19 リサイクルも時には必要
「はい、じゃあ皆さん。ゴミの分別は渡してある表に沿ってお願いします。ゴミ袋がいっぱいになったら新しいものがこちらにありますからね。危険物などを発見したら、手を触れずにこちらまで伝えてください」
薄桃色の地に深紅のハートがこれでもかと舞っているネクタイを身に着け、担任は連絡事項を伝える。いつもの教室とは違い外であるために、生徒全員に伝わるように念を入れた説明を繰り返すが、一部の生徒は飽きていた。
「それでは、時間までよろしくお願いします。雑談ばかりしてはだめですよ?」
そう担任が話を締めると、生徒たちが自然と散らばり各自がゴミ拾いを始めた。
「では、時間になったらゴミ袋を既定の場所まで運んでもらいますが、それまではみんなと一緒にゴミ拾いをおねがいします」
「はい」
ゴミ集めの役割をあらかじめ言われていた睦人たちも、返事をすると生徒に混ざってゴミ拾いを始めた。
睦人たちは、地域奉仕の一環であるゴミ拾いに学校近くの公園へ来ていた。名目上は公園であるが、遊具などはなく、広い芝生と季節の木々、休憩のベンチにランニングコースと市民の憩いの場として作られた広場のような場所である。
「睦人、今日は帽子もかぶるの?」
「ああ、天気がいいからな。如奈も熱中症とか気をつけろよ?」
「ええ、わかったわ」
多くの生徒の格好は上下の学校指定のジャージに軍手であるが、睦人は加えて体育帽も着用していた。日差しが強い中での作業のため、睦人は帽子などの遮るものがなくては途中から眠たくなってしまう。
気休め程度だが、ないよりはマシだった。
「じゃあ、僕はあっちのほう行くねー」
「私はこっちで拾うわね」
「ああ。じゃあ、またあとで」
三人は各々が散らばってゴミ拾いをはじめる。
睦人は芝生に落ちているゴミを拾いながら、木々が多く日陰の面積が大きい場所へと移動してきた。
(集合場所から遠いからか、人が少ないな……)
芝生やランニングコースと違って、木が生い茂る場所は元々の利用者が少ない。しかし、その分ゴミ箱から距離があったり、人に隠れて規則違反を犯す不届き者が溜まったりと、遠目から見て綺麗だが意外とゴミが落ちていたりする。
睦人も、まとまって落ちている飲料の瓶や、木の陰に隠すように置かれたゴミの入った袋などを拾いながらそのことを実感した。
「公共の場をなんだと思っているんだ……これなんて明らかに家庭ゴミだろ……」
一人暮らしの影響か独り言の多くなっている睦人は、ぶつぶつ文句を言いながらも目に付くゴミを全て拾い、分別は後にしてとりあえず公園を綺麗にすることに専念する。
「百歩譲って空き缶はわかるが、これ空いてないぞ……ん?」
睦人が未開封のコーヒー缶を拾ったとき、遠くの木の下で人が二人、蹲っているのが目に入った。
睦人のものと同じデザインのジャージを着用しており、一人は小柄ではねた金髪を、もう一人は体が大きく角刈りの黒髪をしていた。
「……中寺に、山寺?」
特徴的な外見から睦人は二人が誰であるかを特定するが、その二人は睦人には気が付かない。睦人に対しては背を向けて、何かをのぞき込むようにしてその場に留まっていた。
(何をしているんだ?)
普段から比較的騒がしく、また見た目に反して真面目な二人が隠れるように何かをしているなんて珍しい。
一考するが、静かにこの場を離れても覗き見をしたようで後味が悪い。という建前の下、わずかな好奇心から睦人は二人に近づいた。
「何をしているんだ?」
「ぅわっ⁉」
睦人の声に中寺は大げさなほど肩を跳ねさせ、バンッと派手な音をたてて持っていた、おそらく雑誌のようなものを閉じた。山寺も、中寺ほどではないが、驚いたのか弾かれたように睦人へ首を向ける。
「み、宮古⁉いやこれは違ってだな!!何と違うっていうか、その、えっとだな!!」
「あ、ああ。とりあえず落ち着け……」
睦人を視認すると、中寺はうろたえたように頬を紅色に染め、手を眼前で左右に振りつつ意味の分からない言葉を発する。睦人も中寺の予想外の反応にたじろぐが、視線は中寺から、落とされた雑誌へと移る。
「何だ、これ?」
睦人が雑誌を拾うと、中寺は発火しそうなほど顔を耳まで真っ赤にし、山寺は諦めたように頬をかき苦笑を浮かべた。
睦人は不思議そうに表紙を確認すると、衝撃とともに思わず眉をひそめた。
「これは……」
雑誌の表紙には豊満な肢体の女性が写っていた。
派手な色の水着を纏ってはいるが布面積が小さく、明らかに露出を目的としている。おそらく中もそのような写真が載っているのだろう。雑誌自体はところどころ汚れてはいるが、破損は少なく、十分に役目を果たせる状態だった。
「えーと、あの……」
最早、何とも弁解のしようがない状況で、
「小野寺には黙っててくれないか……」
中寺は弱々しくそう呟いた。
「……まあ、別に言ったりしないが」
手中の雑誌を、真っ赤になって俯く中寺ではなく、すでに開き直り気味の山寺に渡す。
「宮古……何か、悪かったな。こんなもん見せて」
「いや、別に大丈夫だ……ちょっと意外だったが」
上手いフォローが思いつかず、睦人はとりあえずそう返した。
「見つけたらちょっと興味が湧いちまってな。初めは普通にゴミ拾ってたんだ……まあ、言い訳だが」
「はあ」
別に睦人はこのことで二人をからかおうとは思わないし、山寺も睦人がそういう性格ではないとわかっている。しかし、そうは言ってもも弁解したくなってしまうものである。
山寺は、申し訳ない、と恥ずかしさよりもゴミ拾いをさぼっていたことを強調して謝った。
中寺も、やっと恥ずかしさがおさまったのか、すでに頬は桜色程度まで色が引いていた。
「変なところ見せて悪い、宮古……俺も『漢』にはまだまだ遠いな」
「……そうか」
中寺の言う『漢』がどういうものなのかわからないが、睦人は無難に返しておいた。
「まあ、俺も覗き見るようなことしてすまなかった。とりあえず、ゴミ拾いをしなければ」
そう言って、睦人はゴミ拾いに戻る。雑誌以外のゴミは中寺と山寺が先に拾ったらしいが、分別の関係か缶が残されていた。
「この缶も中身が残っている……もったいない」
「なあ、宮古……」
「ん?何だ」
すでに目の前のゴミに専念している睦人に、中寺はやや遠慮がちに声をかける。
「宮古は、その……ああいうの、興味ないのか?」
ああいうの、と言うとき中寺は視線が動き、微かに頬が色づいた。それが何をさすかを睦人もすぐわかり、質問の意味を正しく理解する。
「まあ、進んで見ようとは思わないな……」
睦人は今まで考えたこともなかったので、缶を片手に思ったことを素直に返した。
その答えに中寺はなぜか瞳を輝かせ、睦人に尊敬するような視線を送る。
一方で、そばにいる山寺はふむ、と思案するとゴミ拾いに戻ろうとする睦人に声をかけ確認をとった。
「宮古、最後にこれだけいいか?」
「別に、構わないが」
意識の半分は手中の未開封のコーヒー缶をどう処理するか、ということに向いていたが、睦人は山寺の話を聴く。
「……篠崎だったら?」
バキャッという音とともに睦人の手はコーヒーで汚れ、顔は発火しそうなほど赤くなったのだった。




