第35話 外側の象徴
他国で庭方式が試験導入されてから、
数か月が過ぎた。
最初の報告は、穏やかなものだった。
『一定の緩和効果あり』
『中央と地方の摩擦が減少』
私はそれを読み、
静かに机へ置く。
制度は、国境を越えても、
急には変わらない。
午後、王都から公式な招待が届いた。
今度は彼宛てではない。
私宛てだった。
国際協議会への出席要請。
議題は、
『外側の象徴モデルについて』
私は封を閉じる。
象徴。
断ったはずの言葉が、
別の形で戻る。
夕方、庭に出る。
足音が一つ。
そして、もう一つ。
「呼ばれましたか」
彼が言う。
「ええ」
私は頷く。
「今度は私です」
沈黙が落ちる。
「行きますか」
私は少し考える。
以前の私なら、
断っただろう。
だが、今回は少し違う。
中央の椅子ではない。
制度の中でもない。
“外側”の立場として。
「行きます」
私は答える。
「戻らないために」
夜、書斎で準備をする。
資料は持たない。
提案書も作らない。
話すのは、方法ではなく、
立ち方だ。
翌週、国際協議会の会場。
高い天井。
整然と並ぶ席。
私は中央の壇上ではなく、
側面の椅子に案内される。
外側。
司会者が言う。
「制度の外に立ちながら、
制度に影響を与える立場について」
私は立ち上がる。
視線が集まる。
私は深呼吸する。
「私は、制度を整えません」
静かな声で言う。
「整えすぎないために、
外側に立っています」
通訳がゆっくりと訳す。
会場は静かだ。
「合理は必要です。
統一も重要です」
「ですが、揺れの余白がなければ、
長く続きません」
拍手はない。
ざわめきもない。
ただ、聞いている。
私は続ける。
「象徴になることは、
簡単です」
「ですが、外側に立ち続けることは、
少しだけ難しい」
会議が終わる。
私は中心に残らない。
すぐに席を立つ。
夜、宿舎の庭に立つ。
足音が一つ。
少し遅れて、もう一つ。
「世界があなたを象徴にしようとしています」
彼が言う。
「ええ」
私は答える。
「けれど、私は制度になりません」
彼は穏やかに言う。
「あなたが何と呼ばれても、
私は隣を選びます」
私は目を細める。
国境を越えても、
並びは変わらない。
外側の象徴。
逆説的な言葉。
私は象徴にならないために、
外側に立つ。
整わないまま、
動き続ける。
世界が広がっても、
立ち位置は変わらない。
それが、
今の私の選び方だった。
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