73 幼馴染の付き合いは長い
睦人は軽いパニックに陥っていた。
自身が抱える問題だけでも手に負えないのに、同級生に世話を焼いてもらい、幼馴染が突然やって来たと思えば、好きだ、会いたい、と直球的な言葉の大盤振る舞い。
そんな中、弥が真剣な表情で話を切り出した。
「みゃーこさんってさ……篠崎さんのこと好きなの ?」
「……」
―――俺が如奈を
―――すき、スキ、隙、鋤……
―――……好き !?
「ふえっ !?」
「え、何その可愛い声 ?」
突然の質問に睦人は更に真っ赤になり、火を噴いてもおかしくないほどになっていた。
しかし、茶化すような表現をしたものの弥は真剣そのもの。それ以上何かを話すことはせず、睦人の返答を待っている。
「う、ああ、えと」
「……」
「如奈、如奈を、だな」
「うん」
しどろもどろになりながら、睦人は何とか声を絞り出した。
「好き、だ……」
「……うん、ありがとう」
予想していた返答に弥はすんなりと納得を示す。
―――みゃーこさんって好意だだ漏れなくせに、こういうのは恥ずかしいんだ……。
―――そういう点で言うと篠崎さんって、好きって言いきっちゃうあたりは男前だよなあ。
などとまで考えていた。
「あ、大事な話っていうのは以上です」
「……そうか」
「いやさー、みゃーこさんって眼前の問題に捕らわれて大事なこと見失いそうだったからさ。まあ、僕の興味本位も少なからずあったけどねー」
「……」
「大事なこと、でしょう ?」
「……そう、だな」
改めて確認を取られ、睦人は自分の気持ちがストンと自身の中に落ちていった。
理由は分からないし、まだはっきりしないけど、
自分は、如奈が好きだ、と。
「……」
しかし、それで問題は解決しない。
―――如奈が好きだ。
―――会いたい。如奈も会いたいと言っている。
―――でも、今は会いたくない。これ以上悲しませたくもない。
―――どうしたら……。
「まあ、僕は幼馴染がいないからそこら辺の距離感はわからないけど、馬に蹴られるは勘弁ねー」
「っ、別に、俺たちは恋仲じゃない !」
「わかってるってー、幼馴染でしょー ?」
「ああ」
「そう、必死に否定しないでよー。……あ、ごはん全部食べてくれたんだ。良かった良かった、食器さげちゃうねー」
「あ、すまない弥。ごちそうさまでした」
「はい、お粗末様でした」
空になった食器を見て弥は機嫌よくそれらを下げて台所へと持っていく。
「……幼馴染、か」
ポツリ、と睦人は漏らす。
幼馴染で、十年以上の付き合いがある。それは、睦人にとって大切な事実であり、最早アイデンティティーとも化している。
「……ああ」
突然、睦人は重々しく吐き出した。
顔を腕で支えると、その場で項垂れる。
「幼馴染、なんだよな」
溜息とともに吐き出されるそれは、先までと違う響きを含んでいた。
―――我ながら、中々に卑怯なことを考えてしまった。
そして、睦人は目をつぶるとさらに黙考する。
―――自分たちは幼馴染だ。
―――だからこそ、何を言ったらどう返ってくるか、ほぼ確信をもてる。
「……」
しばしその状態で固まっていると、ほどなくして弥が戻って来た。
「みゃーこさん、お茶いるー ? ……って、あれ、みゃーこさん考え中 ?」
「……弥」
「うん、何ー ?」
睦人はあることを決心する。そして目を開くと、弥に強い視線を送った。




