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ドリンクB  作者: マコ(黒豆大福)
プロローグ
65/78

65 吐くと楽になることもある-3


 昼休みの明けた授業中。


 如奈は担任の言葉を心中で反芻し、頭を抱えていた。


―――結局、私はどうするのが良いんだろう。


 自分を責めていたら、そればかりではいけないと言われた。しかし、昨日の事故のことを詳しくは知らないので、ほかの原因などを考えても出てこない。


 仮に出てきたとして、それはおそらく如奈がどうこうできるものではない。


「じゃあ、この問題を……篠崎、どうだ ?」

「……わからない」

「そうだ ! この問題は条件から明確な解はでてこない。よって答える際には……」


 気も漫ろ(そぞろ)に授業に臨み、今後の身の振り方を考える。


 ちらと窓際に視線を送るが、そこには変わらずに二つの空席がありぽっかりと空間が広がっていた。


「……」


 朝からずっと気にかけているが、肝心の相手はその場にいない。


 そのことが、如奈に寂寥感を生んだ。


―――睦人に、会いたいな。


「……あ」

「ん ? おお、その通りだ篠崎 ! この問題は(ア)が正解だ !!」


 問題の正解ではなく、如奈は自分の心中にふと正解を見つけた気がした。


―――睦人に会いたい。

―――会って、謝りたい。


 きっかけを得て、如奈の思考は徐々に滑らかに回りだした。


―――それに、訊きたいこともたくさんある。

―――何よりも、無事なのかを自分の目で確かめたい。


「そっか……」

「わかってくれたか ! 今日の篠崎は集中力が違うな !!」


 確かに普段よりも集中していないのだが、それを教員が知る由もない。


 如奈は、自分がするべきことが見えてきた。


 睦人に会いたい。


 ならば、会いに行けばいい。


「……」


 変に一人で抱え込んでいたせいで引け目を感じていたが、如奈のするべきこと、やりたいことは一つだった。


 放課後に、睦人に会いに行けばいい。


「……でも」


 しかし、心が決まるとともに一つ問題も浮かび上がった。


 それに気が付くと同時に、授業の終了を告げる鐘がなる。


「如奈ちゃん」

「……小野寺ちゃん ?」

「大丈夫ですが ? 今朝から上の空ですが、休み時間あけてからは悩んでるみたいで…… ?」


 授業が終わると同時に、小野寺が如奈の席へとやって来た。


 今朝から様子のおかしい如奈を心配し、抱えている鳥のぬいぐるみと共に首を捻る。


「小野寺ちゃん、えっと、訊きたいことがあるんだけどね」

「はい、何ですか ?」

「えっと、小野寺ちゃんって、桐生君と連絡とれる ?」

「桐生君、ですか……」


 如奈は、桐生に預けた後のことを知らない。


―――桐生君にお礼を言うことも失念していたなんて……。

―――それに、今睦人がお(うち)なのか病院なのか、桐生君に訊かないと。


 睦人に会うにも、昨日の礼を言うにも弥に連絡を取らなければならない。しかし、如奈は桐生の連絡先を知らなかった。

 

 睦人は今自宅でも病院でもなく弥の家にいるのだが、それを如奈が知る由もない。


「私は知らないのですが、そうですね……如奈ちゃん、ちょっといいですか ?」


 そう言って、小野寺は如奈を連れて教室内を移動する。


 その先では、中寺と山寺が腕相撲に取り組んでいた。


「山寺君、今大丈夫ですか ?」

「小野寺…… ! 今、山寺は俺と……真剣勝負を !!」

「ああ、いいぞ。どうした ?」


 ゴン、という強めの衝撃音と共に山寺は快く承諾する。


 なお、衝撃音は中寺の敗北を告げる音であった。


「如奈ちゃんが桐生君に連絡を取りたいそうです。山寺君なら連絡先を知ってるかな、と」

「あー、個人的な連絡先は知らねえな。……家の場所なら知ってるんだが」

「え ? えっと、山寺君、桐生君のお(うち)の場所知ってるの ?」

「ああ。俺たちと桐生、中学が一緒だったんだ。俺と桐生は中二でクラスが同じで、休みがちなあいつにプリントとか届けてたんだよ」

「そうだったの……」


 意外な過去の繋がりに如奈は驚く。普段話している様子などを見なかったので、家を知るような間柄だとは思ってもみなかった。


「でも、こう言っちゃなんだが、桐生の連絡先知ってそうなやつっているか ?」

「……えっと」

「……いなさそうですね」


 弥の普段の様子は、睦人と軽く雑談する以外は基本的に携帯電話を触るか考え事をしているか、の二択である。


 個人的に連絡を取っているクラスメートや外のクラスの人間など、誰も心当たりはなかった。


「急ぎなら家の場所を教えるが、それで大丈夫か ?」

「ええと……」

「ちょっと待て山寺 !!」


 手の痛みに悶えていた中寺が、片手をさすりながら話に入って来た。


「どうした中寺 ?」

「中寺君。手、大丈夫ですか ?」

「こ、こんなの全然痛くねえ !! ……じゃなくて、山寺 !! お前、本人の許可なく家の場所を教えるのはどうかと思うぞ !?」


 中寺は、本人不在の際に住所が流出することを問題視していた。

 そのために、痛みを堪えつつ、わざわざ話に割ってきたのだった。


「確かにそうだが、篠崎だって悪用するんじゃないだろ」

「えっと、でも中寺君の言うことも正しいし……」

「中寺君」


 小野寺が中寺を呼ぶ。


 中寺だけでなく山寺と如奈もそちらを向くと、小野寺はぬいぐるみをギュッと抱き締め、話し始めた。


「中寺君、確かに中寺君の言い分は正しいです。でもですね……」

「でも ?」


 小野寺は目を見開き、強い口調で続ける。


「仲間が困っているなら、可能な限り助力するべきでは !?」

「な…… !?」


 小野寺の言葉に、中寺は大きな衝撃を受ける。

 さらに、小野寺は勢いそのままに畳みかけた。


「正論結構、でも今回は急ぎの要件です ! 如奈ちゃんが悪用しないことは中寺君も承知でしょう ? これで取り返しのつかない事態が回避できるかもしれないんですよ !?」

「それは……でも」

「臨機応変に仲間の危機に手を差し伸べる……それが真の『漢』ではありませんか !?」

「そ、それは……!!」


 そんな二人のやり取りを、残された如奈と山寺が傍観していた。


「小野寺ちゃん、格好いい……!!」

「いや、あれは勢いで押し切ってるだけだろ」


 はあ、と一つ溜息をつくと山寺はルーズリーフを一枚取り出した。


「篠崎、簡単な地図描くからそれでいいか ?」

「え、えっとでも……いいのかな」

「まあ中寺は正しいが、急ぎの要件なんだろう ? 桐生もわからないやつじゃないだろうしな。……それに、中寺は小野寺に甘いからどうにかなるだろ」

「そうなの……ありがとう、山寺君」


 そして、程なくして地図が描きあがる。


 受け取る頃には中寺も説き伏せられた、というか押し切られたらしく如奈は二人にも礼を述べた。


「ありがとう、小野寺ちゃん。中寺君も」

「いえ、桐生君によろしくお伝えください」

「まあ、今回は仕方ねえな !!」


 再度礼を述べ、如奈は自身の席に戻る。


「えっと、ここがあの道だから……えと、(うち)とは反対方向に行けば……」


 地図を確認すると、簡潔ながらに特徴的な道や建物がしっかりと描かれており弥の家へとたどり着けそうである。


 そこで、ふとある疑問が沸き、如奈はそれを呟いた。


「そういえば……」


 小さな声は誰にも届かず、それでもしっかりと言葉になって表された。


「……中寺君の目指す『漢』って、何なんだろう ?」


 奇しくも、先日に幼馴染が抱いていたのと同じ疑問であった。


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