始まり。
今、俺は階段を上っている。ということは、さっきまでいた場所は地下だったということになる。まあ、さっきまで歩いていて窓が全然なかったことに違和感を抱いたが、予想通りだったと言えた。
歩いていて、よく白衣を着た研究員のような人たちとよくすれ違った。
スーツを着た人も居たし、黒い征服を着た人も居た。
みんな身分証明を左胸につけていて、特に胸が大きいかわいい女の人に対してはちゃんとしっかり見た。横にいるレイナさんになんか突っ込まれるかなって思ったけど、冷ややかな目線を送られるだけで終わった。このやり取りが3回程あってしまったため、今なんとなく彼女に質問をぶつけにくい。
実はいろいろ話を聞きたかったけど。
フロア1という看板が見えたところで俺らはやっと階段から解放された。
壁はまるで何かの生き物の口のようだった。牙まで再現されている。
「ねえレイナさん?ここの壁はなんでライオン?・・・いや居ないかな?ともかくなんでこんな壁なの?」
思い切って質問してみた。顔を少し赤らめて、彼女の顔を見る。
対して、彼女はそっけなく言う。
「それはこの通路が、『アカツキ』の通路だからです。アカツキというのは、見てお分かりの通り、このような顔をしたこの国の守り神なのです」
どうやら、ライオンによく似た生物のようだ・・・。
「へえ・・・。守り神なんているんだね・・・。もしかして今向かってる神殿って、その『アカツキ』を祀ってるのかな?」
「そうですかね・・・。まあ、この世界にはたくさんの神が居られ、絶対神を信仰している人々が昔と比べたら、かなり減ってきました・・・」
ずっと無表情のように見えたレイナさんだったけど、今の言い方は明らかに彼女自身、悲しんでいるのだなって分かってくる。たまらず、俺はこんなことを言う。
「ねえ、俺・・・元の世界では一応、『キリスト教』っていう、当に絶対神を信じてきたんだ。でもさ、今となっては『不良クリスチャン』さ」
「?」
あ、他国・・・、いや異世界の神様の話をされてもわかんないよな。普通。
大神殿は、そこからエレベーターに載っていった。しかし、2階ですぐに止まり、俺らはろうかに出る。
「はははっ、修希どの。じつは神殿へは外からでも楽にいけるのですよ」
これはあのメガネの男だ。
「修希、紹介するよ。あそこ、みえるか?」
久しぶりに彩都の声を聞いたような気がする。彼はガラスの貼っていない、覗き穴のうようなやつの、そこから見える景色はここからでも絶景なのだろうと思える。
俺は言われたとおり二階から、この建物がどういうところにあるか見渡す。
陸上競技でつかうグラウンドはともかく、サッカーゴールがあるので、この世界でもサッカーのような球技はあるのだろうと思った。そしてこの建物を覆うように塀が佇んでいる。
いまでも何人かの人が、・・・同じ服装をしているな。どっちかいうと、制服みたいだ。ブレザーなんて、普段あまり着ないだろう。俺はさっきこの世界のおひさまとご挨拶したばっかりだけど。
逆側を覗いてみれば、この通路がやがて左に向かっていき、また左に曲がっていき、そしてまた左へ。俺らが降りたエレベーターのところへ出るのだろう。
中庭は、野球場が2つくらい入ってしまうのではないかという広さで、真ん中に芝生、その芝生の脇を、北海道でよく見かける『シラカバ』のような白い幹の木が何本も生えている。
ただ白樺だと春に花粉症が悩みの種だが、ちょうど葉っぱのしたにベンチがそれぞれ置かれている。
ここで、レイナさんか彩都のどちらかに次の質問をすべきかすごく迷った。些細なことのように思えるが、彩都はどうやらこの世界になんやら関わりがあるようだ。けれど、俺は今レイナさんというこの国・・・この世界の人々の中で初めて仲良くなれそうな人がいる。
ここでさらに仲良くなっておきたい。
結局、俺の首はレイナさんの方へ向かっていた。
「ねえレイナさん。ここって何?学校かなにか?」
レイナさんはクールに、感情をあまり込めず言う。
「そのとおりですね・・・。しかもこの学校は・・・」
「『ある特別な子』しか入れない、だよね。レイナさん?」
アーテルさんが代わりに答えた。俺としては別に誰が答えても良かったんだけど・・・。
「・・・・・。あなたと彩都様も、もちろんこの『施設』に選ばれたから、ここにいるわけです」
「それって異世界で平和に暮らしていた少年を、『特別だから』という理由でいきなり家族や友達、恋人から引き離しても笑って許されるくらい『特別』ってことなの?」
家族って離れて初めてありがたみがあるのだと、今感じた。
これからいろんな場所でこんな話を聞くだろう。『あなたは私の家族なんだから』とか『たったひとりの家族、兄弟なのだから』というのを。
俺はそのたったひとりもいないのだけれど。
俺の問いに対し、答えようとしたのはアーテルさんだった。
「聞いて欲しい。実はこの世界・・・・」
「待ってください」
「レイナさん?」「レイナ?」
なんで彩都の声がアーテルさんと綺麗に重なったのかはわからないけど、まあそれより俺は真実を知りたい。でもなんであのままアーテルさんに喋らせなかったんだろう?(しかも呼び捨て!?)
「レイナさん?」これは俺だ。
「私に言わせてください、彩都様。修希殿。この世界は14年前から現れた魔物によって、滅びてしまうかもしれないのです」




