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第22話 月の聖女は期待する


「んっ……あれ、ここは……?」


 目を覚ますと、そこは宿の中だった。


 ついでに言うと、誰かの膝の上だった。


「――起きましたか?」


 声に釣られて上を見上げると、そこにはシアさんが居た。


 膝枕……!?

 い、いや、それよりも今は――


「あ、アリシアは……!? あのリヴァイアサンは……!?」


「リヴァイアサンでしたら、どうやら勇者様が倒したらしいですよ」


「勇者が……?」


 何の準備もしていない勇者がリヴァイアサンを一人で倒す……?

 そんなの可能なのか?


「どうやら、アスタさんが尻尾を切り落としたお陰で、かなり弱っていたらしいですよ」


「そうなのか……?」


「ええ、それと勇者様の仲間もすぐに合流したらしく、リヴァイアサンは勇者パーティ総員によって倒されたらしくて」


「そっか……」


 なら、有り得る話ではあるか……。

 もしかしたら、勇者が原作以上の実力をつけていたのかもな。


「じゃあ……アリシアは……?」


「彼女はアスタさんを私のところに届けてきた後、どこかへ去っていきましたよ」


「どこかへ……? 何か、何か言っていなかったか!?」


「そうですね……確か、『旅に出る』って言ってましたね」


 旅……?

 どうして?

 もしかして、アリシアが前に言っていた『やりたい事』に関係しているのだろうか。


 どっちにしても、これじゃあアリシアと再び会える機会はもう……。

 こんな事なら、まだ告白してた方がマシだったんじゃ……。


「――でも、アリシアさんから伝言を預かりましたね」


「……伝言?」


「はい。『心の整理ができたら直ぐに会いに行きます』……らしいですよ?」


 もしかして、魔女関連の事実を知ったせい……だろうか。

 そりゃあ傷つくよな……。


 俺、最低なことしかしてないじゃん。


「今度会ったら、絶対に謝ろ……」


「そうですね! きっとそれがいいと思いますよ?」


「うん……」


「ついでにアリシアさんが言うことには全部、頷くといいと思います!」


「うん……うん?」


 なんか、変なことを言われた気がするけど……。

 気のせいか?


 俺が不思議に思っていると……シアさんは突然、神妙な面持ちで口を開いた。


「――実際の話、アリシアさんのことをアスタさんはどう思っているんですか?」


「ッ……あ、アリシアのことは……」


 好きだ……と言いたいところだが、シアさんはアリシアと親しいみたいだし、こんなこと言ったら変に思われるよな。


「……大切な人だよ」


「どうしてですか? アスタさんとアリシアさんは初対面のはずですよね」


 シアさんは小首を傾げながら、俺の瞳をじっと見つめた。

 何気ない仕草だが、彼女の赤い瞳からは『逃がさない』といった風な強い意志を感じる。


 嘘を言ったら、直ぐに見破られそうだ。


「……秘密かな」


「むっ……別にいいじゃないですか。本人には絶対に《《言いません》》し、秘密にしていますから……!」


「そう言われてもな……これは最初に本人に言おうと思ってるんだよ」


「……なら、今言ってもいいのに……」


「シアさん? 今、何か言ったか?」


「いえ、なんでもありませんよ?」


 シアさんは誤魔化すようにニコリと微笑んだ。


「それはそうと、アスタさん。時間は大丈夫なんですか?」


「時間?」


「はい。あと1時間もしたら帰りの馬車は出発してしまいますよ?」


「へっ!?」


 咄嗟に時間を確認すると、今は昼の1時だった。

 そういえば、今日の昼の馬車に乗って帰る予定なんだっけ……!


「は、早く支度しようか! 馬車を逃して1日遅れようものならリアが怒るぞ……」


「ふふっ、そうですね。リアちゃんに怒られないように早く支度しましょうか」


 そうして、俺たちは急いで支度をして馬車に乗り込んだ。


 推しに会ったり、シナリオのイベントに巻き込まれたり、大変だったが……まるで冒険者だった時のような波乱さがあり、少し楽しかったと思う自分もいた。



 ――◇――◇――◇――


【アリシアside】


「秘密……ですか」


 私は馬車乗り場でアスタさんを待ちながら、さっきの言葉を思い出していた。


 結局、『大切な人』の理由は訊けなかった。

 でも、あのアスタさんの反応……まるで……


「私の事が好き……みたいな……」


 アスタさんは必死に隠していたけれど、耳が少し赤くなっていた。


 思えば、昨日、私が『どうして私をそんなに気にかけるのか』と訊いた時もアスタさんは異常な程に焦っていた気がする。


 この瞳は嘘を見抜けるが、決して全ての真実を知れるわけではない。


「……ふふっ、まだ勘違いだと決めつけるのは早かったんですね……!」


 アスタさんの好きな人が私ならどれだけ嬉しいでしょうか……!


 自然と口角が上がっていくのが自分でもわかった。


 今からアリシアの姿で会いに行って答え合わせをしたって良かった。

 けれど今はただ、この幸せな可能性に身を委ねていたかった。

 

 でも――近いうちに絶対に答え合わせしてみせます。








 

 ――そう思った翌日、予想外のことが起きた。


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