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恋はかげろうの中に  作者: ルイ シノダ
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第二章 あなたは (2)

ジュンは、新しいプロジェクトのミーティングが遅れ、急いで奈緒との待ち合わせ場所に行きます。遅れたお詫びに奈緒の食べたいものをごちそうしますが、その帰りにジュンは、自分の思いを奈緒に告げます。そしてそれは予定外の方向に進んでいきますが。

(2)


 ジュンは、TUTAYAを奈緒と一緒に出るとそのまま道玄坂に向かった。映画館の地下にリニューアルした寿司屋がある。以前、仕事関係で入って、店員の対応の良さを気に入っていた。

 奈緒は、ジュンどこに連れて行ってくれるのかな。と思いながら、渋谷駅前の交差点を渡った。結構な人通りがある。奈緒は、ジュンと逸れない様に必死にジュンの左手を握りながら人を避けて歩いた。

 たまにジュンが、自分の方を振り向いて、大丈夫かと気にしてくれているのが嬉しかった。やっと交差点を渡りきると今度は、映画館方向に行くので

「ジュン、こっちの方に知っているお店あるの」

少し心配そうな声で聞くと

「うん、前に仕事で利用したお寿司屋が有って、店員の感じがよかったから、そこにしようと思って」

「嬉しい」

奈緒は、少しだけジュンの方に寄り添うと、前から歩いて来た男が、羨ましそうにジュンの顔見ていた。

映画館の手前のエスカレータを降りて、左にUターンするように曲がって右手の階段を降りると、中華や和食の店が並んでいた。

まだ、結構人が多いなと思いながら、階段を降りて正面にある寿司屋の入口に立つと結構な人が食事をしていた。

これならいいやと思っていると

「何人様ですか」

女性の仲居が、聞いて来たのでジュンは、右手の人差指と中指を立てて人数を伝えると、仲居がにこっと微笑みながら

「こちらへ」

と言った。カウンタの中に入っている板前たちが、

「いらっしゃーい」

と元気な声で迎えてくれている。カウンタに案内された二人は、仲居が引いた椅子に奈緒を座らせるとジュンは自分で隣の椅子を引いて座った。、

 すぐに後ろから、おしぼりとお茶を持った別の仲居が、二人の前にそれを置いて行く。

奈緒は、店の中を、首を右に左に振りながら見ると最後にジュンを見て

「へーっ、素敵ね」

と言って、にこっとした。

二人がおしぼりで手を拭いていると、板前が、カウンタの一段上の台の所に長めの皿を置き、ガリを皿の隅に置くと、いつでも注文どうぞ、という顔をした。

後ろから、間合いを見たのか、女性の仲居が

「飲み物何にしますか」

と聞いて来たので

「奈緒、何がいい。僕は取りあえずビール」

「うん、同じのでいいよ」

更に銘柄を聞いて来たので好みを伝えるとすぐに持ってきた。奈緒が、ビール瓶を持って

ジュンに差し出したので、ジュンもグラスを少し傾けて出すとゆっくり注いだ。

 前は、注ぎ方も分からず泡だらけにしていたが、さすがになれたらしい。グラスを縦にしたところで口元まで来ると、今度はジュンが、奈緒が手に持つグラスに注いであげた。

 二人で、軽くグラスを掲げると、にこっと笑って口元にグラスを持って行った。

「奈緒、何食べる」

壁にかかっているプレートとメニューを見ながら少し躊躇していると

「じゃあ、握りの上を頼んで、足らなかったら他の物オーダーしよう」

そう言うと

「うん、それでいい」

奈緒は、育ちもあるのだろうが、寿司屋に入ってマグロだ、いくらだ、ウニだ、などと言う、はしたないオーダーはしない。

 連れていくお店は、結構値が張るところが多い。これも育ちのせいだろう。最初の握りを板前が、目の前にある長い皿に置くと、奈緒は、ジュンと自分の前に醤油皿を出して、二つに醤油を注ぐと、割り箸を割って握りを食べた。

ジュンの方を向いてにこっとすると

「美味しい」

「良かった」

ジュンも笑顔になりながら口に握りを運んだ。


結局、奈緒は、量は十分だったが、ジュンが少し足らずに追加オーダーをした。その間にビールが中瓶だったせいか、それを二本開けると更に日本酒を追加した。いつの間にか、少しアルコールが入った頭で、夕方の仕事の事を思い出していると

「どうしたのジュン、急に静になった」

奈緒の方に顔を向けると

「うん、実は・・」

と言って、他の人には聞こえないように小さな声で、新しいプロジェクトの概要だけを離した。

「そうなんだ。ジュンが、海外に行くと会えない時間が長くなるな」

寂しそうな声をしながら言う奈緒に

「でも、行く前と後で、いっぱい会うから」

そう言って奈緒の顔を見ると嬉しそうな顔になって

「本当」

「うん、本当」

そう言うとジュンの顔をじっと見た。

ジュンは、奈緒の何かを期待しているような顔を見ながら、君は、まさかあの事を想像しているの。と自分勝手な想像をすると、ジュンは話題を変えた。その間にもジュンは、日本酒を飲んだ。

 奈緒は、さすがに日本酒は、まだ苦手らしく、ビールが終わるとお茶に変えていた。ジュンは、日本酒を二合開けて、さすがにお腹が満たされると腕時計を見た。

「もう九時半だ。そろそろ出ようか」

奈緒は、帰ろうとは言わず、出ようかと言ったジュンの言葉に、一瞬だけ、どきっとすると

「うん」

と笑顔で答えた。


 階段を上がり、エスカレータを上がると道玄坂に出た。まだ、映画館の前は、縁石に座っている人や誰かと待ち合わせしているのか、人待ち顔の人、駅に向かう人などでいっぱいだった。

 まだ、いるんだなあ、こんな時間でも。と思いつつ、二人で手を握りながら右に曲がり駅方向に歩き始めた。すぐ目の前の信号が赤で道玄坂を渡る方向に青になっている。

奈緒を見ると、少し酔っているのか、ほんのりと顔がピンク色になっている。ジュンは、何の気もなしに奈緒の手を引いた。

奈緒は、えっと思いながら、ジュンの顔を見ると、ジュンの目は、まっすぐ信号の反対側を見ていた。コーヒーでも飲むのかな。でもこの状況でそれはないか、少しの期待と、でもジュンから誘うこともないと考えながら信号を渡りき来ると

「奈緒、今日いい」

意味はすぐに分かった。左に少し歩いて右に曲がればそちら方面だ。ジュンの顔を見ずに下を向きながら、頭で頷くと彼の左手をしっかりと握った。

 シンガポールのプロジェクトの件で竹宮瞳に会った事が、起因しているのは、ジュン自身分かっていた。竹宮の後姿を忘れたかった。


 体がそれに慣れ始めていた。ジュンの手や口が自分の体に接してくると自然と声が漏れた。ジュンの優しさの中で、自分の体が自然と反応している。やがて、ジュンが強く自分自身を入れてくると激しく突き上げて来た。

 奈緒はたまらなかった。初めてジュンと知り合ってからもう一年以上が立つ。あの旅行に行く前は、こんなこと想像もしていなかった。でも今は、体がそれを求める時があるようになっていた。体を突き抜ける快感の中で、遠くでジュンの声がした。

「奈緒、今日大丈夫」

奈緒の頭は、酔いと心地よさで、少しだけ自制心が甘くなっていた。本当はいけないんだけど・・酔いと気持ちの良さが、冷静さを隅に追いやっていた。

「うんいいよ」

と言うと思いきりジュンは自分自身の気持ちを出した。

 ゆっくりと自分の上にかぶさって来ても、体重はかけてこない。頭を下から支えるようにしながら耳元で

「奈緒、ありがとう。今日何か、たまらなくて。奈緒と会うまでは、そんな感じなかったんだけど、一緒に食事をしていたら急に、奈緒を抱きたくなって」

「うん、いいよ。ジュンが私をほしい時は、私もそう思う時だから」

そう言って、彼の背中に手を回した。


 奈緒を送っていったのは、十一時半を少し回っていた。タクシーで家がある路地の手前まで行くと一緒に降りた。

路地を少し入ると奈緒が、右と左を見て、ジュンの手を引きながら脇道に入り顔を見ながら目を閉じた。ゆっくりと唇だけを合わせた。少しだけそうしているとゆっくりと奈緒が離れて

「ジュン、ありがとう。もう家に入る」

そう言って体を離した。


ジュンは、家の玄関を入る奈緒を遠目で確認すると自分も駅の方に戻った。奈緒は、ジュンの後姿を、ドアを開ける前に少しだけ見ると体を家の中に入れて、ゆっくりとドアを閉めた。静に玄関を上がろうとすると急に人影が現れた。

「奈緒子、何時だと思っているの。連絡もせずに。こんなに遅くなるなら電話位入れなさい」

きつい声で言う母親に

「お母さん、ごめんなさい」

下を向いたまま母親の横を通り過ぎようとすると

「待ちなさい」

左手を掴まれた。母親の目がじっと自分を見ている。母の視線は、瞳の奥まで見つめるように深かった。視線を離せないままに母親の顔を見ていると

「奈緒子」

それだけ言って娘の体を優しく抱擁した。少しの間そうしているとゆっくりと体を離して、

「お風呂入る」

気付かれたような気がした。頷きながら

「うん」

と言うと二階の自分の部屋に行った。お母さんにばれたかな。そう思いながらドアを開けた。


既に、十二時近かったので経堂の駅からタクシーを拾うと用賀の家まで帰った。ジュンの家は、駅から少し離れた住宅街の為、この時間になるともう人通りはなかった。タクシーを降りて、玄関を開ける前、腕時計を見ると午前〇時一五分。

信号のつながりも良かったし、道路もすいていたからかなと、思ったより早く着いたことに安心しながら、ドアを開けた。このくらいの時間なら仕事がら、たまにあることだった。何気なく、

「ただいま」

と言って、玄関を上がると父親が風呂から出てリビングに居た。

「今帰ったのか。遅かったな」

特に気にも留めない言い方にリビングに顔を出すと、父親と母親がまだ起きていた。父親が、自分の顔をじっと見ると、少し顔を笑わせながら

「淳、さっぱりしているな。風呂でも入って来たのか」

自分の行動を見透かされた様な強烈な一言に一瞬どきっとすると

「ほう、そうか、そうか」

と言って、お母さんの方へ顔を向け、にやっとした。

「えっ、なんで。お母さん、お風呂入る」

「もう、あなただけですよ」

そう言うと母親も少し顔が笑っている。なんだと思いながら自分の部屋に戻ろうとすると、リビングで両親が聞こえない声で話していた。

何なんだ。あの笑いは。分かる訳ないし洋服を脱いで、お風呂の入口の左に置いてある洗いかごに今日来ていた洋服を入れた。

 さっき奈緒と一緒に入ったけど、まあいいや。そう思いながら両親の手前入ることにした。

もう一度一通り体を洗い、湯船につかると、やっぱり家の風呂はいいな。当たり前の事を思いながら湯船に少し浸かった後、風呂から出てバスタオルをタオル賭けから取ろうとした時だった。えっと思った。

 明らかに自分が思い切り知っている匂いがそこに有った。奈緒の匂い。自分の鼻がお風呂でリセットされたことで、洗いかごにある洋服の匂いに気が付いたのだ。自分のシャツに付いている奈緒のオーデコロンの匂いだった。

 両親にばれたか。そう思ったが、もういいかと思うとタオルを体に巻いて自分の部屋に戻った。


「では、始めよう。山之内、全体スケジュールを出してくれ」

柏木部長の指示に、自分のPCから共有フォルダに格納しているプロジェクトスケジュールを壁に組み込まれているスクリーンに表示した。

 柏木が、ミーティング参加者に、海外展開するシステムのカテゴリ毎の進捗を説明していた。

「いよいよ、来月から、シンガポールと導入の為の調整に入る。前段、テレカンで説明後、具体的な内容を現地で説明する。先発メンバーは、山之内、竹宮、後藤と私だ。向こうでの具体的な役割は、これから説明する」

 柏木の話にもうそんな時期かと思っていた。このプロジェクトが始まってから二か月。移行プロジェクトだが、実働は現地で行う為、ジュンは、自分のパートの資料の英文翻訳とシンガポールの担当者との打ち合わせに毎日追われていた。実際、奈緒と会わなくても帰宅が二時を過ぎることも多々有った。


「奈緒、来週末からシンガポールに行って来る。最初は一週間だけだ。僕がいなくても寂しがるなよ」

冗談っぽくいうジュンに

「やーっだ。絶対寂しがってやる。早く帰ってこないと私もシンガポール行っちゃうよ」

「えーっ」

「ふふっ、うそ。早く帰って来て」

「うん」

目の間の琥珀色の液体が、氷の肌とすれ合うように触れ合っているのを見るとグラスを口元に持って行った。

 横目で、隣に座る奈緒を見ると、じーっとほとんど水に近い透明感の漂った水割りの入ったグラスを見つめていた。


 ジュンは、翌週土曜日に仲間と一緒にシンガポールに向かった。

ジュン、行っちゃた。一週間か長いな。そう思っている、その時だった。奈緒は、いきなり何とも言えない気持ちの悪さを感じトイレに駆け込んだ。


ジュンとの関わりの中で奈緒は、自分の体に変化が現れた事を知りました。次回は新たな序章への入口になります。お楽しみに。

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