>> 前編
※タイトル通りなのでR15にしてますが、文字だけなので大したことないです。絵図を想像するとヤバいです。
前任の聖女さまに見つけられて、私は聖女になった。
平民の聖女は私がこの国では初めてのことだったらしいが、聖女とは『聖女が見つける子』だと決められているので誰も私の存在に文句を言うことはなかった。
私はキアラ。十歳の時に村から連れ出されて王都の大聖堂に付属している建物で生活している。
親と引き離すことに前聖女様を始め教会関係者の方々は申し訳なさそうにしていたが、私は兄弟が多い真ん中子で若干親の目も届いていないような立場だったので、虐待も無視もされてはいなかったが、居ても居なくても良い存在だったので家から離れることには全く何も問題はなかった。さすがに兄さんと姉さんと一つ下の弟は寂しがってくれたけど、親は自分の子供から聖女が出た優越感に喜んでいる様だった。
村の子どもたちの中にも特に仲の良かった子も居なかったし……というか、同い年の女子の中に自分が一番注目されていないと不機嫌になる子が居て、その子に何故か嫌われていたっぽくてその影響で村の子たちの中にちゃんと入れてもらえてなかったのもあって、村から離れることにも本当に何の寂しさも離れがたさも感じなかった。
私が聖女に選ばれて、村から出て行く時に村のみんなが盛大に送り出してくれたけど、その時に私を嫌っていた子が凄い顔で睨んでいたことが印象的だった。
きっと彼女は話題の中心が自分じゃないことに相当腹を立てていたのだろう。何故聖女が自分じゃなくてアイツなんだと怒っていたのかもしれない。彼女はそういうところがあるから。全く仲良くなくてもその分かりやすい性格は手に取るように分かる。かわいそうに。聖女じゃなくて。私が思ったのはそんな感想だった。
十歳で王都に来て、そこからは勉強勉強の毎日。貴族様を相手にするからとマナーの授業まであって最初は意味が分からなかったけど、1年後にその理由が分かった。
聖女は王家に縁付きする。そう代々決まっていたのだ。実際に先代聖女様は先王の弟に嫁ぎ、公爵夫人の立場にあった。王家に嫁入り先が無ければ王家筋の誰かになるらしいが、私の場合第二王子が3歳年上に居た所為で王家に嫁ぐことが決まってしまった。断れないのかと聞いたが断れないと言われ、こちらは平民だぞ、と身分を盾にしてみたがもう決まったことだからと説得されてしまった。面倒臭い。どうせ貴族の、それも女性たちから不満が出るだろうにと思っていたら既に不満を怒りに変えていた人が居た。
私の婚約者になった第二王子様だ。第二王子であるデービッド様は最初の顔合わせの時から怒っていた。
「なんで俺が平民なんかと結婚しなきゃいけないんだ!!」
私に向かってそう怒鳴ってきたので驚いた顔のまま
「なら親に言えよ」
と言ってしまった。言い返されるとは思っていなかったのか、デービッド様は私の言葉を聞いた瞬間間抜け面を晒した後に顔を真っ赤にして
「不敬だ!! この平民の首を刎ねろ!!」
と叫んで大暴れした。
できる訳がないのにそんなことで駄々を捏ねる年上の王子様に私は呆れた。そんな私の反応もデービッド様は気に入らなかったのか、私の顔を見ると今度は私に殴りかかろうとした。
だけどそんなことができる訳がない。私は聖女なので。
デービッド様は私の聖女を保護する力により振り下ろした拳が何かに跳ね返されてそのまま体ごと吹っ飛んで壁にぶつかった。そしてそのまま気を失ったので静かになった。
部屋の中には王子と聖女の婚約の顔合わせの場だったので当然その親である国王様と王妃様と私の親代わりである先代聖女様が居た。デービッド様が気を失った後のあの気不味い大人達のなんとも言えない顔は忘れられない。国王様からは
「ウチの愚息がすまなかった……」
という言葉を貰った。婚約はなくならなかった。
私が平民だからといって今まで行ってきた慣習を『平民だから』を理由に無しにすることは国民への印象も悪くなる為に、当の王子がどれだけ嫌がっても止める訳にはいかないのだろう。私としては自分を嫌っている男の側になんか居たくないけれど私自身が断る立場になかった(平民なので)。だけど先代聖女様が頑張ってくれて私とデービッド様の婚約やその先の結婚は『形だけのもの』になった。
さすがの国王様も聖女に殴りかかろうとする男が聖女とまともな結婚生活ができるとは思わなかったのだろう。私の立場は第二王子の婚約者で未来の妻だが、私は一生教会内で暮らして必要な時だけ王子の妻として人前に顔を出すだけでいいことになった。恋人を一生作れなくなったが今のところ男性にトキメキというものを感じたことがないので少しも問題を感じていない。それどころかあの第二王子と親しくしなくて良いというところにとてもホッとした。
王家は聖女を自分の手元に繋ぎ止めておきたいだけで子供が欲しいわけじゃないので、私は一生聖女の仕事だけをしていていいらしい。
聖女の仕事は結界の維持とこの国の平穏を祈ること。
王家に嫁ぐ必要がないなら無意味な勉強もしなくて良くなり、私はマナーだけを徹底的に覚えて、それ以外は自由に暮らす生活が約束された。
元々たいして物欲もなく、教会で出される食事も美味しいので、のんびりできる時間さえ貰えれば、聖女としての生活は私にはとても幸せな環境だった。
──┼──
そんな私の平穏の中に突然異物が投げ込まれた。
「キアラ! 会いたかったわ!!」
突然そう言って抱き着かれて心底驚いた。
「だ……、誰?」
そう聞いた私に、抱き着いてきた女性は心底傷付いたと言わんばかりの表情で驚いた。
「まぁ?! 少し離れていただけで親友の顔を忘れるなんて酷いわ?! 私よ! メリッサよ! あんなに仲良くしてたじゃない! 本当にキアラは薄情なんだから! 酷いわ!!」
涙を流して騒ぐメリッサと名乗った女に、私は村に居た子どもたちの顔を思い出す。メリッサは私を嫌っていた女子だ。だけどこんな顔だったっけ?
「メリッサ……なの?」
「そうよ!! 思い出してくれた?!」
「え……私の知ってるメリッサと顔が違うような……」
「まぁ酷い! 親友の顔を本当に忘れてしまったのね!! 私は昔からこの顔よ?! キアラと離れてから成長したから少し印象が違うかも知れないけれど、大人になっただけで全然私は変わってないわよ!」
そう言うメリッサの顔は、私が覚えている顔よりも確実に美人になっていた。
┼
王都の教会に突然メリッサが押し掛けてきてから私の生活は少し変わった。
メリッサが私の“親友”だと言い張る所為で周りの人たちが気を利かせてメリッサを私の側付きにしてしまったのだ。最初の数日はメリッサはお客様みたいなものだったのに、気付けばメリッサは元々居た私専属の侍女の立場を押しやってそこに居座ってしまった。『幼い頃からの親友だから、私の方がキアラのことを知っている』、そう言って私の周りから人を遠ざけているようだった。
「私たちって親友だったっけ?」
そう聞くと直ぐにメリッサは泣いて騒いだ。
「なんでそんな酷いこと言うの?! 聖女になったら昔の友達はもう要らないってこと?! 王都に出たらそんなに偉いの?! キアラはそんな子じゃないでしょ!!」
気付けば私が悪いことになっていた。
「幼馴染は大切にしなきゃ」
「心配してここまで来てくれた親友は大事にしなきゃダメよ」
「聖女になっても平民だった頃の意識はなくしちゃ駄目だ」
「自分を愛してくれる人は大切だよ」
「王都に出て来て気持ちが大きくなっちゃったんだね。自分の生まれが辺境の村だったとしても、それを恥だと思っちゃいけないよ。それは傲慢な考え方だ」
「聖女なら仲間にこそ親切にしなきゃ」
みんな私が何も言ってないのに色々言ってくるようになった。親友どころか友達でもなかったはずなのに、それを聞くことすらダメなのか? なんだか面倒臭いことになってきたぞ?
そう思っていた私にメリッサが近付いてきた。
「ねぇキアラ。私アナタにプレゼントがあるの」
「プレゼント?」
「そう。プレゼント!
喜んでね。私とお揃いよ!」
そう言ってメリッサは2個の腕輪をポケットから出した。銀色の腕輪は全く同じデザインの細いリングだった。よく見るとそれぞれに石が一つ付いていた。赤と緑。そして赤色の石の付いた腕輪をメリッサは私の腕に勝手に着けた。
「こっちはキアラに、そしてこっちは私の」
お互いの左手首に腕輪を付けるとメリッサは自分の左手で私の左手を握った。
「これで私たち、“ずっと一緒ね”!」
メリッサがそう言うと腕輪の石がどちらも光って、そして銀の腕輪は私の腕の太さに合わせてサイズを変えて、完全に固定されてしまった。
「えぇ〜……何これ?」
腕から取れなくなった腕輪に私は不満を漏らす。でもメリッサは凄く良い笑顔で
「腕輪よ。バカね」
と笑った。
「もう二度と外せないわよ。アナタと私はこれで一緒。アナタは私で、私はアナタ。この意味分かる?」
意味のわからないことを言い出したメリッサに私は顔をしかめて見返した。
「……何言ってるの?」
そう聞くとメリッサは人の悪い笑みを浮かべてフフフと笑った。
「直ぐに分かるわよ、おバカさん♡
アナタが間抜けで良かったわ」
そう言ってメリッサは立ち去った。性格が悪いと思っていたけれど思っていた以上に意地が悪くて苛立った。
「間抜けじゃないわよ。何事も“気にする必要がない”のよ、私は」
だって聖女だから。
メリッサの居なくなった方を向いて私は不快感を吐き出すように呟いた。
先代聖女様はもう居ない。
寿命で天へと帰られた。
だから今、“私”を理解できるのは私だけ。
聖女をどうするかを決められるのも私だけ。
そのことに気付いているのも“私”だけなことに、私は少しだけため息を吐いた。
──┼──
変わらない毎日の中で、小さな違和感は少しずつ広がっていった。
最初はいつも顔を合わせている人たちの態度。いつも笑顔だった人の笑顔が小さく曇り、そして引き攣り、次に愛想笑いへと変わった。
いつものお勤めのお祈り。
それが終わるといつもお疲れ様ですと言ってくれていた人が突然それを言わなくなった。そして次に口を開いた時には
「疲れたふりがお上手ですね」
だった。そもそも私は1度も祈りで疲れたことがないので本当に何を言っているんだこの人は? という顔になった。そんな私の表情が何かを表しているように見えたのか、その人は
「……やっぱり。いつも演技だったんですね……」
そして私から顔を背けて「最低……」と呟いた。
えぇ〜……、となった。この人本当に何を言っているんだろうと。だって私は最初から“疲れてない”のに、そんな私に毎回一方的にお疲れ様でしたと言っていたのは目の前の人なのに、この人の中では『聖女が今まで疲れたふりをして自分を騙していた』ということになったらしい。訳が分からない。え? 何? 疲れてないのにお疲れ様と言われたら毎回訂正すべきだったの? 疲れてないから言わないで、って言うべきだったの?? それをしなかった私が嘘吐きなの?? どうやら私を軽蔑してしまった人を前に私は混乱した。
しかしそれはその人だけでは終わらなかった。
「あの……、本当に祈られているのですか……?」
そんな、説明が難しい質問から始まり──当然祈ってはいるけれど、その祈りが目に見える訳ではない上にお祈りをする場所は祈りの場と決まっていて、人目がないので説明して信じられるのかお前はという疑問が浮かぶ──
「先代が貴女を選んだんですよねぇ……」
「聖女って何で決まるんですか?」
「力の証明ってどうやるんだ?」
「祈ったふり……なんて……、されてませんよねぇ……」
なんて言われて遂には。
「お前、本当に聖女なのか?」
と直球で聞かれた。なので答えた。
「えぇ、そうですよ。
でもアナタが違うと思うのなら、それもまた“事実”なのでしょうね」
と答えた。
私は聖女だけれど、それを違うと思う気持ちもまた尊重されるべきなのだ。
その時の周りの反応と言ったら。驚き、憤慨、苛立ち、焦り。欲しかった答えじゃなかったことが一目で分かった。この時一人でも私に怒りをぶつけて暴力に出ていれば、この場に居た皆は私が聖女である証拠を見れただろう。聖女を保護する力により私は護られているので、物理的な危害が出れば目に見えて分かる。暴力を振るった人は自分の身体でその力を体験できる。
でも悪意は目に見えない。
私は自分に向けられた悪意には何も対応できないので、何もすることができない。聖女であると皆に証明するのは、とても難しいのだ。
そんな悪意が向けられる日々が続いたある日、遂にそれに終止符が打たれた。
私の形だけの婚約者であるデービッド様が腕にメリッサを引っ付けて私の前に現れたのだ。
「キアラ! よくも今まで俺たちを騙していたな!! 聞いたぞ! 本当の聖女はここにいるメリッサだそうじゃないか!! 先代聖女がお前の村に行った時! お前はメリッサを眠らせて机の下に隠し! そしてその側の椅子に座って先代聖女が聖女がお前だと誤認するように仕向けたらしいな!!
まんまと騙された先代聖女がお前を連れ帰った後に目を覚ましたメリッサが、自分が本物の聖女だと騒いでも村人たちはメリッサの言葉を信じず、メリッサを嘘吐きだと糾弾して村から追い出したそうじゃないか!! その後メリッサは大変な目に遭いながら生き延びたそうだ! 全部お前が聖女を騙った所為でメリッサは死にかけたんだぞ!!
お前は聖女なんかじゃない!! 悪魔だ!! さっさとこの国から出て行け!!!」
あまりの言葉に私はただただ目を白黒させた。凄い。全てが凄い。何が凄いって私がここに連れてこられて早8年。先代聖女様が亡くなられたのが1年半前。メリッサがここに来たのが半年ほど前。今の話だと私は8年間も人々を騙し、6年間も先代聖女を騙しきっていたことになる。聖女じゃないのにどうやって? どうやって子供の私はみんなを騙していたのか凄い気になる。だけどそこは教えてくれないんだよな、こういう場合。
「本物の聖女であるメリッサが涙ながらに訴えたのだ! どんな禁術を使ったのか分からないがキアラがメリッサから聖女の力を奪ったのだと! そして私はこの目で見たのだ! メリッサが聖女の力を使うのを!!
さぁメリッサよ、皆に見せてやれ! 本当の聖女の祈りを!!」
案の定私がどうやって聖女を騙ったのかをちゃんと証明できない王子が禁術とか言ってはぐらかした。そして周りが冷静になって疑問に思う前にと畳み掛けるようにメリッサが動いた。
「はい! デービッド様!!」
そう元気に返事をすると、メリッサは膝を折って祈りの姿勢を取り、両手を顔の前で組んで目を閉じた。
「神の癒しを皆に……っ!」
メリッサが呟くとメリッサの身体から眩しい光が湧き上がり、一面を照らした。
「おぉ……これが聖女の力……っ」
「なんと温かい……」
「美しい……! 美しいぞ!!」
周りに居た人たちが口々に呟く。デービッド様はとても満足そうな顔で誇らしげだ。光るのを止めたメリッサが立ち上がり、涙に濡れた目で私を見て叫んだ。
「キアラ……っ、貴女は私の親友だわ!! でも、して良いことと悪いことがあるのっ!! 貴女のやったことはいけないことよ!! 私の力を奪って人々を騙して!! そんなに聖女になりたかったの?! そんなに目立ちたかったの?! 貴女が望むなら私……って、1度は考えたわ……でも、ダメだった! 私の力は私の物よ! それを偽って人を騙すなんていけないことだわ!!
キアラは私の親友だから、だから余計に許しちゃいけないって気付いたの!! 貴女の悪事をちゃんと叱らなきゃって気付いたの!! だからキアラ! ちゃんと謝ろう? 皆に頭を下げて、嘘を謝るの。そしたらきっとみんな許してくれるわ。
私も一緒に頭を下げてあげるから……だからね、キアラ…… もう正直になろう……」
言いながら近付いてくるメリッサに私はどうしたものかと思った。謝るのはお前だろうとも思うし、よくそんな嘘を吐けるなとも思う。でも何よりも凄いのは、この場にいるみんながメリッサの言葉を信じていること。デービッド様なんか私を射殺さんばかりに睨んできてる。これじゃあ何を言っても私の言葉なんて誰も聞いてくれないに決まってる。
試しにちゃんと否定してみた。
「私は嘘なんか吐いてないわ」
そうするとどうだ。
「もう正直になって……っ!」
「今のメリッサを見たのだろう!! いい加減白状しろ!!」
「あれを見せられたらなぁ……」
「キアラ様は何をしているのか分からない人だし」
「聖女の力を盗んでたんだろ? なら今までのが全部嘘だったってことじゃねぇか」
「聖女の力を盗むなんて……」
「平凡な見た目で騙して禁術を使っていたのか」
「垢抜けない見た目すら偽装ってことか……」
「やっぱりおかしいと思ってたんだよなぁ……あんな人が聖女だなんて」
「先代聖女様を騙すなんて……」
「やばいんじゃないか……? 無害なように見えて相当な悪女なんじゃ……」
「まさか……っ、裏で人なんか殺してないよな……?」
凄い話まで発展していて私はただただ驚いた。人の妄想力とは凄いものだ。私は聖女から暗殺者へと変わってしまったらしい。
ただただ驚いているとメリッサが周りの人に向かって叫んだ。
「皆さん止めて! キアラはそんな子じゃないの! 本当は良い子なの!! ただちょっと欲をかいてしまっただけ!! 聖女を騙って、皆から愛されたかっただけなの!!
だからキアラを責めないで!!」
泣きながら訴えるメリッサに皆が息を呑んだ。村に居た時と違って今のメリッサはとても可愛い見た目をしている。美しく、庇護欲を唆る可愛さを両立している今のメリッサが涙ながらに訴えれば、それを見た人たちはたちまち引き込まれて言葉をなくした。
皆が静まるとメリッサはゆっくりとした動きで私に近付き、私の両手を自分の両手ですくい取った。
「……ご両親からも無関心で、兄弟からも嫌われて……キアラは寂しかったんだよね……私は分かってるよ……
だから聖女になって見返したかったんだよね? でもね? それってダメなことなんだよ……? 人のものを盗っちゃダメなの。人の力を自分の力のように偽っちゃダメなの……
そんなことをしても虚しいだけだよ?」
つらつらと嘘だけを吐き出すメリッサに驚愕する。よくそんな妄想を真剣に語れるものだ。それともメリッサからすればそれが真実なのだろうか?
私は実際両親からの関心は薄かったが別に嫌われてはいなかった。あれ居たの? なんて親に言われたこともあったが、両親が私を子供の数から省いたこともなかったしちゃんと誕生日も祝ってくれた。兄や姉には目をかけてもらえていたし下の子たちにも慕われていた。まぁ一部の弟妹にはバカにされていたけれど、でも邪険も無視もされたことはない。
無かったことで同情されてもメリッサの頭を心配こそすれ自分のことで何かを思うことはない。白けている私に気づいているのか気づいていないのか分からないが、一人で盛り上がるメリッサをデービッド様が感激した表情で見つめていた。
「メリッサ……っ! あぁ、なんて君はできた人なんだ……!」
感嘆の声を上げたデービッド様が今度は私を憎々しげに睨んだ。
「キアラ!! お前は恥ずかしくないのか!? こんなにお前のことを考えてくれているメリッサに、ここまで言われて?! なんとも思わないのか?!」
その叫びに周りに居た人たちも同調するかのように私を睨んだ。
そんなことを言われましても……
私の気持ちはそれだけだった。むしろメリッサは自分を棚に上げてよくそんなことが言えるなぁと逆に感心している方だ。
何を言われたところで私が聖女なのでどうしようもない。
この茶番がどこに辿り着くのか私にもサッパリでなんと言えばいいのか困ってしまう。
ともかく。
「……私は嘘を吐いてはいません」
事実だけは伝えておいた。
しかしやっぱりこの言葉は皆の怒りを買うようで、デービッド様は額に血管を浮かべるほどに怒りの表情になった。
「まだ言うか!? この悪女が!! どこまで嘘を吐き続ければ気が済むんだ!!
お前は聖女ではない!! 真の聖女はメリッサだ!! この詐欺師め!!
お前との婚約など破棄だ!! 真の聖女がメリッサならば、俺の婚約者はメリッサだ!! 同じ平民であっても雲泥の差だな!! キアラのような女よりメリッサの方が断然俺の妻に相応しい!!!」
嬉しそうにそう言うデービッド様を見て、あぁやっぱり顔か……と思った。この王子は身分が平民がと騒いでいたがやっぱり見た目が一番気になっていたんだなぁとしみじみ思った。
メリッサは昔と違ってとても美人だ。どうやって今の顔になったのかは分からないけれど、発言を聞いている限り中身は私の知っているメリッサみたいなので、何かしらの手段を使って顔を変えたのだろう。デービッド様は身分が平民でもメリッサが良いと言っているのだから、やはり女は顔なのだと思った。
まぁ私もデービッド様が好きだったかと聞かれれば全くなんとも思っていなかったので、どうでも良いんだけれど。
そんなことをしみじみ考えているとメリッサが私に顔を近付けて小声で囁いた。
「アンタが王子様と結婚なんて分不相応なのよ。聖女ってだけでも許せないのに。
デービッド様は私が好きなの。聖女の力も私が上手く使ってあげるから、アンタはさっさと退場しなさいよ。国外追放くらいにしといてあげるからさ」
そう言われて思ったのは、『国外追放なら、まぁいいか』だった。
聖女を騙った罪で牢屋に入れられたり最悪処刑だと言われたら抵抗しようかと思ってたけど、国外追放なら別に困ることもないからまぁいいかなと思った。
私は平民だし、十歳の頃から教会にいたから隣国の教会にでも行けば何も困らない。
今の感じだと、腕に着けられたこの腕輪の影響で聖女の力がメリッサに少し盗まれている感じがする。でも全部の力を盗られている訳では無い。私自身が力を使えなくなっている訳ではないから国境に捨てられても魔物や盗賊に会っても負けることもない。
むしろメリッサに立場を譲れば聖女としてのごたごたからも解放されて、自由にできるかも……
そう思ったらメリッサの話がとても魅力的に見えた。
自分を嫌っているデービッド様のお飾りとはいえ妻をやるのは結構嫌な気持ちになっていたのもある……
聖女じゃなくただの聖職者になって、聖女の責任から解き放たれて“個人”に戻る……
あぁ、それはいいかも知れない…………
黙って考えていた私の耳に顔を近付けてメリッサが小声で囁く。
「私ね、ずっと前からキアラが嫌いだったの」
その言葉に私も首を縦に振った。
「私も。メリッサが苦手だったよ」
「はぁ?!」
私の言葉にメリッサがオッサンのような声を出したけど、私は気にせずに言葉を続けた。
「メリッサが言うように、聖女はメリッサがやった方がいいと思う。私も自分が聖女だなんて似合わないなって思ってたから」
「アンタ……」
「国外追放なら私も普通に生きていけると思うの。国を護るとか私にはちょっと責任が重すぎるって思ってたから。
メリッサには聖女を任せちゃうけど、メリッサがやりたいんだもんね? 私もやりたい人がやればいいと思うから、譲ってあげる。
聖女、頑張ってね!」
何かを言い出しそうなメリッサの言葉を待たずに私はメリッサに聖女の力を受け渡す気持ちで力を向けた。全部は上げられないけどギリギリまでは譲る気持ちで聖女の力を使う。
その感覚が伝わったのかメリッサが口を開いた。
「キアラ……」
その瞬間。
パンッ!!!!!!!!
凄く軽い音を立ててメリッサが弾け跳んだ。
ビチャッ!!!
弾けた音の後に聞こえたのは水が飛び散る音だった。




