってやつ? 父さんが『お前もそういう年頃かあ』って懐かしそうな顔してたなあ。父さんも兄貴もエルフにしては耳が丸っこかったからね。まあ実際の取り替えっ子(チェンジリング)って8割方母親の浮気だから母さんが『私は父さん一筋だよ!』って引っ叩いて晩ごはん抜きの刑にしたらすぐ言わなくなったけど」


「あの人、子供の頃からそういう性質(たち)だったんだな……じゃなくて、俺のは場合は違う世界、つまり異世界で一度人生を送ってな、死後に魂だけこの世界にやってきたっていうやつなんだ。そんでこないだ突然その前世の記憶が蘇ったわけよ」


「えっと、最初に確認しときたいんだけどそれってPTに関係ある?」

「おう!」


 得意げなアッシュの表情に皆はそろって肩を落とした。

「そういや新メンバー募集の時にもそんな話してたわな」

「あー、異世界人とか過去人とか言ってたね」

「でも、それが何でPTにつながるの?」


「ああ、酒場で聞いたんだけどな。むしろ高PTの冒険者の八割が前世の記憶を持ってるそうだ。むしろ前世の記憶ってのは高PTの必須テクニックなんだ」

「聞いたことないよそんなの」

「この辺で一番の高PTっつうと『屈強な(スリー・)ドワーフ(ワイリー・)三兄弟(ドワーヴス)』だけど、あいつらなんか、骨の髄までドワーフだからな。前世7回くらいさかのぼってもドワーフでできてるぜ」


「異世界うんぬんってのは置いといても、ミリアム教だと生まれ変わりって否定的なのよね。そもそもアッシュ、あなたそんな嘘ついた所でPTは却ってマイナスになるでしょ」


「ところがまんざら嘘でもないんだ」

 そう言ってアッシュが懐から取り出したのは羊皮紙の束。


「何これ」

「これは俺の実家シンジョウ家の家宝よ。まあその写しなんだけどな」

 テーブルにその羊皮紙の束が置かれる。


「リーアは知らなかっただろうけど、シンジョウ家ってのは俺の祖父が興したんだが、元は別の世界からこの世界にやってきた英雄の名前を頂いたんだよ」


「へー、シンジョウって妙な響きだなって思ってたけど、別の世界の名前だったなら納得だよ」

「えっ、あれ本当の話だったのか!?」

「私は知ってたけど。セルモンティ家もシンジョウ様がこの世界に来訪された時に関わったから。そのアッシュのご先祖様がシンジョウ様からいろんな知恵や知識を授かって、それを広めた功績で時の国王陛下に叙任して頂いたのよ」


 アッシュは頷く。

「それだけじゃなくて、実際にその血も引いている。シンジョウ様がこの世界で活動された時に世話人を務めたのが俺の曾祖母でな。この辺じゃあ珍しい黒髪もその証だ」

 アッシュの黒々とした頭髪。特に一房銀髪が混ざるのは、まさに英雄その人の特徴である。


「つまりだ、俺は異世界人4世と言えるわけだ」

「異世界人の血を引いてるってのは分かったけどよ。結局お前自身は異世界の記憶なんてないんだから意味ないだろ」

「まあそうだ。実際にPT稼いでる異世界の出身者はな、あちらの世界の知識で便利な品を作ったり、有益な知恵でもって冒険に活かすことで神々に評価されてるそうだからな」


「じゃあダメじゃん」

「ところがだ」と言って先程の羊皮紙の束をテーブルに広げる。

「この我が家の家宝。ここにはシンジョウ様が残したあちらの世界の知識や知恵がふんだんに記されている。つまりこれを使えば俺も立派な異世界人ってわけよ」


 その言葉に反応したのはセレス。

「ちょっと、それトンデモない重要品じゃない。私の実家や王家や……ううん、周りの帝国とか、誰もが狙ってくる代物よ」

「なに、実際は殆どがすでに広められているやつだ。ただの平民出が独占するのは危険すぎるって曾祖母が権利ごと周囲に渡してるんだ」


「それはまた賢い方だったのね」

 アッシュが頷きながら羊皮紙の一枚を取り上げる。

「ああ、例えばこれは紙の作り方だが、これなんか実家で独占してたら生産数も限られてて結局羊皮紙と扱いが変わらなかったろうな。世に広めたからこそ、英雄叙事詩イロハスのような名著が安く誰にでも手に入るようになったんだ。なのにその有難みを分かってないやつが多すぎるんだ!」

 そう言いながらテーブルをドンと叩くアッシュ。


「アッシュ、また脱線してるよ」


「おっと、それでな。この家宝だが実はいくつか意味が分からないものがあるんだ。といっても大抵は当時の技術ではまだ実現不可能だったとか、肝心の原料が見つかってないとかでこっちの対応ができなかったってパターンで、最終的にはこの数十年の間に家宝の殆どは実現している。だが、それでも今なお意味不明な記述があったりするんだ」


「ってことは……」

「ああそいつを俺が解き明かせば異世界知識を活用したということでPTはウナギ登りってわけよ!」


「ふーん、PTは置いといてもその中身は正直気になるわね。私にも見せて」

 セレスが内の一枚を手に取る。


「えーと、『せんばこき』? これは妙な響きね。絵もついてるけど何なのかしら」

 そこには長方形の一方の長辺に十本の横線が生えた絵が描かれていた。


「私にも見せて。ふんふん、これ長テーブルじゃない? 横から見ると天板に足がいくつもついてるように見えるよ」

 リーアは実際に自分たちが座るテーブル横に顔を落とす。四人がけのテーブル席。荒れくれ者達の乱暴な扱いに耐えられるように天板は厚く、横からみればたしかに長方形に細い足が生えているようにも見える。

 

「そんな当時からあるもんをわざわざ書き残したりしないだろ」

「そりゃそっか」

「その絵の下の方になんか書いてあるぞ……ええと、『後家さん殺し』。ってなんだこりゃ?」

 後家さん、夫を亡くした女性。さらに脈絡の無い言葉にヴァルドが首をかしげる。


「これに関しちゃあ実家でも完全にお手上げだ。せんばこきって名前とその絵、さらに後家さん殺しなんていう物騒な添え書き。この3点しか書かれてないんだ。さっぱり分からねえ」

「後家さんを殺めるなんて乱暴ねえ」


「形だけみると柵とかピッチフォークの先の部分にも思えるぞ」


 ピッチフォーク――――長い柄の先に尖った歯が二股や三股、あるいはもっと多くに枝分かれしている農具である。この地でも干し草や刈り取った麦をすくい上げたり、運搬などに使われている。


「デーモンがピッチフォークを武器にするって聞いたことがあるが、まさか後家さんにぶっ刺すわけないしなあ」

 男二人は腕を組み悩む。


「ふっふっふっ。アッシュ、私分かっちゃったよ」

 リーアも腕組をしながら得意げな表情。

「おお、何だよ」

「あら、すごいわね」

 平坦に褒め言葉を口にするセレスに、リーアが勝ち誇ったようにに指を突きつける。

「たとえメガネがなくっても私の知性は負けないよ! 後家さん殺しって言葉に乱暴という感想しか抱けないのがセレスさんの敗因なんだよ!」


「いつの間にそういう勝負になってたの?」

「おいリーア、早く教えてくれよ」


「しょうがないなあ、アッシュ。これはね後家さん殺しって所がヒントなの。後家さんって夫を亡くしたばかりだと身なりに気を使う余裕がないよね。だけどね、時間がたって悲しみが癒えたらオシャレをしましょうって教えなんだよ。そう、この絵はずばり(くし)のことなの。髪は女の命。櫛で髪をすいたらまた前みたいな輝きを取り戻して、たちまち男たちが群がってくるよってことなの。そうして新しい恋をすることで後家さんが後家さんじゃなくなる。そう、後家さんを殺すってのはそういう意味なんだよ」


 うんうんと自説に感じ入るリーアと、対照的な三者の白い目。

「リーアちゃん、櫛なんて大昔からあるでしょ」

「あっ、あれ?」

 あっさり反撃されて、リーアはやっぱりメガネが無いと……としょげかえる。


「ああ、そうだ。櫛と言えば冒険に出るなら髪留めをもっとしっかりした物に変えたいのよね」

 セレスが自身のブラウンの髪をすきながら言った。その長髪は後部で軽目のアクセサリで纏められている。

 

 慎ましさを良しとするミリアム教会で許される質素な髪留めである。こうしてその外に出てきたからには、激しい動きにも耐えて、さらにはそれなりにオシャレな物に変えたいというのがセレスの希望であった。


 そこから女二人の会話はオススメの衣料店はどこかという内容に移っていく。やがて今からショッピングに行こうと結論され、

「じゃあ行ってくるねえ」

 と連れ立って出ていった。


 残された男二人。

 ヴァルドがお代わりした茶を飲みほすとアッシュに呼びかける。

「なあ、アッシュ」

「なんだ」

「オレ、気づいちまったんだがよ。思うんだが……このせんばこきって。これ、エロい奴じゃね?」


 アッシュも茶を一口すするとニヤリと口角を上げた。

「お前も気づいたか」

※作者は子供の頃は自分は前世では凄腕の戦士であったなどと夢想して、現実から逃避する内向的な性格でした。ですが今は異世界小説と出会ったことで、来世で輝かしい人生をつかもうという前向きな気持ちで生きていけるようになれました。


※ご先祖のシンジョウ様というのは、作者処女作「バイト先は異世界転生斡旋業」の主人公のことです。現時点では直接関わらないですが。本作と同じくなろうファンタジーのテンプレを扱ったコメディです。例えばスキルの受け渡しができる世界は実際にはどんな文化風習になるの? というノリの作品です。バナー広告下にリンクがあります。ご覧頂けたら幸いです。

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