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第1話 よーし皆! 今日はパーティー追放に挑戦するぞ!!

「お前をこのパーティーから追放する」


 冒険者ギルドに併設された食事処。昼間から荒くれ者が(つど)って室内は喧騒にまみれていたが、長身の青年が一回り小さな少年へ突きつけた言葉はよく響いた。


「そんな! アッシュさん……僕が何をしたって言うんですか!」

「何をした? テメエがお荷物だからに決まってんだろうが!」


 アッシュと呼ばれた男は少年を見下ろす。

「俺たちはこの街でトップクラスの冒険者パーティー『星の白銀』(シルバー・スター)だぜ。そこにお情けで入れてやった弓士のお前が、モンスターに怯えて冒険にまともについてこれねえ! だったら追放に決まってんだろうが!」


「それは…………入ってすぐにB級モンスターの中に放り込まれて、死にかけたんだからしょうがないじゃないですか!」


「おいおい、ありゃあ新人教育だろうがよ。まさかAランクを目指すっていってる奴があの程度でぶるっちまうなんて思わねえだろう? まあ冒険者に向いてねえって早めに分かってよかったじゃねえか」

「うっ…………」

「言い返せねえようだな。じゃあ追放されるのも仕方ねえよなあ」


「そんな……、皆は、皆も同じ気持ちなの!?」

 少年はすがるような目を周囲の仲間達に向ける。


「ヴァルドさん!」

 大柄な狼人は悲しそうに首を振る。

「リーアさん!」

 ローブに身を包んだエルフの少女。口元を両手で抑え、顔を伏せてその表情は伺えない。

「君も……君も同じなの……?」

 小柄な猫人の少女。特徴的なネコ耳がへたれている。「私……私は……」


 だが誰も青年の言葉を否定しない。

「故郷に帰れば村の狩人くらいにはなれんだろ……じゃあまあ頑張れよ。よーし、じゃあ皆行くぞ」

 青年は(きびす)を返すとさくと歩き去る。狼人、エルフの少女も後を追う。猫人の少女も幾度か振り返りながら去っていった。


「僕は……僕は……」

 彼らの後ろ姿を追った少年の視界が涙で滲んでいった。


――――――ここは数多(あまた)宇宙の、とある世界。人間(ヒューム)が剣を振るい、エルフが魔法を唱え、冒険者がモンスターを狩って人々の生活を守る、そんなありふれた世界。ただ一つ、この世界の特色と言えば…………


       ◇◇◇◇◇


 街の中心に立つ白亜の神殿。祀られるのは冒険者を守護する神々。訪れるのは当然ながら冒険者達。困難な任務の成功を祈願し、その守護を請い、そして自身の冒険の成果を神々へ奉納するための神聖な場所である。


 この日冒険者パーティーを追放された少年もこの神殿を訪れていた。


「神官様、奉納の儀をお願いします」

 少年は神官に付け届けの銅貨と小さな魔石を手渡し、奉納台に立つ。その横には先程別れたはずの猫人の少女が寄り添う。


「でも本当にいいのかい。あそこにいれば君もいつかは上級職にだってなれたろうに。ほんとに僕と一緒に……」

「いいのいいの。私も前からあのパーティーにはついてけないなあって思ってたんだから」

 今は赤毛のネコ耳をピンと立てて、少女はそう言って笑った。

 

 神官がそっと片手を上げて告げる。

「敬虔なる信徒よ。あなたの冒険の軌跡を神の前に語りなさい。ありのままに、正直にです。神へその私心なき言葉が届けば、あなた達へ恩恵が(もたら)されるでしょう」

「はい」


 少年は膝まづき、頭をたれておごそかに語りだす。

 この街にAランク冒険者になろうとしてやってきたこと。ソロで必死に稼ぎながら修行の日々を送っていたこと。街のトップパーティーに拾われたこと。だが彼らは自分を真に仲間にしようとしていたのではなく、ただ力量の伴わない自分に現実を突きつけてやろうとしていたのだと。


 神官は憐憫(れんびん)でもなく、(あざけ)りでもなく、ただ穏やかな表情で少年の独白を受けとめている。

「だけど……この街に来て辛いこともいっぱいあったけど、最高の仲間にも会えました。だから……」

 そっと横を向くと猫人の少女が目を合わせ頷く。


「だから……僕は一流パーティーを追放されたけど、カワイイネコ耳少女が一緒に来てくれたから田舎で狩人としてのんびり暮らすことにします」


「よき、奉納でした」

 神官が告げるとその前の台座に置かれた魔石、それがまばゆい光を放つ――――


「あなたの叙事詩は神の御許へと届きました」

「ありがとうございます」


 手渡された魔石を見て二人は声を上げる。

「すごいキレイな柑子色(こうじいろ)! これは……600ptはあるよ!」

「うわあ、こんなの『星の白銀』に居た時も見たことないよ!」


 抱き合い喜びを噛みしめる二人。やがて自分達の体勢に気づき、慌てて離れ互いに顔を赤らめる。

 その背後からかけられる声。


「おおーいお二人さん、後がつかえてるんだけどよ」

「すいません、今どきます……って、アッシュさん!」


「おう、お前ら早速神殿に奉納に来たのかよ。で、PTの方はどうよ」

「はっ、はい。こんなに」

「600pt! すっごーい! やったね、これだけあれば換金したらかなりいくよ。もう今日は豪華な宿に泊まるっきゃないね。やるねー、このこの」

 エルフの少女が自分のことのように浮かれだす。


「いや、でも俺が酒場で仕入れた情報じゃあ、追放されたらもっと高PTだったはずなのにあ。お前ちゃんと追放した奴らをぶっ殺すっていう強い気持ちを込めたのかよ」 


「いやあ、僕これからのんびり生活するんだってまとめちゃいましたから」

「ええっ何で? 俺言ったよな、そういう生々しい感情を苛烈に鮮烈に表現することこそが神々の心に響くんだって」


「いえ、でも僕はアッシュさんには感謝しかないですもの。ちょっと弓の適性があったからっていきなり田舎を飛び出てきちゃって、その日暮しのところを助けてくれたんですから。それに冒険者の厳しさを教えてくれて、村に帰れる手配までしてくれてたんて。ほんとにどれだけお礼を言ったらいいのか。それに……彼女のことも」


「あーいらねえってそういうの。送別会でさんざんやっただろ。礼を言うなら村に戻って俺たちに依頼出してた両親に言うんだな。それにウチの斥候(スカウト)役のことは俺は何も言ってねえぞ」

「そうそう、やるねえこの色男」


「えへへぇ、すいませんみんな。私もパーティーのお荷物だったくせにいきなりの退団で」

「大丈夫。私こうなるって分かってたから、ちゃんとアッシュに二人分の求人出すように言っといたもの」


「どちらにせよ、実際と違う内容を語ってもPTは低いっていうじゃないですか」


「まあそうなんだけどよ。そこを言い換えるなり誇張するのは演出であり技ってもんよ。せっかく俺が熱演して追放したんだから、そこ生かしてくれねえと」

「えー、アッシュってば思いっきり大根役者だったよ。私、笑いこらえるのに苦労したもの」


「そうかあ? まあいい。俺が見本を見せてやるぜ。酒場で聞いた限りでは追放側にもかなりPTは付くんだ。むしろ追放した者の心情にこそ神々が称賛をお与えくださるそうだ。お前が遠慮した分。俺ががっつり頂いてくるぜ。まあ見てなって」


 そして奉納の儀が行われる。

「春暉微かに芽吹く頃、行旅の空に浮かれた我々は緑青し樹立ち並ぶ里山の村に立ち寄った。出迎えの素朴たる村人らに請われたのは――――」

 

 青年が台座に乗せた魔石。少年が持つ魔石とは段違いの大きさのそれに、青年が熱い眼差しを注ぎながら朗々と己の冒険叙事詩を吟ずるが…………



「15pt……嘘だ……俺の渾身の叙事詩が……15pt!? かつて訪れた山村の美しさとそこでの平凡ながらも平穏な生活をアイウッド技法で賛美し、そこへ仲間を追放するという矛盾をエオード構成に盛り込むことで嘲笑の中に僅かな羨望を滲ませるという高度に完成された俺の叙事詩が……15pt!?……なぜだ……何故ですかぁ! 神よおおおおおおお!」


「あー、またやっちゃったねえ。でもこないだの二週間かけてA級モンスター討伐しといて20ptの時と比べるとマシなんじゃない。はい、よしよし」

 地に膝を付いて嘆く青年に、少年が決意を秘めた表情で近づく。


「あの、聞いて下さい。僕、アッシュさんには恩ばかりで何も返せてないけど…………だからこそ、これは僕が言うべきだと思います」

「えっ、何を……」


 少年は大きく息を吸い込み一息に告げる。


「アッシュさんに詩の才能は無いんです!」


「えっ!? ……いやいや、何いってんだよお前。いや、そりゃここ何年かはずっとスランプ気味だったけど、実は俺は以前に王都に住んでてよ。そこで詩聖(レジェンド)達に直に定石詩を教授されてたんだ。かなりの技法を学んできたし、お褒めの言葉も何度も頂いてるんだぜ」


「そうかもしれません。ひょっとしたらアッシュさんにはそういう詩の才能があるのかも。でも、そもそもその何とか技法とか構成とか、古い型にはまった詩は喜ばれないんです! 今の主流はもっと自由で、虚飾に満ちた言葉を取り払った、心からの思いを素直に表現するスタイルなんです!」


「いや、一部にはそういう散在詩ってスタイルがあることは知ってるけどよ……それはあくまで邪道っつうかお遊び的なやつでさ……」


「神々がそれを望んでるんです。そのPTが証拠です!」

 そばに転がる巨大な魔石。ほぼ黒一色といってよいその輝きは奉納する前と殆ど変わりがない。

 青年はその魔石から目をそらし叫んだ。


「お前だって、以前に俺の詩がすごいって言ってたじゃないか!」


「あれは……何かすごい難しい言葉知ってるなってのと、5分で通過しただけの草原の描写に何で同じ5分かけてるんだろうっていう意味のすごいです」


「ッ!? いや、言いたいことは分かるけどよ……そりゃたしかに俺のPTは低いけど、これは俺の未熟のせいであって、決して定石詩が……アイウッド技法やエオード構成が否定されたわけでは…………


 そ、そうさ。現に詩聖(レジェンド)達の高PTの叙事詩はいくつも石碑になって神殿に飾られてるじゃねえか! …………そりゃ、最近の新作は石碑になってないけどよ…………


 決して神々が望んでいないわけじゃねえ! そうでしょう神官様…………神官様? 何で目を逸らすんですか!」


 青年はうろたえながら自分を囲む仲間たちにすがる。

「そんな……お前達も……お前達もそう思ってたのかよ!――――ヴァルド!」

 大柄な狼人は悲しそうに首を振る。


「リーア!」

 ローブに身を包んだエルフの少女。口元を両手で抑え、顔を伏せてその表情は伺えない。


「そんな、そんな……俺の叙事詩を……アイウッド技法やエオード構成を神々が望んでいないなんて……嘘だ……嘘だ……」

 地についた手をかきむしり慟哭する青年。


「あっ、あのすいません、僕。こんなことに……」

「ああ、いやいいんだ。本当は古い付き合いのオレが言ってやるべきだったんだが…………」

「うんうん、フォローは私に任せといてって。早く行かないと乗り合い馬車出ちゃうよ」


 そして若き少年少女は幾度も振り返りながら、その度に感謝の礼をしつつ神殿を後にしていった。

 残されたのは、

 いまだ地に打ちひしがれる男――――アッシュ・シンジョウ・ルノ

 苦笑しながら男を慰めるエルフの少女――――リーア・リンドルース

 二人を見下ろし深々とため息をつく狼人――――フォレの森のヴァルド


 この世界の大きな特徴。それはプレイヤーズ(P)テキスト(T)、すなわち神殿にて神へ捧げる言葉――――叙事詩、歌、祝詞。それらが神々に届いたとき恩寵が(もたら)されることである。


 それは魔力であり、この世界の一般的なエネルギー源。自然界で採取できるものでもあるが、神殿にて(たまわ)るそれはPTと評されて他と区別される。

 なぜならPTは奉じるテキストの内容と誰が奉じたかによってその齎される量が変わるのである。


 そのため人々はより高いPTを得ることこそが、自身の行いが神々へ承認された証であると考え、一つでも多いPTを頂くべくテキストの研鑽に務めている。


 だが、中にはその努力が見当違いの方向へ向かってしまう者もいて…………


 これはそんな冒険者アッシュが、自身の叙事詩で高PTを獲得すべく奮戦する物語である。

※この作品はフィクションです。

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