第16話 行商人とは何か
ケンの弟子入り記念パーティーがまさかの王女殿下の登場でしっちゃかめっちゃかになった翌日、食堂の隅にギイと3人の弟子が座っていた。
本日から行商人としての本格修行が開始するのである。本来は冒険者ギルドでランク上げのために依頼を受けるつもりであったが外は生憎の雨模様。予定を変更して室内授業となったのである。
「さて、準備は良いかな3人共」
「「はい!宜しくお願いします!」」
「師匠~やっぱ俺も出なくちゃ駄目っすか?」
新弟子2人は元気一杯だが一番弟子にはやる気がない。それはそうだろう、世話をすると行ってもまさかこの様な状況になるとは思ってもいなかったのだ。
しかしやる気を出して貰わねば困る。ギイは商会の会頭でもあるためどうしても付きっ切りでの修行は不可能だ。よって不在時にはその役割を誰かに託さねばならず、それは今現在ヘイしかいないのである。
よって2人の世話係で一番弟子であるヘイも授業に同行し、普段は助手として、ギイの不在時は代わりの教師役として参加する事になったのであった。
「無論だ。お前もいつか人の上に立つ時も来るだろう。少し早いがそのための訓練だと思って励め」
だからギイはヘイのやる気を出すように話しかける。正直3年前に見習いを卒業したばかりの初心者行商人だがそれでもやって貰わねば困るのである。
「そんな風に言われちゃ断れないじゃないっすか。お前らよく覚えとけよ、これも行商人として生きてくための必須テクニックの一つだからな」
そしてヘイも師匠の苦しい胸の内を察するくらいの付き合いはあるつもりだ。番頭を初め優秀なメンバーが国外の支店に散っている以上、この場でギイの補佐が出来るのは自分だけなのだ。ちなみにモウは「会計」であり「行商人では無い」この場合は除外だ。弟子2人は「行商人」見習いなのである。
ただの会話のつもりがいきなりテクニックだと言われて慌てる2人。ヘイがそれを見てニヤリと笑うのを見てギイは最初の授業を開始したのだった。
「では基本的な事から教えていこう。まず行商人とは何かということだ」
「行商人とは何かですか?」
「そう、商人と行商人の違いが分かるかね?」
「えっと商人は町の中で商売をしている人、行商人は町の外で商売をする人でしょうか?」
「あれ?私は町の中で商売している人で行商人と呼ばれている方を見かけたことがあるわよ?」
「分かった!お店があるかないかじゃないですか?」
「でもお師匠様にはこのギイ商会というお店があるじゃない。そうね、珍しい品物を扱っているかどうかとか?」
「僕から見ればこの街で売っている物はどれもこれも珍しい物ばっかりだよ。うーん違いって言われてもなぁ」
ケンとハナはあーでもないこーでもないと議論を交わしている。そしてギイとヘイは黙って見ていた。ただ答えを教えるのではなく、こんな風に議論し思考する癖を付けさせる様に教えるのがギイの育て方だった。
一番弟子としてそういう風に育てられたヘイも心得ているためしばらくは成り行きに任せている。そして落ち着いて来たところで2人は正解を教えられた。
行商人とは「店舗を持たずに商品を顧客が居そうな所に運んで商売ををする者」であること。
ギイ達のように街を出て村を巡って商売している者達はもちろんのこと、たとえ街の中だとしても、特定の店を持たない者達は皆行商人と呼ばれているそうだ。広場に居る靴磨きとか土産物を持って歩き回っている者達も便宜上行商人と呼ばれる。
ちなみに屋台の場合は移動範囲が極めて限られているため行商人の括りには入っていないらしい。
ヘイ曰く、
「客の注文を受けて配達をするって形態だと商人とされるな。買ってくれる人が必ず居るかいないかと覚えとけば間違いない。行商しに行った先の村がモンスターやら疫病やらで全滅してたとか、せっかく行ったけど誰も買ってくれなかったなんてことは行商やってりゃザラにあるからな。」
だそうだ。
ちなみにギイはこの店の他に幾つかの国に支店も持っているが、これは商人と行商人どちらの顔も持っているかららしい。
品物の希少性についてだが、これは大体の人間は生まれ育った町や国から出ることは稀だから行商人からでないと珍しい物は手に入らない。しかし大きな町だと商人でも独自に仕入れルートを持っているため珍品を扱っている商人も存在する。よってこの分野では明確には分けられないそうだ。
わかりやすく所属しているギルドの違いで判別する方法もある。ギイ商会はどちらも入っているが、大抵は商人ギルドか行商人ギルドの片方しか入っていないためそれで判断出来るらしい。
しかし2人にとっては最後の説明が最も納得できる内容であった。
「まぁでも最大の違いだがこれは単純に腕っ節というか戦闘力の差だな。町の外だとモンスターだの盗賊だのが出てくるから基本行商は命がけになる。だからこの世界で町の外へ出ていく本物の行商人になるためには絶対に強くなけりゃいけねぇ。
でもな、逆に言えば町の外の世界を生き抜く力さえあればどこでも行けるのが行商人だ。冒険者との違いはあいつらは冒険ってかお宝目当てだけどな、俺達は商売目当て、要するに「何処かに居る誰かに会いに行く」のが行商人さ」
「お前らもその誰かに会いに行けるようになれよ」と言ってヘイは説明を終えた。
弟弟子達は感動している。ギイは今のセリフが自分の受け売りであることを黙っていてやるのだった。




