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第29話 月の聖女は会いに行く



「――ラスティさんとは本当に、ただの元パーティメンバー……なんですよね?」


 リアは俺の真隣で不安げに……しかし、鋭い眼差しでそう言った。


「……どういうことだ? 普通にただのパーティメンバーだけど……」


「本当……ですか?」


「うん」


 数秒間、リアと視線が交差した後……ほっとした表情で彼女は胸を撫で下ろした。


「良かった……特別な関係とかでは無いんですね……! てっきり私、前にアスタさんが言っていた『好きな人』がラスティさんなんじゃないかって思って……」


「……俺の好きな人がラスティ……!? 俺、別に男色じゃないぞ?」


 すると、リアは不思議そうに首を傾げた。


「男色? どうして、そうなるんですか? だって、ラスティさんは可愛らしい女性ですし……」


「あー……」


 数秒後、全てを理解した俺は笑わずにはいられなかった。


「ど、どうして笑うんですか!? だって、好きな人は高貴な人って言ってましたし……ラスティさんが好きなんじゃ……」


「い、いや……だって……ラスティ、男だぞ?」


「……ふぇ?」


 リアは目を丸くし、時間が止まったように表情が固まった。


「男……男……!? ら、ラスティさんが……!? 冗談ですよね?」


「いや? マジで男だよ?」


「嘘じゃ……ない……そんな! あんなに可愛らしい見た目してるのに男の人なんですか!?」


「おう。一緒に風呂も入ったことあるし、確証もあるぞ」


「そ、そんな……ううっ、じゃあ、私のさっきの悩みは一体……」


 リアは顔を真っ赤にして、枕に顔を埋めた。


 確かに、ラスティは一見、女の子みたいに見えるよな……。

 そうか、リアがラスティを警戒していたのは俺とラスティが結ばれて一人ぼっちになるのを恐れたからか。


「えっと……誤解は解けたみたいだな?」


「はい……すみません、変な誤解をして不機嫌になってしまって……ラスティさんには後で謝らなきゃですね……」


 リアは申し訳なさそうに、しょんぼりと顔を俯かせた。


 すると、ボソッとリアは呟いた。


「……でも、これで心配は無くなったんですね」


「心配?」


「いえ……何でもないです――よっ!」


 リアは突然、俺の胸の中に飛び込んでくる。


「っ!? ど、どうした……?」


「ふふっ、急に甘えたい気分になっちゃいました」


 リアはそのまま俺の体に両手を回して抱きついた。


「正面から抱きついてくるなんて珍しいな」


「ふふっ、偶にはこうしてもいいかなって。だって――」


 リアは抱きつく力を少し強めると――


「――こっちの方がアスタさんの体温を感じられますから……!」


 妙にしっとりとした声色で言った。


「そ、そうか?」


 最近はリアに抱きつかれるのにも慣れてきた。

 ……が、やっぱり、正面から抱きつかれると少し恥ずかしいな。


 俺は顔をそむけながら、そっとリアの頭を撫でた。


「んっ……気持ちいいです……」


 そう言って目を細めるリアはまるで猫みたいだ。


 思わず庇護欲がくすぐられる。


 守りたい。

 幸せにしてあげたい。


 だからこそ――俺にはやらなきゃいけないことがある。


「なあ、リア……俺さ、冒険者に戻ろうと思うんだ」


「冒険者……? どうしてですか?」


「少し……事情が変わってさ。このままじゃ……世界は多分、おかしくなるんだ」


「……つまり、世界が滅ぶってことですか?」


「まあ、そんな感じ。高確率で滅ぶだろうな」


 アリシアの闇堕ちイベントが起き、偶然、アリシアは闇堕ちせずに済んだ。


 だが――聖女という存在が居なくなり、勇者パーティが弱体化したことには変わりない。

 勇者がどれだけ強くても……これからの数々の障害を聖女無しで乗り越えるのは流石に無理だろう。


 それに聖女の力を奪ったアリシアの義両親もどうにかしなきゃいけない。

 多分……放っておいたら大変なことになる。


「っ……だ、だとしても、そんなの勇者様に任せておけばいいじゃないですか……!?」


 リアは目を見開き、焦った様子で言った。


「うん、俺もそう思ってたし、そうするつもりだった……けど、事情が変わったんだよ」


「っ……もしかして……私が勇者パーティから離れたから……」


 リアは小声でなにかを呟いた。


「リア? 何か言ったか?」


「……何でもないです。……でも、私は反対です。冒険者なんて危険な仕事、アスタさんにはしてほしくないです」


「……ごめん、でも俺がやらなきゃいけない事だから」


 この世界で転生者は恐らく俺一人なのだ。

 狂った運命は俺にしか戻せない。


 すると、彼女はうつむき、しばらく悩んだ後――


「……わかりました」


 苦しげに絞り出すような声を上げた。


「ごめんな、リア……」


「いえ、良いんです。……私がどうにかすればいいだけですから」


「……?」


「それよりも、やっぱり今日は私、一人で寝ますね。なんだか……一人で居たい気分になっちゃって……」


「っ……わかった」


 リアはベッドからゆっくりと起き上がり、暗い顔のまま自分の部屋へ戻っていた。

 

 怒らせてしまっただろうか。


 俺はぼんやりと虚空を見つめながら、物思いにふける。


 ラスティの誘いを断った最も大きな理由がこれだった。


 こうするしか……ないのだ。


 とりあえず冒険者に戻って力をつけよう。

 その後は……アリシアの義両親を止める方法を考えて、何かしらの方法で聖女の穴埋めをして――


 そうやって、俺がしばらく考え事をしている時だった。


 ――夜風が頬を撫でた。


 暗い心を吹き飛ばしてくれるようで心地が良い。


 ……ん? 夜風?

 俺、窓は閉めてたはずじゃ――


 俺は思わず、窓の方を振り向いた。


「――ようやく、気づいてくれましたか」


 そう言ったのは窓枠に座り、夜風に銀髪をなびかせる少女――


「アリシア……」


「約束通り、会いに来ましたよ」


 彼女は満月を背に、優しく微笑んだ。




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