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第1話 拾ったのは怪しげな少女




 俺が前世でやっていたRPG――『月の聖女は君と舞う』。


 主人公が勇者の力に目覚め、旅の途中で人を助けたり、悪しき者を倒したりしていく自由度の高いオープンワールドRPGだ。


 しかし――そのゲームでは『メインヒロイン闇堕ちルート』というのが存在した。


 まず、メインヒロインであり、聖女のアリシアが信じていた親と教会から裏切られる……というイベントが発生する。

 そこで主人公が救出に向かわなかった場合にのみ……闇堕ちルートに入る。


 聖女の力を奪われ、呪いで姿も変えられてしまい、何もかもを失ったアリシア。

 絶望の中、彼女は世界を呪い、眠っていた魔女の力を発現してしまうのだ。


 結果として、魔女となったアリシアは世界を滅ぼし、BADエンド。





 それだけならいい。


 アリシアは時空を移動する魔法を使い、主人公がアリシアを助けたルートにもラスボスよりも強力な存在――『裏ボス』として現れるのだ。


 魔女となったアリシアは、まさに最強。

 誰が倒せるんだよ、このボスッ! と発狂したなぁ。


 まあ――







 







「――えへへ……アスタさん……」


 ――その裏ボスは、今では俺に抱きついて、甘えてるんですけどね。


「うぐぅっ……」


 冬ならまだいいさ。


 でも……


 ――今、夏だぞ!?


 あ゛つ゛い゛い゛い゛い゛!


「頼む……離れてくれぇ……」


「ん〜……すぅ〜……はぁ……」


 おい待て、吸うな。

 俺の背中に顔を埋めて、スーハーするんじゃない!


「……明らかに起きてないか?」


「……ふふっ」


「……いや、笑ったよな今?」


「ん〜……ふふふっ」


「めちゃくちゃ笑ってるじゃん! 起きてるなら離れてくれぇ〜!」


 しかし、逆にアリシアが俺を抱き締める力は強くなる。


 無理矢理、振りほどこうとするもモブが裏ボスに勝てるはずなく、アリシアが満足するまで抱き枕にされ続けるのであった。


 本当に……なんでこんなことになったんだか。


 俺は彼女との出会いの日から振り返るのであった。





 ――◇――◇――◇――



 ――悪役に転生して、定められた運命を変えようとする。


 ――主人公に転生して、正しい運命をなぞろうとする。


 ――モブに転生して、推しヒロインを助け、幸せになろうとする。



 ゲーム転生の定石とも言える行動だ。


 どれも冒険があり、目標があり、裏には欲望がある。


 ――生きたい、最強になりたい、幸せになりたいetc……


 折角、原作知識というアドバンテージがあるだから、普通なら自身の欲望を叶えようとするものだ。


 まさか、ゲーム世界に転生してまで前世と同じようなことをする人間は居ないだろう。


 ――俺以外に。


「――残業、終わんねえええええええ!!!!」


 なんなんだよ。

 本当に、なんなんだよぉ!


 ――この馬鹿みたいな量の仕事は!


 ここは冒険者ギルド(ブラック企業)


 俺は副ギルドマスター(社畜)だった。


「副ギルマス……あと少しです、あと少しで終わりますよ……!」


 横にいる女性職員……ミーナが死にそうな声で励ましてくる。


「ミーナ、悪いな……俺の仕事を手伝わせちゃって……」


「大丈夫です、副ギルマスが大変なのに私だけ帰るなんて出来ませんからね」


「ううっ……助かるよぉ、残業は当たり前だし、クレーマーは毎日現れるし、最近は有名なギャングが街に入ってきたらしいし……正直、参っちゃってたんだよね」


「お疲れ様です……まあ、明日は週に一回の休みですから……」


「そう……だな」


 俺は霞む視界の中、必死に書類に目を走らせた。


 結局……俺は異世界転生しても特別な人間にはなれなかった。

 

 俺はゲーム『月の聖女は君と舞う』の平民の家の三男に生まれた。

 モブ・オブザ・モブである。


 当然、そんな俺には武勇の才能も魔法の才能も無かった。

 でも……俺にもかつて、テンプレみたいな叶えたい目標があったのだ。


 俺は原作知識を用いて、隠し宝箱や強力な武器が置いてある場所を漁りまくり……アイテムを駆使して冒険者として功績を上げていった。


 だが、半端者の俺は途中で命の奪い合いに疲れてしまったのである。


 20歳になった今、俺は叶えたかった目標を諦めて冒険者を引退し、副ギルドマスターとしてギルドで働いていた。


 結局、俺には安全と安定が保証されたぬるま湯がお似合いだったのである。




 ――◇――◇――◇――





「結局、日付が変わっでも仕事終わらなかった……」


 これじゃあ、前世と何も変わらないじゃないか……。

 はぁ……。


「ここら辺は治安悪いし、チンピラに絡まれる前に早く帰ろう……」


 俺は早足で家まで急いだ。


 ――その途中だった。


「ん?」


 路地裏からチンピラたちの騒ぎ声が聞こえてきた。


『――この女、顔もいいし、奴隷にして売っちまうか?』


『――そうっすね! やせ細ってますけど、ちゃんと食わせたら色々な所で需要が出るっすよ!』


「……やけに物騒な内容だな」


 気になって路地裏を覗くと、そこにはチンピラと――


 ――横たわる10歳くらいの黒髪少女がいた。


「……止めなきゃ」


 俺には才能も勇気も何も無い。

 

 けれど――日本人らしい倫理観はまだ持っていた。


「――おい、そこのお前ら。まだ幼い少女をどうするつもりだ?」


「あ? なんだテメェ?」


 チンピラどもが一斉に俺に視線を向ける。


「舐めた口効きやがって殺されてえのか?」


「いや、少しお願いがしたくてな……そこの少女を置いて立ち去ってくれないか?」


「あン? テメェ、舐めてんのか? これは俺たちが先に見つけたんだ。テメェなんかにやるかよ」


「じゃあ……交渉決裂だな」


 俺は懐から武器を取り出そうとした。


 その時、チンピラの一人が俺を指差して言った。


「――待ってくだせえ! こいつ、よく見たら冒険者ギルドの副ギルドマスター……元Aランク冒険者の『虎狼のアスタ』ですぜッ!」


「なんだと……!? 確かに、よく見れば……」


 チンピラたちは後ずさって行き――


「チッ! Aランク冒険者には勝てねえ! 逃げるぞ!」


 捨て台詞を吐いて、慌てて逃げていった。


「戦闘にならずに済んだのは幸いだったな……それはそうと……」


 俺は未だ倒れている少女に視線を落とす。


 服だけはちゃんとしている辺り、親に捨てられたのだろう。


 スラムの子なら着ているのはボロ切れだろうし。


「――絶対に許せないな」


 こんな幼気な少女を路地裏に捨てるなんて……。

 ふつふつと怒りが湧いてきた。


「……ここまで来たら、最後まで助けるか」


 体に触れて少女の状態を確認する。


 どうやら少女は、栄養失調で倒れていたようだ。


「……いや、それだけじゃない。この首の痣……呪いか? それもかなり強力だな……」


 呪いが移るなんてデマを信じる人は多い。


 恐らく、この呪いが原因で捨てられたんだろうな……。


「とりあえずは……解呪のために教会か」


 もしかしたら、併設された孤児院で引き取ってくれるかもしれないし。


 俺は少女を抱きかかえて教会へと歩き出した。


 ――その時だった。


「……ん?」


 腕の中で少女が微かに動いた気がした。


 思わず、少女に目を向けると――


「――動かないでください」


 いつの間にかに目を覚ました少女が、俺を睨み付けながら――


「さもなくば――殺します」


 俺の首元にナイフを突きつけて言った。




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