第15話 王女の事情
「ぶっちゃけて言えば貧乏だからなのよね」
とハナと名乗った女性は答えた。女性と言っても聞いてみればケンよりも一つ上の16歳らしい。随分と大人びて見えるのは王族故かこの歳で貫禄が付いているのか。
この国の王女殿下にしてギイの3番弟子と名乗ったこの女性は宴会の食事をモリモリと喰らっている。ケンにしてみれば、王女様といえば子供の頃に母親が寝物語に聞かせてくれたお話の中でしか知らなかったが、どうやら現実の王女はやたらとフランクでかつ健啖家らしい。
最初に挨拶してからどうもこの王女様に付きまとわれているケンなのであった。ちなみに彼女を連れてきたギイ師匠は「詳しいことは後で話す」と言ってモウさんと一緒に奥へ引っ込んでいった。
他の従業員達は遠巻きに見守っているだけで話しかけては来ない。どうやら王族との距離を測りかねているようだ。そんな中、孤軍奮闘しているのがヘイであった。
弟弟子の世話を任された手前王族に付きまとわれたからと言って見捨てるわけにも行かなかったのだろう。今も二人の周りをクルクルと回りながら食事や飲み物の世話をしている。
もちろん話を振るのもヘイの仕事だ。伊達に5年間も行商人として生きてはいない。
「それはいくらなんでもぶっちゃけ過ぎでしょう。もう少し詳しく説明して下さいよ」
「敬語禁止!私は新米行商人なんだからケンと同じように接してってさっき言いましたよね」
「努力はしてますがね、王族相手にそう簡単には行きませんよ、いや行かねーよ」
「アニキも大変ですね。僕はハナさんが王女様だって言われてもピンと来ないから言われるままにしてますけど。駄目なんですかね?」
「お前、他の国で王族やら貴族相手にさん付けなんかしたら最悪死罪だからな・・・それについては後で教えるけどよ、一から詳しく説明してくれよハナ・・・これでいいか?」
「OKOK了解です。では少し長くなるけど説明しますね」
そうしてハナが説明した所によると、このマール国は慢性的に財政不足に陥っているらしい。元々世界の中でも僻地にあり平和なのと景色が良い位しか取り柄がないため、若者は刺激を求めて他所の国へと移動していく。冒険者も商人もこの国の出身者であってもより稼げる場所へと移動していくという。
若者が移動すると段々と人口が減少し、更に言えばこれと言った財源も無いためドンドン税金が減っていく。言うなれば負のスパイラルに陥っているのだそうだ。
「まぁ30年位前まではまだ余裕があったらしいんだけどね。何でも領地の一部を失う羽目になって収入よりも支出のほうが増えていったらしいのよ」
ハナにも詳しい事は知らされていないが、先代国王の治世の時に領土を失う事件か何かが起きたそうだ。今では王族であっても切り詰めた生活をしておりこんなごちそうを食べるのは久し振りだということである。
それでもハナは王女である。王女様ならばどこぞの王族とか大貴族とかと結婚して幸せに暮すものなのではないかと聞いた所、思わぬ返事が帰ってきた。
「それはねぇ、実家の力が強い王女様限定なのよ」
どういう事かといえば、下手な所に嫁いでしまうと力関係の無さを理由に理不尽な要求を突きつけてくる輩も居るということらしい。
実際去年15歳になったハナはお見合いをするために諸国を巡った。その目的はもちろん結婚である。この国の財政を立て直すために大金持ちを引っ掛けるというのが最大の目的であった。しかし近づいて来たのは、この国を食い物にしようとする者や人格的にとても合わない者ばかりだったとのことである。
「ある国ででっぷり太ったバカ貴族に「つまらない国の国民なんざ重税で干上がらせてやる。お前はそのお零れで飼ってやるよ」って言われて頭にきちゃって。その場でバカ貴族をボコボコにしたらパッタリお見合いの招待状が来なくなっちゃったのよ。」
そのことを理由に国に帰って来たのだが、元々確率の低い賭けだと分かっていたので問題にもならなかったのだそうだ。しかしタダ飯を食らわせる余裕は無いために国の仕事を何かやろうと考えていた時に、父親である国王様からギイ商会で働くようにとの辞令が下ったので本日から弟子としてギイ商会に入ることになったらしい。
「いやいや待て待て最後がおかしい。そこでどうしてうちで働くってことになるんだよ。つか何で弟子なんだ。従業員でいいじゃねーか」
「いやアニキ他もツッコミどころ満載ですからね。でもそうですね、最後の説明が唐突過ぎますね」
「それについては私もよく分かんないんだよねぇ。突然呼び出されて、突然紹介されて、突然城から出されたからさ。多分詳しいことはギイ会頭が聞いていると思うわよ。」
「は?城から出された?って放逐されたってこと?」
「「弟子入りするなら寝食を共にせよ」ってお父様に言われてね。いつでも帰ってきていいけど寝起きはこっちでしなさいって言われたの。ごめんあんま聞かないで、私も意味分かんないからさ」
話している3人も聞き耳を立てている回りも同じように困惑している。そりゃあそうだろう、この説明では訳が分からなくて当たり前だ。
そんな微妙な空気の中、ギイとモウが帰って来た。二人共かなり疲れている様子だ。どうやら相当問題のある話をしていたらしい。
「・・・皆楽しめている訳では無いようだな。しかし折角用意した食事が冷めては勿体無い。食べながらでいいから聞いてくれ。・・・ヘイどこまで聞いた?」
「この国が思っていたよりも貧乏だってことと、見合いが失敗したってことと、うちに来た理由は国王陛下のご命令だってことは聞きました」
「ふむ宜しい。では皆そういうことだからこちらの王女殿下であるハナ様を私の3番目の弟子として預かる事になった。商会内にいる限りは王族であろうとも平等に扱うから皆も同じように振る舞うように。ハナ様、城の中でも申しました通り、弟子にするからにはハナと呼び捨てにしますし厳しい言葉も掛けさせていただきます。宜しいですね?」
「もちろんです、お師匠様、。どうかご指導ご鞭撻の程宜しくお願いいたします。皆様方もどうぞ宜しく」
そう言ってハナはギイや周りに対して頭を下げた。これを見て周囲は本当に王女殿下が行商人に弟子入りするのだと実感したのだった。
「いやいや待って下さいよ師匠!さっきハナにも言いましたけどおかしいでしょう王女殿下が行商人の修行って!そもそも何で弟子なんですか!今まで全部断っていたのに」
「詳しいことは私も知らんしハナも聞かされてはいないらしい。だがこれは陛下立っての願いでな、断ることは出来なかったのだ。
弟子にしたことについては私の責任だ。国王陛下に謁見した際にケンを2番目の弟子にしたことを口にしてな、ならばハナも私の弟子として鍛えてくれと頼まれたのだ。どうせ面倒を見るなら手元における弟子の方が良いと判断したのだ」
「えっと師匠、この場合僕が2番弟子で大丈夫なのでしょうか?」
「無論だ、実際ケンの方が商会で暮らした日数も10日間程長いからな。とは言え余り差はないからなしっかりと精進するように。ヘイお前はたった今からこの2人の世話係だ。一番弟子としてしっかりと面倒を見るように」
「マジで!?・・・いやマジっすか、マジっすよね・・・あれぇ?」
一番弟子は突然の事態にひたすら困惑している。
そんな訳でマール国の王女ハナが行商人ギイに弟子入りすることが決定した。
国王陛下は何故自分の娘を行商人に弟子入りさせたのか。
それはこれより後、ケンが国王陛下に謁見した際に明かされることになるのだった。




