第38話 弟2人
ケン達一行6人は今夜の宿に比較的広い一室を借りていた。
そして夕食後に部屋に戻ると入口の前に兵士が2人待ち構えていたのだった。
「ウエストの町の守備兵を務めているノウと申します。姉がこの町へ来ているという噂を聞き、夜分失礼ながら訪問させて貰いました」
「同じく守備兵のホッコです。姉貴がお世話になっております」
細い兵士はハナの弟で名前はノウ、太い兵士はソレナの弟でホッコというらしい。ちなみに2人はケンと同い年だそうだ。
2人共去年成人となり、国の兵士となって今はウエストの街の守備兵を務めているらしい。
2人は同じ部隊の同僚であり、ハナがこの町に来ているという話を聞きどうにか宿を突き止めて会いに来たそうだ。なおソレナはホッコにハナの護衛をしていることを手紙で知らせていたため、ソレナの目撃情報を辿ってこの宿に辿り着いたとのことだ。
「お前この馬鹿!ハナの護衛をしている事を手紙に書きやがったのかよ!」
「なっ何が悪いのだ、私の家族に送る手紙だぞ、文句など言われる筋合いは・・・」
「あるに決まってんだろーが!その手紙が誰かに奪われたり、覗かれたり、あるいは偶然別人の所に届けられたら情報が漏れてハナの身が危なくなるだろ!自分が重責ある仕事をしてるって自覚はねぇのか!」
「・・・あ~すまん、これは私のミスだ。護衛の話を広めるなとは言っていたが、手紙に書くなとは言っていなかったからな」
「旦那のミスな訳ねぇでしょうが、広めるなってのは家族にも喋るなって事だよ。言っておくが俺はケンにきちんとその辺教育してあるからな!」
「はい、俺は家族にハナの事は一切伝えていません。・・・同僚が女の子だって位です」
まさかのポカにヘイは激高する。ギイや旦那はハナの身柄にはそれ程価値が無い事を知っていたが、ヘイにはそれを教えていなかった。その方が先輩としてちゃんと妹弟子を守るだろうと考えたからである。
ソレナも旦那にハナの身柄に価値が無いことは教えられてはいたが、信じてはいなかったので事が深刻だと勘違いしてしまい項垂れている。ちなみにこれをフォローするつもりは師匠にも旦那にも無い。護衛の詳細を広めるのはやはりまずい事だからである。
「姉貴、確かにこれはヘイ兄ちゃんの言う通りだよ。これは相当不味い手紙だからね」
そう言ってホッコはつい数日前に届いたというソレナからの手紙を見せてきた。そこには以下の様に記されていた。
「我が弟ホッコよ、仕事には慣れたかな。私は責任ある仕事を任されて毎日が充実の日々だ。お前もマール国の兵士として誠実に職務に励むと良い。
さてこれからハナ様は馬車を使用した行商を始める。まず最初にお前の住むウエストの街に行く事になった。衛星都市を過ぎればモンスターの数も増える為心配だろうが、なに道中の危険はこの私の剣で全て切り開いて見せようではないか。おそらく街に到着するのはこの手紙が届いてから数日経った後だろう。どこに泊まるのかは分からないが、私達が到着したらこの私を探して宿を訪ねに来なさい。きっと会えるだろう。再会を心待ちにしているぞ。 偉大なる姉ソレナ」
これを読んだ全員が溜息を吐いた。移動手段も目的地も到着日時も丸分かりだ。悪用しようとすれば方法は正に無限大である。おまけに自分は動こうともせずに、弟に探させる気満々である。
「手紙の内容に突っ込みてぇのは山々だがな・・・お前これから書く手紙は全部一度誰かに見せてから送れ」
「なっ、そこまでしなくても」
「そこまでしなくちゃならねぇ程の馬鹿なんだよお前は!俺が駄目ならせめてハナには見せるようにしろ。と言うかハナの事は一切書くな。他には誰に教えた?」
「ノースの町の家族宛にも護衛をしていると・・・」
「分かった。ホッコ、お前から親父さんたちに話を広めないように手紙書いといてくれ」
「大丈夫です、もう書いて送ってます」
「お前は昔からそつが無いよな。助かったぜ」
ヘイがやれやれとため息を吐く。何となくこの3人は昔からこんな感じだったのではなかったのかと感じてしまうようなやり取りだ。まぁ実際そうなのだが。
そして項垂れているソレナに弟であるホッコが話しかけた。
「姉貴~いい加減に家に帰りなよ、親父もお袋もじいちゃんも心配してるよ」
「それについては大丈夫だ、この先の行商でノースの町にも寄る予定だからな。その際に顔を出すさ」
「そうじゃなくてさ~、姉貴ももうすぐ21じゃん?そろそろ婚期を気にしなきゃならないでしょうが」
「今は旦那殿に直接剣を教わりながら旅をしているおかげで以前よりも強くなれたからな。家族に心配をかけていることは自覚しているが、今暫くはこのまま冒険者として働きたいと思うのだ」
「そっか~じゃあ仕方ないかな~」
弟はこのポンコツ姉に早く身を固めて貰いたがっているようだが、姉はお構いなしに自らの夢に向かって邁進している。どうにも噛み合わないがこの姉弟はそれで良いのかもしれない。
そこで挨拶をしてから黙っていたノウがハナに話しかけてきた。こちらはホッコと較べてかなり真剣な様子だ。空気がピンと張り詰めるのが分かった。
「それで姉上、一体いつまでこのようなお戯れを為さるおつもりですか?」
「はい?戯れって私何かした?」
「ですから!仮にも王族である姉上が何故行商人の修行をしているのですか!」
ノウ王子の言い分はとてもまともだ。王族でありながら行商人の修行をしているハナはやはりおかしいのだ。
一年前、ノウが兵士になって暫くして姉が行商人に弟子入りしたという噂が流れてきた。ノウは驚いて確認を取れば何と真実だという。父親である国王に問いただしても梨の礫だ。しかし今一年振りに姉と再会出来たのだ。どうにかしてこのおかしな状況を正常な状態へと戻したいとノウは考えていた。
しかしそれはもうこの一年の間に散々話し合われ、議論しつくされてきたことなのだ。今更何を言われようとも翻ったりはしない。
「何故も何もお父様の命令なのよ、やらないという選択肢は無いわ。更に言うと私自身この仕事が結構好きなのよね。正直このまま王女を辞めて行商人として生きて行っても良いかもと考えているもの」
「王女を辞めるって・・・馬鹿を言わないで下さい!そんな事出来る訳が無いではありませんか!」
「そうでもないでしょう。あんたもうちの国にお金が無いの知ってるでしょう?仮にも時期国王のあんたが一兵士として働いてる位なんだし。私もお見合いの旅が失敗しちゃったし、父様がお師匠様の所へ派遣したのって就職先の斡旋だったんじゃないかって思ってるもの」
これまで散々議論してきた議題「何故ハナは行商人の修行をしているのか」の今の所の回答がこれだ。
「国が貧乏過ぎて働き口を探した結果」
正直どうかとも思うのだが他にこれと言った意見も出ていないのでハナは殆ど信じていた。
そもそもハナが行商人を辞めて城に戻った所で特にやる事も無いのだ。ならばこのまま行商人を続けていれば父の思惑にも気づけるだろうと考えていた。他にやり様が無いとも言うが。
「そんな訳で私行商人辞める気無いから。何ならあんたもやる?結構楽しいわよ」
「私はどちらかと言うと内政向きなのは姉上も知っているでしょう。今の兵士の仕事も中々にハードなのです。旅から旅の行商人は私には厳しいですよ。・・・では無くてですね!ああもう、ギイ会頭、、あなたは本当に父上から何も聞かされていないのですか?」
「国王陛下からお聞きの通りですよ。私も何も聞かされてはいません。そして贔屓目を抜きにしても、殿下の姉君は行商人として中々見所があります。暫く見守って見ては如何でしょうか」
ギイは当然王子であるノウとも面識があった。しかしそれでも分からないものは分からないので他に言い様がない。
ノウは溜息を吐くとギイに向き直って頭を下げた。
「分かりました。いや納得はしていませんが今の私には父上の決定を取り下げるだけの力は無いので分からざるを得ません。この先はモンスターの数も増えます。姉様の事を宜しくお願い致します」
「了解しました。師匠として弟子の身柄はしっかりと守りますよ」
そう言ってノウはギイとそしてケン達に姉を頼むと頭を下げた。
それで張り詰めた空気は霧散したのでケンはずっと気になっていた事を聞いてしまった。
「あのノウ様はハナの弟になるのですよね。つまり王子様って事ですよね」
「ああ私はこの国の王子だ。次期国王でもある」
「つまりフルネームはノウ=マールになる訳ですから、つまり普通王子って事ですか?」
「「ぶっ!」」「ちょっと!」
皆が気づいていたが敢えて黙っていた事をケンがストレートに聞いてしまった。
王族というものがよく分かっていない村人ならではだが、これは正直不味い。
何しろ皆知っているのだ、この国の王子に「普通」は禁句だということを。
「ふ」
「ふ?」
「私を普通と言うなー!!!」
ノウが爆発してケンに飛びかかるがホッコとハナが即座に取り押さえた。
突然の弟達の来訪はこうして大騒ぎの末に終了となった。
なおケンはノウに対して二度と普通と言わないと誓わされたのだった。




