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ドリンクB  作者: マコ(黒豆大福)
プロローグ
30/78

30 良い出会いは突然やってくる

 髪が白くて、瞳が赤い。

 人の多い町中、増してや来て日が浅い状況で、それだけの情報で人を探すのは明らかに困難である。


 キリアは、ここ数日間をその作業に費やしている。体力や時間、それ以上に精神力を削られることを大した手掛かりを得られないままに続けていた。


「まあまあ、こんなに親切にしてもらって……ありがとうねえ……」

「気にすんなよ、ばあちゃん!俺、足の速さは自信あるから、役立てて寧ろ嬉しいぜ!!」


 白髪の女性にお礼を言われ、キリアは気さくに返した。

 ビルの屋上から人を探していたキリアは、上から見えた白髪を頼りにその女性のもとに向かったが、近くで見ると瞳は暗色で赤とは程遠い色をしていた。


 しかし、女性が横断歩道の前で右往左往していたので事情を訊いたのちに、その横断を手伝った次第であった。


「最近の車は大きくてねえ……私みたいに小さいと気づかれないのよ……」

「へえ、大変だなあ」


 腰の曲がった女性は背丈が小さく、車に気が付かれないために信号のない横断歩道では轢かれてしまうおそれがあった。そこでキリアが女性をおぶって、車が来ないわずかな間に渡り切ったのである。


「じゃあな、ばあちゃん。気を付けて帰れよー!」

「ええ……本当にありがとうねえ……」


 ぺこり、と女性は再びお辞儀をすると、のんびりとした歩みで家まで帰っていった。

 その背を見送ると、キリアは満足したような笑みを浮かべ自身の仕事に戻る。


「やっぱり、人の役に立てるのは嬉しいよなー!」


 明るく、のんきともとれる口調でキリアはそう宣った。

 キリアが困っているお年寄りを助けるのはこれで12人目であり、本人も満更ではない気持ちになっていた。


「……よっと!」


 人気のない路地裏で、掛け声とともにキリアの体は地上から離れる。そして壁や外面のパイプなどに手足をかけて登っていき、あっという間にビルの屋上に着地した。


「いやー、でも、また違ったかー……」


 頭を掻きながら、キリアは独りごちる。

 助けたお年寄り以外にも、キリアがこれはと思った人物は何人もいる。それらは全て違っていたのだが、それでもキリアには髪の色と瞳の色しか手掛かりがない。そのため、ぱっとみてすぐわかる髪の色を頼りに一人ひとり確認するしかない。


「俺にもっと視力があればなー、目の色も見えるのかなー」


 ビルの屋上から瞳の色が確認できるなら、地上の人がみんな上を向いているのか観察者に透視能力があるかのどちらかだが、キリアに教える人物はいない。


「まあ、俺にできることをやるしかねえか!」


 そう開き直ると、キリアは地上に視線を向ける。遠くまで視線を送るが、気になる人物が見つからず暫くあちこちを見渡す。


「……いねえな」


 ふう、と一息ついてキリアは数回瞬きをする。遠くをずっと眺めていたために目の筋肉に負担がかかっていた。

 近くを見ようと、キリアはふと眼下の路地裏を見やる。


「……ん?」


 そこには気になる光景があり、キリアは身を乗り出して目を凝らした。


 複数の人物がその場にいるのだが、人物の距離が近くよく見ると独りを囲むような形になっている。そして、その中心人物の髪の色がキリアの目に留まった。


「髪、白いな……!」


 やっとみつけた、と言わんばかりにキリアは目を輝かせ、ひらりと屋上から飛び降りる。


 すたっ、と地上に降り立つとその場にいた複数の人物全員がキリアのほうを向いた。


「な、なんだお前⁉」

「あー……違ったかー……」


 ひるむ相手の問いかけには答えず、キリアは白髪の人物の瞳の色を確かめる。その色は赤とは異なる色をしており、はあ、と残念そうに脱力した。


 しかしよく見ると、その白髪の、高齢の男性の瞳には恐怖が浮かんでいるのがわかった。どうやら、お年寄りが複数の男たちに囲まれて脅されている現場に出くわしたようだった


「いや、だからなんだお前⁉ていうか、上から降ってくるって本当に人かよ⁉」

「俺は人間だ!お前らこそ、何やってんだ⁉」

「何って……」

「一人を囲んで、悪いことやってんだろ⁉そこのじいちゃん、怖がってんじゃねえか!!」


 質問に質問を返す形で、キリアは問うてきた若い男に負けじと声をあげる。

 思わぬ方向から登場した、黒のロングコートに染めたわけではない日本人離れした金髪を持った人物に、男たちはひるむ。どうする、と目配せしあうと一つ頷いて、一斉にキリアのほうを向いた。


「……やっちまえ!!」


 一人が掛け声をあげると、男たちがキリアへわっ、と向かっていった。


「え、えと……あー、そういう……」


 何事か、とキリアは一瞬困惑し顔を顰める。しかし、すぐに向けられる敵意を理解し、嘆息を漏らした。

 そして、真剣な表情を浮かべ向かってくる男たちを睨み付る。


「仕方ねえか」


 呟くとともに、キリアは男たちの視界から消えた。


「は……?」


 目の前のできごとが理解できず、僅かに男たちが動きを止める。しかし、次の瞬間には数人がその場に倒れていた。


「ぅわっ!!」

「わっ、何……⁉」

「お前、押すな……!」


 キリアは姿勢を低くすると、一気に距離を詰めて数人の足を引っかけていった。

 集団で固まっていた男たちは、一人がこけるとそれが別の人物の動きを阻害し、一気に体勢を崩される。


「よっと」


 倒れてくる男たちをよけ、キリアは勢いよく体を起こす。そして、その流れを保ったまま、パンッ、と眼前の人物に猫だましをした。突然の大きな音に男がひるむと、その隙に足をかけてまた男を転がす。

 総崩れになった男たちに、こんなもんか、とキリアが油断すると、その隙に一人が起き上がってキリアへと向かっていった。


「ふざけんじゃ、ねえー!!」


 そう言って、キリアの腹をめがけて渾身の力でローキックを繰り出した。しまった、とキリアが焦るが男を止めるにも、またよけるにも既に遅すぎた。


「お前、やめ……!」


 制止の言葉も届かず、男の蹴りがキリアの腹に当たる。ガンッ、という鈍い音があたりに響き、蹴りが綺麗に入ったことを告げていた。


「痛ってー!!」


 しかし、痛みに叫ぶのは蹴った男の方であった。


「あちゃー……」


 キリアは間に合わなかったことを嘆きながら、男の足を払って尻をつかせる。そして、溜息をつきながら今度こそ全員が動かなくなったのを確認し、今自分を蹴った男の方を向いた。


「俺、腹に鉄板仕込んでんだよ……」


 説明しながら、ほら、とキリアは服をめくる。そこには傷一つない鉄板が入っており、男はそこに蹴りを叩き込んだのであった。


 僅かな時間で全員が尻餅をつかされ、男たちは敗北を悟った。今は転ばされるだけで済んだが、まともに喧嘩をしたら勝ち目がない、どころか返り討ちにあうことまでが容易に予想できる。


「わ、わかった!俺たちが悪かった!!」

「え、本当か?」

「本当だ、反省してる!!だから、もうやめてくれ!!」


 悲痛ともとれる叫びをあげて、男たちはキリアに懇願した。

 キリアも、少し考える素振りをするもののすぐにその訴えを聞き入れ、一応男たちに念を入れた。


「もうするなよー」

「はい!すみませんでした!!」


 男たちの潔い謝罪に、キリアも満足そうに頷く。


「じいちゃん、大丈夫か……って、あれ?」


 振り返り老人の無事を確認するが、そこに人影はなかった。あたりを見回しその姿を探すも、老人は見つからない。


「逃げたか。いい判断力してるなー」


 呑気につぶやきながらもそれ以上は特に気にせず、キリアはすぐに探すのをやめた。


「あ、そうだ……」


 そして、何かに思いついたように再び男たちに向き合った。


「なあ、ちょっと訊きてえんだけどさ」

「はい!何でしょうか!!」


 急に敬語になった男たちに、特に構わずにキリアは続ける。


「このあたりでさ、髪が白くて、目が赤いやつって知らないか?」


 キリアの問いかけに、男たちは考えるように顔を顰めて互いに向き合う。すると、一人の男がはいっ!と勢いよく手を挙げた。


「俺、一昨日見ました!髪が白くて、目が赤いやつ!!」

「え、本当か⁉どこで?どんなやつ?」


 思わぬ情報に、キリアは表情を明るくし質問を次々とぶつける。

 男は思い出すように首を捻ると、キリアの問いに答え始めた。


「えっと、見かけたのはあっちの……住宅街の近くッス!そいつバイクに乗ってて、フルフェイスのメット被ってたんッスけど、自販機の前ではずしたんスよ!そしたら、髪が白くて、珍しいから見てたらこっち見てきて、目が赤いからまたびっくりしたッス!!」


 男は興奮を滲ませながら説明し、キリアは真剣にその内容を真剣に聞き入る。


「そいつって、男?女?」


キリアの質問に、男は表情をわずかに歪め、歯切れ悪く答えた。


「えっと、正直微妙なところだったんス……」

「微妙?」


おうむ返しに首を捻るキリアに、男は首肯し言葉を続ける。


「最初は、線の細い男かと思ったんスけど……よく見るとそいつ、真っ赤なハイヒール履いてて。もしかしたら女かもしれないんス」

「真っ赤な、ハイヒール……」


 ふむ、とキリアは今の情報を整理する。

外見についての疑問は残るものの、どうやら、自分の知っている特徴の人物が近くにいることは間違いなかった。


「ありがとうな、すげえ助かった!」

「あざーッス!!」


 キリアが礼を言うと、何故か男も礼を返した。日本語に多少の不便を抱えるキリアはそれがありがとうを示すスラングだとはわからなかったが、悪い意味ではない、ということはわかった。


「じゃあ、俺はもう行くから。お前たちも変なことするなよ」

「はい!!」

「それじゃあなー!」


 一部の者からは変質者と認識されているキリアに注意され、男たちは大きな声で返事をした。

 思わぬところで大きな収穫があった、とキリアは胸を躍らせ、足取りも軽く町へと走り去ってい


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