13 疲れていると変な夢を見る
夢の世界で、睦人は再びあの夏の夢を見ていた。
(ああ、またか)
頭の隅には、どこか冷めた考えの自分がいる。それなのに、心臓が強く脈打ち、高揚感を覚える体の反応が心で制御できない。
迫る自動車、動かない幼馴染、動けない自分。意思とは関係なく見せつけられる光景に睦人は胸を痛めた。
(嫌だ……)
空気を震わせる自動車の轟音が響く。過去の幼馴染は立ち尽くすだけ。予測できる展開に呼吸が苦しくなる。
(嫌だ、こんなのは嫌だ……)
抉り弾かれる幼馴染、去っていく自動車。何も変わらない、いつもの流れに目をそらしたくなる。
見たくなどないのに、横たわる肢体から赤い澱みが溢れる。煌めく深紅の濁流に意識が囚われる。
真っ赤な血が、大好きな幼馴染の命が失われつつあるのに、睦人は足元の鈍い流れに目を奪われてしまう。
(嫌なのに、何で……)
じわじわと自身に染み入ろうとする赤に魅了され、溺れるように、睦人の意識は手放されようとされた。
(―――)
最後に何を思ったのかは、睦人自身もよくわからなかった。
「っ……!!」
がばっ、と布団から跳ね起きて、睦人は荒くなっている呼吸を落ち着かせる。手を胸元にあてるとドクドクという鼓動が伝わり、体温が上がっていた。
「夢……だよな?」
視線を巡らせ、ここが自室であることを確認する。ほっとする一方で、自身が見る夢とそれに対する反応に理解が追い付かない。
「疲れているのだろうか……」
昨日の晩は、いきなり変質者に絡まれ、そのまま警察に行き、遅い時間に帰ってくると終わっていない課題を片付けた。いくら昨日は校庭で寝たとはいえ、連日の寝不足から睡眠時間は足りなかった。
睦人は自分でも正直腑に落ちないが、そう思うことで自身の反応を納得することにした。
呆けている睦人をよそに、時間は等しく流れていく。ピピピピッ!という不意の電子音に、睦人はビクッと驚き、先日新調した目覚まし時計だと気が付く。
アラームを止めると、睦人は起き上がり、部屋のカーテンを開けた。
「雨、か……」
雨粒が窓をたたき、ざあざあと音をたてている。
しかし、朝の時間がない中で外をまじまじと眺めているわけにもいかないので、睦人は窓からすぐに離れた。
「喉かわいたな」
そう呟くと、睦人は学校に行くための準備をはじめた。
「宮古!今日こそ俺と……‼」
ぐしゃっ、という音とともに中寺の言葉が切られる。
中寺と睦人、そしてクラスの数人の視線が音のした方に向く。そこでは、睦人がスライドさせて開けた戸が壁とぶつかり、壁にひびが入りパラパラと少し崩れていた。
「……勝負しろ」
「……断る」
とりあえず二人とも最後まで言い切ったが、意識は最早それどころではなかった。中寺はともかく、普通に戸を開けたつもりの睦人も驚いて瞬きを繰り返すだけだった。
「おい、ふたりとも怪我してないか?」
「宮古君、おはようございます。危ないですから、とりあえずそこから離れましょう?」
山寺と小野寺が今日は早々に来て、二人の安否を確認する。
睦人はとりあえず教室に入るが、ひびの入った壁や、大きな音に駆け付けた野次馬の生徒を見て自身のするべきことを考えようとする。
「いや、俺はこのことを先生に言いに行かなくては……」
「でも、今って先生たち会議中だろ?行っても職員室入れないんじゃないか?」
「ああ、そうか……」
落ち着いて対応しようとするが睦人の返事はどこか呆けており、自分でもやったことが信じられない様子だった。
生徒たちも、喧嘩か、先生は、と騒ぐが、そばに睦人や中寺が立っていることから自分勝手に状況を解釈し、それ以上のアクションを起こすものはいなかった。
「と、とりあえず、宮古も今日は本調子じゃないみたいだからな!!今日は見逃してやる!!」
いつも相手にされていないだろう、という突っ込みを周囲は飲み込んだ。




