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恋はかげろうの中に  作者: ルイ シノダ
12/26

第四章 戸惑い (1)

ジュンは、瞳とのデートの後、奈緒と会う。彼の手に残るオーデコロンの香りに奈緒は、疑問を持つが、否定したジュンに素直に信じます。

第四章 戸惑い


(1)


「あっ、ジュン。もう二時半だ」


ジュンは、瞳と会った後、表参道方向に歩いて行った。既に昨日、体を合わせたことで瞳は、ジュンの手に触れる事に抵抗はなかったが、流石にそこまでは、しなかった。心の中で大人としての自制心が有ったのかもしれない。

渋谷から宮益坂を昇り、青山通りを通って表参道まで来ると

「ジュン、ちょっと寄りたいところがあるの。いい」

「えっ、いいよ」

そのまま何も言わない瞳に

「どこか行きたいところあるの」

「うん、ヒルズ」

「いいよ」

渋谷方向から表参道の交差点を渡り、左に表参道を降りるように歩いた。ジュンは、今の心の居心地の良さを感じていた。

「もう少し、一緒に居たかったな」

名残惜しそうに言う瞳に

「ごめん」

その後、何も言わないジュンに一瞬だけ、疑問を感じたが、

「仕方ないよ。私もそろそろ今日は帰らないと」

朝の言葉とは裏腹に母親の事を思うと、早々に家に戻らなければと思って頂けに、心の中では上手く整理が付いていた。

 

瞳と別れ田園都市線に乗った。ドアの側に立ち、窓に映る自分の顔を見ながら、奈緒への思いは変わらない。でも・・。心の中に新しく入って来た瞳。何故か、別々に考える事が出来ていた。少し前なら奈緒に申し訳ないという気持ちが、瞳への行動に制限、冷静さを保つことが出来ていた。しかし昨日の事で、瞳の事が心の中に強く占めるようになった。今のままでは・・。この先にある見えない不安が、心の中にもたげながら、それから逃げる様に考え無い様にしていた。池尻大橋でUターンした。

瞳は、頭の中で仕方ないか。もう少し一緒に会っていたかったな・・。と思うと初めて体を許した相手を思いながら自分も東横線ホームに行った。

今は、地下鉄になっている。ジュンを送って連絡通路という手もあったが、そこまではと思い、地上で別れるとそのまま、自分もヒカリエ側から地下に入った。


 ジュンは、洋服に瞳の匂いが付いていないかちょっと気にしたが、手をつないだだけだと思うと、そのままにして、地上に出た。階段を昇り、すぐに左にUターンすると案の定、奈緒は、待っていた。

時計を見ると三時ちょっとすぎ。いつもながら、遠目でも通りすがりの男が、奈緒を見て行く。ジュンに気が付くと思いきり微笑みながら近付いて来た。

「ジュン、二日酔い治った」

と言って、いきなり額に手を当てた。

「奈緒、風邪じゃないから」

「なにを言っているの。二日酔いは、顔も頭もぼーっとするでしょ。風邪と同じ症状よ」

奈緒の知識を考えれば、当たり前のことだと理解する、とジュンはそのままにさせた。周りの人が何しているんだろうという顔をしている。

「うーん、全然ないね。もう大丈夫だね」

ちょっと首を横にひねりながら納得すると

「じゃあ、映画見よ」

「えっ、今から何かあるの」

「うん、ジュンが三時からと言ったので、この時間に見れる映画探しておいた。ジュンも前に見たいと言ってたやつ」

「あっ、ほんと。じゃ、行こう」

そう言って、スクランブル交差点の方を向いた時、奈緒が、自分の左手を掴んだ。やばっと思ったが、もう遅かった。

「どうしたの。手をつないだだけだよ」

いつも歩くときは手をつなぐ事に何も違和感がないはずなのに、ジュンのしぐさに不思議そうに言った。

「えっ、別に。吊革捕まっていた手だから」

「わあ、ありがとう。じゃあ、映画館に着いたらすぐに手洗いしよ」

自分の事を思って行ってくれた事だと思った奈緒は、そう言って映画館に向かった。

道玄坂を昇ってすぐに左にある映画館だ。インターネットで予約が出来る。今日は窓口でチケットを買うと地下に行った。

「じゃあ、手を洗ってくるね」

奈緒の言葉に頷くとサービスカウンタで何を飲もうか考えていた。

 奈緒は、手洗いついでに先に用を済ますと、手を洗おうとして、えっと思った。オーデコロンの匂い。それも安いやつじゃない。手を洗おうとして自分の右手から匂った明らかに高級品と分かる女性用オーデコロンの匂いに、奈緒は一瞬だけ考えると手を洗った。

そして、ジュンの側に行くと気が付かない振りをしてサービスカウンタで飲み物を頼み劇場内に入った。


「ジュン、今日、家から来る時、オーデコロンの強い人いた」

質問の意図を掴めずに少し酔った頭で

「そんな人いなかったよ。どうしたの」

「ううん、何でもない。ちょっと会った時、一瞬、ジュンから匂ったから」

あえて手とは言わずに言うと

「気のせいだよ。周り一杯匂う人歩いているし」

「そうだよね」

そう言うと、奈緒は、頭の中に明らかに矛盾を感じながら食事をしていた。


「ジュン、今日は」

意味が理解できるので

「うん、今日は家に帰ろう。送っていってあげる」

「でも、まだ、九時だよ。ジュンと会って、たったの六時間だよ」

 奈緒は、昨日の夕方、別れた後の時間と今日三時からになった時間を考えると、明日の朝まででも良い思いでいた。

「分かった。ねえジュン、次の休みの日、私の家に遊びに来ない」

ジュンを真面目に見ながら言う奈緒に

「いいの」

「うん、もう良いの。しっかり紹介して二人の事、知ってもらおうと思う。ジュンは」

少しの間の後、

「うんそうしよう。我が家も時間調整するよ」

「本当。嬉しい。じゃあ、今日は、帰ってあげる。送ってね」

そう言うと目の前のビールをほんの少し口にした。ジュンは、生ビールの後、お銚子を二本飲んでいた。


月曜日、ジュンは出社するとPCを立ち上げた。そして、一度トイレに行って手洗いとうがいをすると、コーヒー自販機でホットコーヒーを買って席に戻った。

家で自分要れるコーヒーとは比較にならないが、最近の自販機は、一杯ずつミル挽きになっているので、十分に美味しい。

 ツールバーからメールソフトをクリックすると受信トレイが数値をカウントした。わあ、入っているな。新プロジェクト関連でシンガポールからのメールが半分ある。後は、国内のメールだ。取りあえず、ヘッダーだけを見ると瞳のメールが目に留まった。なんだろうと思って開けると

<プロジェクト通達Ⅱ。山之内さんへ 本日昼食時、社外打ち合わせを行います。 時間一三〇〇・・・ 竹宮より>

メールを見て顔を緩ますと

<下記の件 了解 山之内>と返信した。

「おい、月曜の朝から、何ニタニタしているんだ」

声の方向に顔を向けると

「あっ、柏木部長」

「新プロジェクトのトランスファ。上手く行っているようだな。向こうのディレクタからもう一度、お前に来てくれと連絡が有った。来月になるが予定しておいてくれ」

「えっ、でも向こうからのメールでは、私が行くような状況にはなっていないようですが」

「なに、本番環境移行前のテスト環境上で、検証確認のポイントを現地の実機で見てほしいと言っている」

逆らえるはずもなくジュンは、

「分かりました」

と答えると

「そうだ、竹宮にも行ってもらう。今度のプロジェクト進捗会議で発表する」

今度は何も言わずに頷くだけにすると柏木部長は席に戻った。


「そっちは、聞いている」

スパゲティをフォークに巻きながら竹内は言うと

「プロジェクトの事」

「うん、またシンガポールに行って来いって。この前のメンバと同じそうよ」

「えーっ。今日の朝、部長から聞いたけど・・。部長達、絶対自分達向けの出張だな。なんかおかしいと思ったんだ。向こうのメンバとやり取りしている中に、僕が行かなければいけない内容なんてどこにもないし。ちょっと仲のいい奴に聞いたら、ジュンが来てくれるのは嬉しいよ。程度だもの」

「やっぱりなあ。でも私はいいや。向こうに行ったら、あの二人は仕事以外どこかに行くから、ずっと山之内君と一緒に居れる」

スパゲティが喉を通る途中に聞いた言葉に一瞬、咽そうになると、急いでグラスの水を飲んだ。その姿に

「ジュンは、いやなの」

「竹内さん、山之内」

「あっ」

と言うと

「どうなの」

「嬉しいに決まっている」

微笑みながら今度はゆっくりとスパゲティを口にした。

会社に戻る時、他の人に分からない様に竹宮とは別の時間に店を出る。竹宮が出てから、五分後、自分も店を出ると、奈緒の事が、すっと頭の中に入って来た。最近、何故か竹宮と会う時は、奈緒の事は、心の片隅にしまい込む様になっていたが、シンガポールへの出張という事で、いやでも奈緒の体に起こった出来事が蘇って来た。どうかしなければいけない。と思いながら結論を先延ばしにする自分自身をどうする事も出来ずにいた。


 次の土曜日、ジュンは、奈緒の家に行った。瞳とは次週の日曜に会う予定にした。奈緒の事だから土曜日家に行けば、次の日曜日会いたいと言うのは目に見えている。そう思っていた。

 用賀の駅から三軒茶屋まで出て世田谷線に乗り、山下から豪徳寺で乗り換えれば隣駅だ。一見、遠くに見えるが三〇分も掛からない。経堂の駅を降りると改札に奈緒が待っていた。

「ジュン」

階段降りて来たジュンの姿を見るなり、周りに聞こえるほどの声を上げながら手を振って改札の外で待っている。淡いクリームのワンピースに白ハイヒールの靴を履いている。

あれれ、参ったな。しかたないか。そう思いながら奈緒の待っている改札を通ると、いきなり左手を握られた。

 そして、ジュンの顔を見ると、ふふっと笑って

「いらっしゃい」

と声を掛けた。ジュンは、笑顔で

「はい、来ました」

と言うと奈緒は、さっとジュンの左側に来て手を握った。ジュンの顔を見上げるようにすると

「ジュン、何となく恥ずかしいな。でも嬉しい気持ちも一杯。ふふっ」

そう言うとジュンを引くように歩き始めた。


「お母さん、ただいま」

その声に玄関の上り口来た奈緒の母親は、上り口で顔を笑顔にしながら、ジュンの目をしっかりと見ると

「初めまして。奈緒の母です。上がってください」

そう言って、笑顔にしたまま、廊下を奥に戻った。奈緒の顔を見ると

「ごめん、お母さん、ジュンが来るのを楽しみにしていたの。私何も言わなかったから」

緊張していた顔を笑顔に戻すと

「うん、いいよ。でもちょっと緊張した」

その言葉に笑顔になると

「ジュン、上がって。私の部屋に行こう」

「えっ」

と言うと

「うん、いいの。今日は、私の家に遊びに来たことになっているから」

「でも、挨拶だけでも」

「言いましたよ」

「えっ、お父さんは」

「出かけた。ゴルフだって。私の彼には、興味ないみたい」

奈緒の言葉に心がズキッとしたが、

「うーん、よくわからないけど」

実際に、分からないし、奈緒の父親と正面切って顔を見合わせるだけの勇気はなかった。

奈緒に付いて廊下を歩き、左側にある階段を上がると左側にドアが、三つあった。

へーっ、結構広いんだな、つい自分の家と比較しながら感じていると

「ジュン、ここ」

と言って、一番奥のドアを開けた。八畳の部屋に更に左奥に階段がある、ロフトに通じているという感じだ。

「入って」

と言うと、奈緒は、少し恥ずかしそうな顔をした。

「どうしたの」

ジュンの顔を見ながら少し頬を赤らめながら

「だって、女の子が自分の部屋に男の人を入れたのよ」

と言うと急に

「ねえ、ロフトもあるの。後でね」

と言って、東側にある窓を開けた。

「へーっ、スカイツリーや新宿、有明方向も見えるんだ」

「ねっ、素敵でしょ。ジュンの家の方は、あっち」

と言うと右手で方向を指した。

ジュンは、そんな奈緒の嬉しそうな顔を、景色を見る振りをして横目で見ると、本当に嬉しそうだなと思った。

 二人で窓から見える景色を見ていると、ほんの少し奈緒がジュンによってきた。体を寄せるようにすると景色を見ながら

「ジュン、このままずっとこうしていられるといいね」

あえて、ジュンの顔を見ないで、窓から見える景色に視線を投げながら奈緒は言った。


期待があった。うん、いいよ。これからもずっとこうしていよう。という返事の期待が。

ジュンは、黙っていた。何の気なしに聞こえた奈緒の言葉に気にもせずにいると

「ジュン、ねえ」

「えっ」

「えっじゃない。もう」

そう言って、少し怒った顔でぷいっとした顔をすると、ジュンは何かしたかな。そんな事しか浮かばなかった。本当は、景色に夢中であまり聞こえていなかっただけのことだが。

奈緒の母は、優しく奈緒のスティディな友達として応対した。だが、奈緒の微妙な変化に気づいていた感じがあった。

山之内さん、お仕事してどの位とか、ご両親は、どの様なお仕事をとか、単に自分の娘お友達が遊びに来たという感じではなかった。

やがて、午後二時位になると

「お母さん、そろそろ外に出かける。ちょっと今日も遅くなるからね」

奈緒の言葉に

「分かりました」

そう言いながら、視線はジュンを見ていた。まるで、あなたは責任とれるの、うちの娘に。という視線だった。

ジュンは、玄関で靴を履き振り向くと

「お邪魔しました」

そう言って奈緒の顔を見た。

「じゃあ、お母さん行って来るね」


駅に向かう途中で、

「結構緊張したな」

「えっ、なんで」

「なんでって。奈緒のお母さん結構厳しく見ていたような」

歩きながら、自分の左を歩くジュンの顔を見ながら

「ふふっ、そうかもね」

そう言って、自分の左手でジュンの右手を握った。



奈緒の家に行き、母親とも挨拶をしたジュン。彼の態度に奈緒は、安心感を覚えますが、ジュンは心の中に瞳との関係も大きく占めるようになりました。

ますます、絡まって行く心の中でジュンは、どうすのでしょうか。

次回もお楽しみ。

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