35 長年の習慣はなかなか抜けない-3
褒められるのが嬉しいから、というのは謂わば『自分のため』ということである。他者のために頑張る、という意見とは正反対のものであった。
それはつまり、キリアがハンターとして活動する理由と全くの対極に位置する。しかしながら、そのような距離感や隔たりを思うよりもまず、キリアの胸中には別のことが浮かんだのだった。
「……何か、うまく言えねえけどさ」
キリアは、そう前置きをして浮かんだ思いを口にした。
「そいつって、お前にとって大切なやつなんだな」
如奈は一瞬きょとんとしたが、すぐに言われる意味を理解し柔らかく相好を崩した。
「はい、大切な幼馴染です」
迷いなく告げられた言葉に、キリアも誘われるように笑みがこみあげた。
(あんなに綺麗な表情されるんだから、そりゃそうだよな)
キリアは何よりも、如奈の笑みに込められた純粋な好意に心を打たれていた。
自身に向けられたものではないにしろ、虚や飾りのない素直な気持ちは胸に響くものがある。キリアは考えるよりも先に、届いた思いの強さに無意識に感動してしまったのである。
(そいつって、どんなやつなんだろ……?)
真面目で素直な如奈に好かれるのだから、きっとその幼馴染も良いやつなんだろう。真実を知らないキリアの脳裏には、そんな自然な推測がほぼ確信としてよぎっていた。
暖かな思いを抱き、キリアはそれ以上話を広げることはせずに話を打ち切った。
「よし、じゃあ休憩もできたし、そろそろ帰るか。話してくれてありがとうな!」
「えっと、私も、聴いていただけて何だかスッとしました。師匠、今日もお疲れ様でした」
「ああ、えっと、お疲れ様?」
解散の挨拶をし、二人は帰ろうと公園の入り口に向かう。足取りは運動の後だというのに、どこか軽いものだった。
するとキリアが途中、ふと思い出したように口を開いた。
「あ……なあ、ちょっと訊きたいんだけどさ」
「はい、何ですか?」
立ち止まり、如奈は言葉の先を問うた。
「『あいびき』って、どういう意味なんだ?」
それは、ここに来る前に出会った少年が使っていた言葉であった。その場では問えなかったものの、日本語を学んでいるキリアは意味が気になって、胸に引っ掛かりを覚えていたのである。
問われた如奈は、特に迷うことなくすぐに答えを述べた。
「えっと、お肉のことですよ。牛肉や豚肉を混ぜたお肉のことです」
「肉……」
キリアは、今日一番の困惑した表情を浮かべたのだった。




